↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
PR
99/228

第99話 残る三家

森の館で王の返答を聞いたポルフィラは、しばらく言葉を出せなかった。

「命を奪うなと頼んでも、働き手を減らすなという話になるんですね」


「ええ」


ポルフィラは膝へ目を落とした。

三家が揃って求めれば、少しは違う返答になるかもしれないと思っていた。


隣のリゼリアが言った。

「王が信じている歴史では、竜の民を従わせたことが正しいんですよね」


ポルフィラが顔を上げるとレオノーラはうなずいた。

「王家がこの国を守ってきたと信じているわ。今の扱いを改めることは、その正しさを否定する話にもなる」


「でも、本当は違う」


「そうね」


ポルフィラは窓の外へ目を向けた。


その場にいたオブシディオンは今も生きている。けれど彼の言葉を自分が聞いたと言っても、国中が信じるわけではない。

黙っていては変わらない。何も考えずに話してしまえば、村や一族を巻き込む。

「残る三家は、今回の申し出をどう思うでしょうか」


レオノーラはすぐには答えなかった。

「ユリウスは反対するでしょう。ロデリクとリュシエンヌも、私たちと同じように竜の民を見ているとは言えないわ」


「それでも、その三家の領地にも竜の民は暮らしています」


「ええ」


「三家の領地だけで扱いが変わっても、ほかの村は今のままになる。その人たちにも、話を聞いてほしいです」


レオノーラはポルフィラを見た。

「そこは慎重に見定めて行動した方がいいわね」


ポルフィラはうなずいた。反対されることより、その先で誰に危険が向くかを考える必要があった。


「私も一緒に考えたいです。三家が王に断られたから、もうできることがないとは思いたくありません」


リゼリアも顔を上げた。

「私も」


レオノーラは二人を見て、机の上へ手を置いた。

「まず、残る三人がどう動くかを確かめましょう。王が私たちの申し出を、そのまま放っておくとは思えないから」


*


王都の城へ呼ばれた三人のうち、最初に口を開いたのはユリウス・アウレリスだった。

ふっくらした頬を緩め、細い目で王の顔をうかがう。

「そのような申し出を、三家が揃ってしたのですか」


ヴァルテルはうなずいた。

「竜の民を同じ国の民として扱えと言ってきた。領内だけの話ではない」


「陛下のお答えは?」


「認めんと伝えた」


ユリウスはすぐに頭を下げた。

「当然でございます。三家が領内で甘く扱うのは勝手でも、ほかの領地まで同じことを求められては困ります」


向かいに座るロデリク・アズレインは、ユリウスではなく王を見ていた。

「三家が揃って動いた理由は聞かれましたか」


「今のままでは足りない、と」


「これまで慎重だった者たちです。断られると分かっていても申し出た理由があるのでしょう」


王は指を机へ置いた。

「おまえも賛成なのか」


「いいえ。何を考えているのか分からないまま、対立を深めたくないのです」

ロデリクは背を伸ばしたまま答えた。

自分の家には今、天馬と繋がる者がいない。家格と領地を持っていても、王家や天馬を持つ家と同じようには動けなかった。あの三家が固まって動けば、ほかの領主も無関係ではいられない。


ユリウスが口を挟んだ。

「理由など、どうでもいいでしょう。大事なのは陛下の答えに従うかどうかです」


部屋の端で椅子に座っていたリュシエンヌ・ヴィオレスタが顔を上げた。

「その前に、王領の村の件はどう扱うのですか」


ヴァルテルが彼女を見た。

「弟には改めて注意する」


「王弟殿下がほかの領地でも同じことをすれば、領主が黙っているとは限りません。火種が残るでしょう」


ユリウスの口元が動いた。

「王弟殿下の行いを、我々が裁くのですか」


「同じことが自分の領地で起きても、あなたは何も言わないの?」

リュシエンヌが尋ねるとユリウスは笑みを消した。


ヴァルテルが二人を止めた。

「弟には他領で勝手に動くなと伝えてある。その話と、竜の民の身分を変える話は分けろ」


リュシエンヌは口を閉じた。

彼女は竜の民を解放したいわけではなかった。ただ、自分の領地で何が起きるかを王弟の気分に任せたくはない。天馬を失った家の領地が、王家の者には何をしてもよい場所になることを恐れていた。


*


ユリウスは王へ向き直った。

「陛下。六家を集めて、三家からもう一度話を聞かれてはいかがでしょう」


王が眉を動かす。

「同じ申し出を聞けというのか」


「いいえ。陛下の決定を受け入れるか、ほかの領主の前で答えさせるのです」


ロデリクがユリウスを見た。


「私たちが反対だと示せば、三家は国全体の望みとして話せなくなります。なお言い続けるなら、竜の民の扱いではなく陛下への態度の問題になります」

ユリウスの声は穏やかだった。

自分から三家を攻撃しても、王の権威を守るためだと言える。拒絶の責任は王へ、三家を追い詰める役目は残りの領主へ移せる。自分の一族は損をしない。


「私の賛否は、私が決める」

ロデリクが言った。

「今ここで、三人とも同じ考えだと決めないでもらいたい」


ユリウスは顔を向けた。

「竜の民を我々と同じに扱うことには反対なのでしょう」


「何を求めているか、本人たちから聞くと言っているのだ」


ユリウスは言い返さず王を見た。ここでロデリクと争うより、王に決めさせればよかった。


ヴァルテルはしばらく三人を見ていた。

「六家を集める。三家には、自分たちの領地を越えて何を変えようとしているのか説明させよう」


ユリウスが頭を下げた。

「私も陛下の決定を支持すると申し上げます」


リュシエンヌはその横顔を見た。王への返事は早く、他の領主には答える余地さえ与えようとしない。


面会を終えて廊下へ出ると、ユリウスが二人へ声をかけた。

「三家にも、これ以上陛下を煩わせないよう分かってもらわねばなりませんな」


ロデリクは足を止めずに答えた。

「私は話を聞きに来る。おまえに言われて賛成しに来るわけではない」


リュシエンヌも会釈だけで通り過ぎた。


ユリウスは二人の背を見送った。

王が認めないと決めたのだから、三家が引くのが当然だった。引かないなら、王に逆らう者として扱えばよい。

そのとき自分は、王を支えた領主として残る。

ユリウスは衣の袖を整えて歩き始めた。


*


六家を集める知らせは、三家にも届いた。


レオノーラは読み終えた文を机へ置いた。クラウスとテオバルトにも同じ知らせが届くだろう。


今度は王へ求めるだけではない。


残る三人の前で、竜の民のために国の決まりを改めたいという自分たちの考えを述べることになる。


レオノーラは家臣を呼んだ。

「クラウスとテオバルトに、会合の前に話したいと伝えてちょうだい」


王がほかの領主を呼んだ以上、三家だけで答えを考えていれば済む話ではなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。