第96話 受け継いだ役目
三家が集まる日ポルフィラは森の館へ向かった。
案内された部屋にはレオノーラとクラウス、テオバルトがいた。リゼリアも先に来て窓際の椅子に座っている。
ポルフィラが席につくとクラウスが言った。
「レオノーラから話したいことがあると聞いた。今日は私たちの考えも聞きたいそうだな」
「はい。その前にオブシディオンから聞いたことをお伝えしたいです」
ポルフィラは国が生まれるまでの話をした。
話を終えるとクラウスが尋ねた。
「エルディオは自分がまとめ役になることもできたのではないか?」
「自分は力が強大すぎて、人々を恐れさせるから向かないと話したそうです」
クラウスは静かに言った。
「国ができる前から彼が関わっていたのか……」
その声はポルフィラへ問いかけるというより、自分で確かめるようだった。
レオノーラが二人を見た。
「私も先日の面会で初めて聞いたの。八家の始まりをそこまで伝える話は知らなかったわ」
テオバルトは窓の外へ目を向けた。庭では家臣が馬を引いている。
「我々の一族もそこから分かれたのだな」
「そう聞きました」
ポルフィラが答えるとテオバルトは目を戻した。
「我々の祖先は争う人々の話を聞き、仲裁し、公平に暮らせるように領地を任されたのだな」
クラウスが低く答えた。
「だが今は、竜の民が領主の命令に従うのを当然としている。こちらの話だけを押しつける立場になってしまった」
誰もすぐには答えなかった。
ポルフィラは三人の顔を見た。国の始まりを知った自分と代々領地を継いできた人々とでは、その話の重さが違うのだと感じた。
*
クラウスが口を開いた。
「私は領内での扱いを改めれば、少しは暮らしをよくできると考えてきた。実際に変えられたこともある」
ポルフィラはうなずいた。村の仕事の負担が減ったことも、役人達の態度改善の命令が出されたことも知っている。
「だが竜の民のへの扱いという考え自体がおかしいのだ」
クラウスは机の上で指を組んだ。
「領を任された当時は、“ 人を扱う“ などと考えはしなかっただろう…」
レオノーラもゆっくりうなずいた。
「私はアルジェントの血筋を守り、王家の不正を正したいと考えてきたわ。けれど王家が代わっても竜の民が見下されたままなら暮らしは変わらない。そこを変えなければならないわ」
テオバルトがポルフィラへ向き直る。
「私が保護してきた者たちの安全には、これからも配慮したい。その考えは変わらん」
「はい」
「これまでは匿っている一族を王家から守ることを第一にしてきた。だが領内で苦しんでいる竜の民のことも私が考えなければならない」
ポルフィラは膝の上の手をほどいた。
三人は、民のこれからの立場を変えることを、自分たちの役目として考え始めている。
「村の人たちは皆さんが話し合っていることを知りません。今日もいつもの仕事をしています」
ポルフィラは言った。
「三家が王家に申し出たことで村が罰を受けないか心配です。領民の訴えを聞いて動いたと思われたら、家族や友達にも危険が及ぶかもしれません」
クラウスがうなずいた。
「領主としての我々の考えだ。領民の訴えではない」
テオバルトも答えた。
「王家へ何を伝えるにせよ、申し出るのは我々だ。領民には手を出させん」
三人は王家へ申し出ることと、村を守る方法を考えようとしていた。ポルフィラはその話に耳を傾けた。
*
少し間を置いてポルフィラはレオノーラへ尋ねた。
「もう一つ、お聞きしたいことがあります。私を預けた村を選んだ理由は叔母から聞きました。エルディオが生まれ弟も暮らした村だからだと」
レオノーラはうなずいた。
「でも村には他にも家があります。その中で父さんと母さんを選んだのはなぜですか」
レオノーラはクラウスへ目を向けた。それからポルフィラへ答えた。
「ドランはエルディオの弟につながる子孫なの」
ポルフィラは息を止めた。
エルディオには老いた弟がいた。自分がセレフィアの血を引くことは知っている。けれどエルディオ側の先に自分の父がいるとは思わなかった。
「どうして、分かったんですか。ずっと昔の人の子孫なのに」
「うちに残っているエルディオの家系図を代々の世帯記録と照らし合わせたの。親子の関係をたどると、ドランへつながっていた」
クラウスが付け加えた。
「私の領内の管理を担当する部署にある世帯の記録だ」
「それで父さんを選んだんですね」
「ええ。ただ、子供を託せる暮らしかどうかは確かめる必要があった。信頼できる家臣を通じて村の管理担当に夫婦の暮らしぶりを尋ねたの」
ポルフィラは鍛冶場に立つ父を思った。
村で育ってきた父の家系と、自分の家系が遠い昔の兄弟へつながっている。
「父さんも驚くと思います。帰ったら伝えます」
レオノーラはうなずいた。
会談の終わりにクラウスが二人の領主を見た。
「今後の王家への対応を話し合っておきたい」
レオノーラがうなずいた。テオバルトは少し考えそれから答えた。
「そこはきちんと話し合っておかねばならんな」
ポルフィラは三人を見た。
昔の国の話が、今の人々の判断を動かし始めていた。




