第100話 六家の席
六家の領主が王都の城へ集まった。
レオノーラが席につくと、向かいに座るユリウスが会釈した。口元には笑みがあったが、挨拶を交わす間も目はクラウスとテオバルトの方へ動いていた。
ロデリクは机の上を見ていた。リュシエンヌは三家へ順に目を向けた。
ヴァルテルが入ると六人は立ち上がった。
王は着席してから三家を見た。
「おまえたちの申し出について、ほかの領主にも聞かせたい。国全体の決まりを変えよと言うのだからな」
クラウスは顔を上げた。
「竜の民の命を、身分を理由に軽く扱わないよう求めました。領地が違えば命を守られないという扱いを改めたいと考えています」
ユリウスがすぐに口を開いた。
「陛下はすでに役所へ注意を命じると答えられた。それで足りないのですか」
「働き手を失うなという注意では足りない」
クラウスが答えるとユリウスは王を見た。
「では、陛下のお答えに従わないということですな」
テオバルトが低く言った。
「答えが求めたものと違うと話している。従うかどうかという話に変えるな」
ユリウスは頬の笑みを保った。
「国の決まりを定めるのは陛下です。我々の望みに合う答えが出るまで要求を続けるのであれば、王の判断を認めないのと同じでしょう」
「王に何も求められないというなら、この席は何のために設けられたのだ」
ロデリクの声にユリウスが顔を向けた。
ロデリクは王を見た。
「私は三家の話を聞くために来ました。要求の中身を聞かず、王への態度だけを問うのであれば、私がここで判断することはありません」
ヴァルテルはしばらく彼を見た。
「話を聞くことは認めている」
「それなら、続きを聞かせてください」
ロデリクはクラウスへ向き直った。
*
レオノーラが口を開いた。
「罪を犯した者まで罰するなと求めているのではないわ。何をしたのか確かめず命を奪うことや、関わっていない家族まで罰することを許さないでほしいの」
リュシエンヌが尋ねた。
「王領の村で、そうしたことが起きたから?」
「ええ。殺される者を助けようとした人まで命を奪われた。村も壊されたわ」
ユリウスが口を挟んだ。
「竜の民が王弟殿下に歯向かった結果でしょう。従っていれば済んだのではありませんか」
リュシエンヌは彼を見た。
「最初に殺される者は、何に従えば助かったの?」
ユリウスは一瞬言葉に詰まった。
「私がその場にいたわけではない。王弟殿下には理由があったのでしょう」
「確かめずに従うべきだったと決めたのは、あなたよ」
ヴァルテルが机へ手を置いた。
「弟の行動には注意を与える。その話を繰り返すために呼んだのではない」
レオノーラは王へ向き直った。
「同じことが起きたとき、その都度注意するだけでは助からない人がいます。起こしてはならない行いとして定めていただきたいのです」
王は唇を結んだ。
ロデリクが三家を見た。
「村全体が命令を拒んだ場合はどうする。誰が加わったか一人ずつ確かめるのか」
クラウスが答えた。
「誰が何をしたかによって判断する。竜の民というだけで罰を決めるのではなく」
ロデリクは少し考えた。
「そこは、話す余地があると思う。だが、竜の民を我々と同等の民とする申し出には、今ここで賛成はできない」
レオノーラはうなずいた。
「何に反対なのかも聞きたいわ。命を守ることなのか、今の身分の区別を変えることなのか」
「区別を変えた先がまだ分からん」
ロデリクは答えた。
「天馬を持つ者と持たない者の間にも力の差がある。国の決まりまで揺らげば、どの家がどこへ手を伸ばすか分からない」
その目が王とユリウスの間を動いた。
リュシエンヌは王へ向き直った。
「私も身分の区別をなくすことに賛成したわけではないわ。ただ、王家の者だからというだけで他領の村へ勝手に罰を与えることには反対する」
三家への賛同ではなかった。それでもユリウスが考えていた、三家と残る三家をきれいに分ける話にはならなかった。
*
ユリウスは椅子へ深く座り直した。
