25 謎は全て、ひとつに繋がっているのでございます
・もう一度時間経過
1日目
昼:王子と王がガラスの棺に入った白雪姫を発見、取り合いになる。双方の城に使者を出す
夕方:7人の小人が棺を家に入れる。王と王子の一行は山の上で野営
2日目
朝:一行が7人の小人の死体を発見。白雪姫が消えていることに気づく
午前:エンゲルラント王妃が散策中に消える
〜夕方:白雪姫の捜索を行い、小人の家の中で発見する。これ以降は山の上で見張りを立てて棺を警護
3日目
朝:白雪姫の母である王妃が、着替えの時に死亡
昼:城に、王が白雪姫を発見したこと、亡骸を持ち帰るための王冠と王笏を持って来るよう、要請が入る
同じく城に、エンゲルラント国王妃行方不明の一報が入る
ナハバーラント国境の領主から援助物資が届く。その早さから使者のアリバイが成立する
4日目
朝:白雪姫と王のいる山に向かって、ヤーコプを含む一行が出発
6日目 昼:ヤーコプを含む一行が到着。その早さから、使者のアリバイが成立する
「朝のお着替えの時に急死された王妃様。あれは決して病気などではございません。
畏れ多いことですが、実の娘たる白雪姫に殺害されたものと、僕は推察しております」
「────!?」
王の目が、かっと見開かれました。
「なんということを申すのだ! 実の母を殺すだと!?
……いや、そなたを不敬には問わぬと約束したな。
だがヤーコプよ。奥が亡くなる前日の夕方に、白雪姫の亡骸は発見され、ガラスの棺に戻された。そしてそれ以降は、ずっと兵士が棺ともども見張り続けたのだ。
遠く離れた城にいた奥を、殺せたはずがない」
「ところが、それが可能だったのでございます。
……さて、陛下におかれましては、すでにご存じのことでありますが。
隣国エンゲルラントの王妃様が、行方不明になられました。7人の小人の死体が発見された日の、午前中のことでございます」
「話が急に変わったな?」
「恐れ入ります。すぐに姫様のお話に繋がりますので、今しばらく猶予をくださいませ。
さて、ここからは、僕の想像の翼を大いに広げた考えとなります。妄想と言われても仕方がありません。
エンゲルラントの王妃様。陛下のお妃様よりいくつか歳下で、陛下のお妃様に比肩するほど美しいとされるお方。
かの方は何者であるか、でございます」
「何者か、だと?」
「はい。
かの方はその美しさによって、陛下と結婚される可能性のあった方。
もしお妃様が白雪姫を儲けた後に亡くなられれば、陛下の後妻として嫁ぎ、姫様の継母となられるお方だったのではないでしょうか」
この世界は『実母が白雪姫を殺そうとし、父親が彼女を救い出す』バージョンと『継母が白雪姫を殺そうとし、王子が彼女を救い出す』バージョンが重なって存在しています。
王子と父親である王が同時に姫を救いに来たように、この世界には魔女である実母と、魔女である継母が同時に存在していたのです。
「白雪姫の母君である王妃様は、出産後もご健在でしたから、当然陛下に嫁ぐことはありませんでした。
代わりに、その美貌でもって、陛下に次ぐ権力者であるエンゲルラント王の妃となられたのです。
そしてかの方もまた、魔女でありました。
そうでなければ、白雪姫の亡骸が家の中で見つかることはありませんでしたから」
「どういうことだ?
エンゲルラント王妃が、白雪姫を殺害したと申すのか?
だが、王妃と姫は遠く離れた場所にいた。それに、王妃には姫を探し出して殺す理由がない。
いや、それならば、白雪姫が奥を殺したと言う話はどうなる?」
「それらの謎は全て、ひとつに繋がっているのでございます」
ヤーコプはいったん沈黙して、少し考えました。
「わが国の王妃様と、エンゲルラントの王妃様。どちらも王妃で、ややこしいですね。失礼ですが、便宜的にお二方を『実母の魔女』『継母の魔女』と呼ばせていただきます。大変不敬ではございますが、どうかご寛恕を」
王がうなずいて許可を与えたのを確認すると、ヤーコプは話を続けました。
「順を追って、明らかにしてまいりましょう。
継母の魔女も、大変な美貌の持ち主でした。ご自分でも、己の美しさを大いに誇っておられたことでしょう。
しかし敗戦によってわが国を訪れることとなった時、『戦勝国の王妃様も、エンゲルラント王妃に劣らない絶世の美人である』とお聞きになります。
継母の魔女は、どちらがより美しいか気になったことでしょう。そしてそれを、魔法によって確認なさったのです。
そうですね、鏡か水晶玉ででも占うのでしょう。『この国で1番美しいのは誰?』と」
知らせを持ち込んだ召使いは、エンゲルラント王妃の旅行道具をつらつらと挙げました。その中の1つに『鏡』がありました。
彼女もまた魔法の鏡を持ち、旅行中に質問していたのです。
「継母の魔女は、ご自分か、この国の王妃様のどちらかが1番だと予想されたはずです。
ところが、魔法の品物は答えました。
『白雪姫が最も美しい』と。
姫様はその時、生きておられたからです」
「エンゲルラントの妃は、それまで誰が1番美しいかと占ったことがなかったのか?
