↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
PR
93/233

第93話 恐れの中で

荷受け係の男が、足元の籠を長靴で押した。


ガルの弟が屈んで拾おうとすると、男が手を振る。

「近寄るな。下がっていろ」


弟は手を止めて後ろへ退いた。ガルの父親が進み出て籠を拾い、少し離れた場所へ置き直す。

「こちらへ置いておきます」


男は返事をせず、中を確かめた。


ポルフィラはガルの弟を見た。男の背へ目を向けながら、兄の隣から動かず口を結んでいた。


落ちたのでも、間違った場所へ置いたのでもない。籠を拾おうとしただけだ。


ポルフィラは口を開きかけた。だが自分が何か言えば、ガル達まで逆らったと言われるだろう。


やがて係が立ち去った。


ガルがポルフィラのそばへ来た。

「何か言いそうな顔をしてたな」


「どうして、あんなふうに言われなければならないの」


ガルは弟の背を見た。

「何もしてなくても言われるだろ。いつものことだ」


ポルフィラはうなずいた。この扱いは今日になって始まったわけじゃない。けれど色んなことを知ってしまった今、いつものことだと自分を納得させることができなかった。


トーマが二人へ近づいた。

「管理者がいるときなら、あの人もあまり言わないよ」


「じゃあ、いないときは我慢するしかないの?」


ポルフィラが尋ねると、トーマの眉が寄った。

「我慢したいわけじゃないよ。僕も、父さんにあんな言い方をされるのは嫌だ。でも逆らえない」


その声にポルフィラは顔を上げた。

「……うん。分かってる」


ガルもトーマも、家族を守るために黙ることを選んでいる。


自分が声を上げれば、村に迷惑をかける……


*


夕方、ポルフィラは鍛冶場の戸口に座った。


ドランが炉を見ている。父も母も、今日のような場面を何度も生きてきた。自分が育つ間も、顔に出さずに耐えていただろう。


遠くには、天馬を狩る竜がいる。


〈オブシディオン〉


呼ぶと返事が届いた。

〈聞こえている〉


ポルフィラは今日あったことを話した。その時のことを思い出すと言葉が強くなった。


〈あなたを見たら、あの男は怖がると思う〉


〈怖がるだろう〉


答えは静かだった。


男が逃げる姿を思い浮かべると、一瞬だけ胸が晴れた。けれどそのあと、この村に何が起きるだろう。竜が去ったとき、この村に何が向けられるだろう。


〈でも、その人を追い払っただけでは、みんなの暮らしは変わらないのは分かってる…〉


オブシディオンは黙って聞いていた。


この村の管理者や領主たちに会ってから、天馬の民も一人ずつ違うと知っている。竜の民をちゃんと同じ人間として対等に扱ってくれる人達がいる。


その人たちまで、竜を前に怯えさせたいわけではなかった。


〈昔は二つの民が一緒に暮らしていたのでしょう〉


〈エルディオとセレフィアが生きていたころだな〉


〈うん。反乱が起こる前、みんなはどんな暮らしをしていたの?〉


ポルフィラは、ガルの弟が顔を伏せた姿を思い出した。


〈平和だったとは聞いたけれど、普通の人たちがどう暮らしていたのかは、まだ知らないから〉


オブシディオンは少し間を置いて答えた。


〈分かった。あのころの話をしよう〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。