第77話 村にある居場所
冬の間、ポルフィラは叔母と父に会った日のことを、家の仕事の合間に思い返した。春にはリゼリアとの二度目の面会があり、夢に見た景色の絵を渡した。夏の仕事が始まるころには、十七歳になっていた。
家族と会う日は、まだ気軽に決められない。
リナが来たのは、ポルフィラが夕方の鍛冶場を片づけているときだった。戸口から顔をのぞかせ、頬に小さなくぼみを浮かべて笑った。
「久しぶりに、皆で話さない? ほかの四人にも声をかけてきたの」
ポルフィラは手を止めた。
「皆も来られるの?」
「うん。仕事が終わったら、ここへ来るって」
このごろは村の外へ出ることもあり、六人でゆっくり話す機会が減っていた。ポルフィラはうれしくなって、片づけを急いだ。リナはドランに挨拶をすると、いつもの椅子に座った。
ガルはトーマと一緒にやって来た。戸口のポルフィラを見つけると、短い濃緑の髪をかき上げ、歯を見せて笑った。肩幅が広くなり、日に焼けた腕もたくましくなっていたが、その笑い方は子供の頃と変わらなかった。
トーマはドランに挨拶をしてから、ガルの隣へ腰を下ろした。六人の中でも背が高く、頬の丸みも薄れてたくましくなっていたが、相変わらずの穏やかな目でポルフィラを見て、少し笑った。
「久しぶりだね。元気だった?」
ポルフィラはうなずいた。
「うん。トーマも?」
「元気だよ。家の仕事は増えたけどね」
セラとシオンも来て、六人がそろった。家での仕事の話になると、ガルが、弟に任せて休もうとしたら母に別の仕事を言いつけられたとこぼした。
トーマが笑った。
「母さんには分かってたんだろ」
ガルが口をとがらせた。
「少しくらい休んでもいいだろ」
リナが笑い出し、ポルフィラもつられて笑った。皆、ますます家での仕事が増えた。それでもこうして集まれば、ガルが言い返す声も、隣で肩を揺らすリナも、昔のままだった。もう少し、この話を聞いていたかった。
笑い声が静まると、リナがポルフィラへ顔を向けた。
「このごろ、出かけることが増えたね。どこへ行ってるの?」
ポルフィラは、まだ笑みの残るリナの顔を見た。家族に会えたことは、皆にも聞いてもらいたかった。けれど話せないことが多すぎて、すぐには言葉が出なかった。
「前に私が赤ん坊のときに預けられたって、話したでしょう?」
リナがうなずいた。ほかの四人も、ポルフィラへ目を向ける。
「そのときの家族が分かったの。叔母と、生みの父に会ってきた」
ガルが身を乗り出した。
「父さんに? 会えたのか」
ポルフィラはうなずいた。リナは少し迷ってから尋ねた。
「お母さんも?」
「母は……私を産んだあとに、亡くなったんだって」
リナの笑みが消えた。
「そうだったんだ……」
ポルフィラは膝へ目を落とした。両親のことを話したかった。けれど、二人が天馬の民だと知られるのが怖かった。何から話せばよいのか分からず口を閉じた。自分の血筋のことは、友達にはまだ話せない。
親が天馬の民に頭を下げる姿も、王領の村が滅ぼされたと聞いた日の皆の顔も、忘れられない。自分は皆が恐れている天馬の民の家に生まれた。それを知ったら、皆は今までどおり隣に座ってくれるだろうか。
リナは続きを尋ねず、ポルフィラの隣へ座り直した。
「突然、家族のことが分かったんだものね。私でも何から話せばいいか分からなくなると思う」
ポルフィラは顔を上げた。ガルが、ためらうように尋ねた。
「これからは、その父さんと暮らすのか?」
「ううん。ここに住むよ。父さんと母さんと」
ガルはほっとした顔で背を戻した。
「そっか。遠くへ行くのかと思った」
「……ここに帰ってくるよ」
リナが笑みを戻した。
「じゃあ、また皆で集まろうね」
ポルフィラはうなずいた。隣にはリナがいて、ガルもトーマも、セラもシオンも、いつもと同じように自分を見ている。それがうれしかった。けれど、話せなかったことが胸に残った。天馬の民だと知っても、こうして一緒にいてくれるだろうか?その不安は消えなかった。
*
その夜、ドランは戸を閉め、娘のそばに座った。
「ほかの親たちにも、村の外の人へ字を覚えたことや石板のことを話していいか聞いてきた。今は誰にも知らせないでほしいと言っていた」
ポルフィラは父を見た。
「あの人たちにも、黙っていた方がいいんだね」
「ああ。おまえを大切に思っている人たちでも、村のみんなは天馬の民が怖いんだ」
「私も、天馬の民なんだよね」
ドランはすぐには答えず、娘の顔を見た。ポルフィラは膝の上で指を握り込んだ。
「皆と話して楽しかった。でも私の家族は天馬の民だったって言えなかった。知ったら怖がられるかもしれないと思って」
ミレアが娘の隣へ座った。
「そう思いながら、皆の話を聞いていたのね」
ポルフィラはうなずいた。皆がまた集まろうと言ってくれたときにも、不安を拭えなかった自分が悲しかった。
「今までと同じでいたいの……」
ドランは娘の握った手へ、自分の手を重ねた。
「生みの家族が分かったからといって、ここがおまえの家ということに変わりはない」
「でも皆が知ったら……」
父の手を見ながら言うと、ミレアが肩へ腕を回した。
「急がなくていいの。いつか話す日が来たら、父さんも母さんも一緒にいるから」
ポルフィラは母のそばへ少し寄った。友達がどう受け止めるのかは、まだ分からない。それでも明日みんなを見かけたら、いつものように声をかけたかった。