白雪姫が最も美しいと、今まで知らなかったのか?」
「はい、陛下。かの方は、姫様の存在をご存知でなかったのです。
なぜなら質問は『この国で』1番美しいのは誰か、だったからです。
エンゲルラントの中で最も美しいのは、継母の魔女ことエンゲルラントの王妃様です。白雪姫は隣の国におられるために、比較の対象ではありませんでした。
ところが今、かの方は終戦処理のために、わが国に移動しておられます。『この国で』の中に、白雪姫がいらっしゃるのです。
ですから、『白雪姫が1番美しい』となりました」
ヤーコプの深い緑の瞳は、いまや爛々と輝いていました。
「さて、継母の魔女も、実母の魔女同様、白雪姫に憎悪と嫉妬を抱かれます。
そして全く同じ行動をとられました。
すなわち、老婆に化けて、胸ひもを持って白雪姫を殺そうとなさったのです。
実母の魔女がそうであったように、かの方も遠方へ素早く移動する魔法を心得ておられました。例えば、魔法の靴を所有しておられたとか。それを使って、散策の最中に遠方に移動されました。そう、行方不明になられたのは、ご本人の意志であったのです。
継母の魔女は、まずはエンゲルラントの城に戻り、魔女の技でもって魔法の胸ひもを作ります。そして老婆に変装なさいます。これも魔女の技です。魔法の膏薬を顔に塗れば、自在に顔を変えられる……と聞いたことがございます。
そして再び魔法の靴を使い、今度は白雪姫の元に向かいました」
次々に繰り出されるヤーコプの推理に、王は半ば圧倒されています。
「……見て来たように言うのだな」
「実際に見ることができたなら、どんなに楽だったかと……いえ、こちらの話です。
補足いたしますと、これは、継母の魔女が行方不明になった数時間後。小人が死体で見つかった日の昼間の出来事です。
陛下と王子殿下が山の中を捜索をなさっていた時間帯。最初に調べ終わったとして放置していた小人の家で、このようなことが起こっていたのでございます。
さて、小人の家に到着した継母の魔女は、出てきた白雪姫に胸ひもを勧めます。そして締め殺そうとなさいました。
ですが、白雪姫はすでに3回の呪物によって倒れた後です。なんと、これで4回目ですから、さすがの姫も学習して……いえ、魔女の手口を見事看破なさいました。
白雪姫は反撃なさったと、僕は推察いたします。言葉巧みに毒のワインを勧めて飲ませたか、買うふりをして胸ひもを手に取って、いきなり魔女の胸を締めつけて殺したか……。
魔女はまさか、自分が殺されるとは思ってもみなかったでしょう。白雪姫は不意打ちによって、魔女を排除なさいました」
王は、大きくため息をつきました。
「それが事実なら、姫は自分の身を守っただけだ。
姫に咎はない」
「はい、継母の魔女殺しだけは、正当防衛と申せます。
ですが、実母の魔女に対しては、積極的に殺害に動くこととなりました」
「そう、奥を殺したという話だったな」
「はい。姫様は、魔女の亡骸を調べたはずです。
胸ひもを取り上げ、移動に使った魔法の靴を取り上げ、そして魔女の顔に触れます。
亡骸の顔には、顔を変える魔女の膏薬が塗られています。
その膏薬に触れて、念じながら塗り直せば──魔女の顔を、白雪姫の顔にも変えることができるのです」
かつて、小人は白雪姫に教えていました。
『魔女の膏薬だよ。化粧みたいに肌に塗りたくると、顔も手も望んだ姿に変わるんだ』
白雪姫は、魔法の膏薬の使い方を、知っていたのです。
「姫様にとって幸いなことに、継母の魔女と姫は、同じくらいの背丈だったのでしょう。
ガラスの棺に入れても違和感がありません」
7歳の白雪姫は、実母の胸くらいの背の高さでした。
小人たちは、7歳の白雪姫と同じくらいでしたが、現在は、『白雪姫は部屋の真ん中に立たされて胸までしかない』状態でした。つまり、今の姫と実母の魔女は同じ背の高さなのです。
そして、2人の王妃は同じくらいの背の高さだと、召使いの1人は言っていました。
「そしてお二方とも金髪です。顔を白雪姫のそれに変え、家の中に入れて、姫が棺の中でお召しだったドレスを着せます。
陛下や王子殿下は白雪姫を、ガラスの棺ごしに短時間ご覧になっただけです。その美しい顔は皆様に感銘を与えましたが、それゆえ他の要素はさほど記憶に残らなかったでしょう。
ドレスはふんわりしたもので、身体つきは分かりにくいものでした。どちらも金髪で、その色合いや長さなどが少々違っても、お気づきになりません。小人たちなら些細な違いにも気づいたでしょうが、すでに亡くなっています」
「……その証拠は……」
王が、押し殺した声で尋ねました。
「僕は、ガラスの棺の『白雪姫』の瞼を上げて、瞳を拝見しました。
黒ではなく、菫色の瞳でした。
腐敗が始まったことからも、あの亡骸が別人であること、それが継母の魔女であることは明らかです。
……こうして、姫様は継母の魔女をご自分の亡骸に見せかけて家に放置し、ご自分は魔法の靴でその場を離れました」
白雪姫は、魔法の靴の使い方を知っていました。
7年前、実母の魔女が、魔法の靴を使って姫を狩人の元へ連れて行き、殺させようとしたのですから。
「どこへ向かわれたか?
姫のお母上、姫を殺そうとした実母の魔女のいらっしゃる城へです」
・お気づきだろうか……
17話の(偽)白雪姫の死体発見以降、地の文では、この亡骸のことを『白雪姫』と呼んでいないことを……。
だって白雪姫じゃなかったんだもん。