「皆さんがそれほど案じられるのなら、まず三家の領内を確かめてはいかがですか」
クラウスが眉を寄せた。
「何を確かめる」
「扱いを緩めた結果、竜の民が思い上がっていないかどうかです。領主が寛大になれば、与えられた仕事より自分の望みを通そうとするでしょう」
「そのような報告があるのか」
「区別を無くした先の事が分からないと、先ほどから言っておられる」
ユリウスは王へ顔を向けた。
「王の役人に三領を確かめさせれば、その領内でどんな事が起きているか分かるでしょう」
レオノーラは彼を見た。
「私たちの申し出は、竜の民の命の話よ。私たちの領地へ役人を入れる話に変えるの?」
「問題がなければ困ることはないでしょう」
「竜の民が思い上がって何かしたとの報告もないのに、我々の領地を調べろと勧めているのか」
テオバルトの問いにユリウスは笑みを消した。
「陛下には国全体を確かめる権利があります」
クラウスが王を見た。
「必要な確認を拒むとは申しておりません。ですが、決まりを改めるよう申し出たことを理由に調べられるなら、領主は王に何も言えなくなります」
ロデリクも口を開いた。
「三領だけを対象にする根拠を聞きたい。今後、王に意見を述べた家は同じ扱いを受けるのですか」
ユリウスは彼を見たが、ロデリクは王から目を離さなかった。
ヴァルテルは椅子の肘へ指を置いた。
調べろと命じれば従わせることはできる。だが三家だけでなく、ロデリクまで国王への発言を封じる話として受け止めていた。
「役人を送るかどうかは私が決める。ユリウスが決めることではない」
ユリウスはすぐに頭を下げた。
「もちろんでございます。私からは、ご検討をお願いしただけです」
言い終えると両手を膝へ戻した。自分の提案が退けられたことに気分を害した。
*
ヴァルテルは六人を見渡した。
「竜の民の身分を変える決まりは作らん。その答えは変わらない」
そして三家へ目を向けた。
「おまえたちも国の決まりに従って領地を治めよ。独自に変えることは認めない」
クラウスが答えた。
「承知しました。ですが、改めていただきたいという申し出は取り下げません」
ユリウスの目が細くなった。
ヴァルテルはクラウスを見たまま尋ねた。
「ほかの二人もか」
レオノーラがうなずいた。
「はい。必要だと考えて申し出たことです」
テオバルトも答えた。
「私も取り下げません」
王は長く黙った。
リュシエンヌは王の返答を待った。ロデリクも背を伸ばしたまま動かない。
「今日はここまでとする」
ヴァルテルが立ち上がると六人も席を立った。
誰も三家を支持すると言い切ったわけではない。けれど王の前で意見を変えろと迫られても、三人は申し出を引かなかった。
ユリウスは礼を終えると先に戸口へ向かった。
廊下で家臣が近づいたが、足を止めずに手で下がらせた。王を支えた自分の言葉より、ロデリクの問いに部屋の空気を変えられたことが腹立たしかった。
しかし、いずれ三家が何か失敗をすれば、今日の申し出と結びつけ糾弾できる。
ユリウスは振り返らずに歩いた。
部屋から少し離れたところで、ロデリクがクラウスへ声をかけた。
「身分を変える話に賛成したわけではない。それは分かっていてくれ」
「分かっている」
「だが、意見を述べた領主の領地を調べるという話は、聞き捨てにできん。次に話すなら、今日答えなかったことも聞きたい」
クラウスは足を止めた。
「何だ」
「おまえたちが、今になってそこまで求めるようになった理由だ」
ロデリクは返答を待たず、自分の家臣がいる方へ歩いていった。
レオノーラとテオバルトがクラウスのそばへ来た。
残る三人は同じ考えではない。その違いが、今日の席では三家を追い詰める動きを止めた。次に誰へ何を話すかで、関係はまた変わるだろう。
クラウスはロデリクの背を見送った。
国の始まりを知ったことを、どこまで伝えられるのか。
今度は三家で話すだけでは済まなかった。




