26 ただ1つを除いては、全ての謎に答えを出した
「……そなたは白雪姫が、奥を殺したと申していたな」
「さようでございます。ようやっと、その説明に取りかかることができます。
陛下は、『奥が魔女ならば、隠し部屋にでも魔女の道具があるだろう』と仰せになりました……とうかがいました。
姫様は、その隠し部屋に向かったのです。継母の魔女から取り上げた、胸ひもを持って」
魔法の靴は、直接屋内に移動することはできません。
ですが、白雪姫は覚えていました。城の内外をつなぐ隠し通路と、通路の先が魔女の小部屋に通じていることを。
そして白雪姫にとって幸運なことに、王妃は隠し通路の閂を閉め忘れていました。外から隠し通路に入ることができたのです。
「隠し部屋は、王妃の私室の隣にあります……あるのではないでしょうか。そうでないと、こっそり使用できませんから。
姫様はそこに身を潜め、機会をうかがいます。
やがて王妃の部屋から人がいなくなり、姫様は隠し部屋から私室にお入りになられました」
「都合よく、人がいなくなるタイミングが分かるものか? 聞き耳でも立てていたのか?」
「魔女の小部屋には、千里眼の力を持つ鏡……か、水晶玉などがあったはずです。さもないと、白雪姫の生存と居場所を知ることができませんから。
姫様はそれを探し出して、お使いになったかもしれません。そうすれば、人のいなくなるタイミングを図ることができます」
『呪いで探したんだろ。鏡とか水晶玉とかを使ってな』
このことも、白雪姫は小人から聞いていました。
魔法の鏡の枠には『鏡よ鏡』という呪文が刻まれていました。鏡を初めて使う白雪姫でも、呪文を知ることができました。
「部屋にはお召し替えのドレスと、コルセットと紐が置いてありました。
紐を、死の呪いのこもった胸ひもと交換しておけば。
姫様がそれ以上何もしなくとも、侍女がコルセットに紐を通します。
この胸ひもは、継母の魔女が作ったものです。当然実母の魔女には見覚えがなく、呪物であると気づきません。
侍女はお召し替えの際に、呪物を使ったコルセットを締めつけ──実母の魔女は身罷ったのです」
何度目かの沈黙が落ちました。
「姫様が、その後どうなさったかは存じません。
魔法の靴をお持ちですから、どこへでもいらっしゃることができます。
……これで、僕の推測は終わりです」
さらに長い間、沈黙が続きました。
ややあって、王が口を開きます。
「見事だ、ヤーコプ。ただ1つを除いては、全ての謎に答えを出しておる。
ならば、最後の謎を……いや待て」
王はヤーコプを見たまま、立ち上がりました。
「これ以上ここにとどまっていては、他の者が来るやも知れぬ。場所を変えよう。
ついて来るがよい」
王とヤーコプと3人の騎士は家の裏口から外に出て、
そのまままっすぐに森の中を歩きました。
「陛下、森は危のうございます。
お戻りになられた方が」
王は、ヤーコプの制止に構わず歩を進めます。
「大事ない。
余は何度か往復したが、獣にはとんと出会っておらぬ。小人の住まいの近くゆえ、彼らの精妙な霊気が残っておるのやもしれぬな。
……ヤーコプよ、そなたの推理は見事なものであった。未だ明かされぬ謎もあるが、お前なら必ずや、全てを明らかにするであろう。
これから見るものは、そなたへの褒美だ」
先をゆく騎士がかざすカンテラが、何か大きなものを浮かび上がらせました。
それは王のものよりも大きく、王のものよりも豪奢な、金糸銀糸で刺繍された天幕でした。
「──!!
陛下、これは……!?」
ヤーコプが声を上げますが、誰も返事はしませんでした。王も騎士たちも、慣れた足取りで天幕に近づいていきます。
騎士が入り口の横に立ち、王に道を譲りました。王を先頭に、ヤーコプと2人の騎士が中に入ります。残った騎士は、外で見張りをするようでした。
天幕の中には、いくつも吊り下げられた金のランプが煌々と輝いていました。どうやって持ち込んだのかわからないほど立派な天蓋付きのベッドに、黒檀のテーブルと椅子。飾り棚には金の杯や宝石箱が、いくつも置かれています。
そして棚のひとつに、あの魔法の鏡が据えてありました。
ですが、そんなきらびやかなお道具の数々も、繻子張りの椅子に腰かける少女の美しさに比べれば、ものの数にも入りません。
青と黄色のドレスを着た少女の足元には、小人の家から消えた魔法の石臼が置いてあります。
「……石臼の魔法で住まいを創り出して、そこに潜んでいたのか」
ヤーコプは誰にも聞こえない小さな声で、つぶやきました。
冷静な態度を取り戻していますが、緊張でこぶしをぎゅっと握りしめています。
王が、優しい声で少女に話しかけました。
「突然すまぬな」
「まあ、お父様、急にどうなさったの?」
そこにいたのは、雪のように白く、黒檀のように黒く、血のように赤い──
──白雪姫でした。
・犯人の行動を含めた時間経過
1日目
昼:王子と王がガラスの棺に入った白雪姫を発見、取り合いになる。双方の城に使者を出す
夕方:7人の小人が棺を家に入れる。王と王子の一行は山の上で野営
夕方〜:白雪姫が小人の家で生き返る
白雪姫、7人の小人を毒殺し、密室である家の中で偽装工作を行う
エンゲルラント王妃が『この国で1番美しい女は白雪姫』と知り、殺害を決意
2日目
朝:白雪姫、外に一行がいることに気づいて棺に隠れる。家は密室状態
一行が7人の小人の死体を発見。白雪姫が消えていることに気づく。実際は室内に隠れている。
午前:エンゲルラント王妃が散策中に、魔法の靴で自分の城に移動。呪いの胸ひもを作る
〜夕方:白雪姫の捜索を行う
エンゲルラント王妃、胸ひもで白雪姫を殺そうとして返り討ちに遭う
白雪姫、エンゲルラント王妃の死体を自分に変装させて家の中に放置。魔法の石臼を持って出ていく
夕方:一行、偽白雪姫の死体を小人の家の中で発見する。これ以降は山の上で見張りを立てて棺を警護
夕方〜:白雪姫、山の中に石臼で天幕を作り、夜を過ごす
3日目
朝:白雪姫、城の隠し通路から魔女の部屋に入り、呪物の胸ひもをコルセットの紐とすり替える
白雪姫の母である王妃が、着替えの時に死亡
昼:城に、王が白雪姫を発見したこと、亡骸を持ち帰るための王冠と王笏を持って来るよう、要請が入る
同じく城に、エンゲルラント国王妃行方不明の一報が入る
ナハバーラント国境の領主から援助物資が届く。その早さから使者のアリバイが成立する
4日目
朝:白雪姫と王のいる山に向かって、ヤーコプを含む一行が出発
6日目
昼:ヤーコプを含む一行が到着。その早さから、使者のアリバイが成立する




