第75話 リゼリア
冬に入ってから、ポルフィラはリゼリアに会った。
マティアスから紹介の話を受けたあと、両親と話し、会ってみたいと伝えていた。場所は、クラウスが領内の巡回で使う、森に近い小さな館だった。城下を通らずに来られ、門を入る者も領主の家臣が確かめる。受け取り場の係の前で、親族の訪問を何度も重ねるより、人目を避けられた。
リゼリアは、インディルを訪れる客への応対を学ぶため、家臣の親族として一行に同行していた。マティアスとエステリアも来ている。表向きの訪問の用務を済ませてから、ポルフィラの家族と顔を合わせることになっていた。
暖炉のある部屋へ入ると、窓際の娘が立ち上がった。白に近い金髪が肩へ流れ、長い睫毛の下の灰青の目がこちらを向く。小ぶりな鼻と、まだ丸みの残る頬と、ポルフィラより少し年上らしい落ち着きがあった。
「リゼリア・ベルネールです」
「ポルフィラです」
互いに頭を下げ、そこで言葉が途切れた。リゼリアの服には細かな縫い取りがあり、椅子へ座る仕草も自分とは違う。ポルフィラは少し気後れがした。
リゼリアの方も、何か言おうとして迷っていた。
「会いたいと思っていました。マティアスさんが、あなたの話をされるようになったので」
「何を?」
「お家の仕事を手伝って、友達が五人いるって」
マティアスが娘を見る。ポルフィラは少し笑った。
「小さいころから、一緒にいます」
「いいですね」
リゼリアの声に、ためらいのない羨ましさがあった。ポルフィラは思わず顔を上げた。
「友達は、いないんですか」
「話す人はいます。でも、同じ年頃の人は多くありません」
リゼリアが尋ねた。
「お父さんは、道具を作る方なのですよね」
ドランが答えた。
「はい。壊れた物も直します」
「ポルフィラも、同じ仕事を?」
「私には、まだできないことが多いです。母さんと手伝ったりするくらいで」
「私も、何でもできるわけではありません。城で暮らしていると、できるように見せたくなるのですけれど」
その言い方に、ポルフィラは笑った。リゼリアの口元も緩む。用意してきたような丁寧な言葉に少しずつ変化がおきた。
話の中で、リゼリアは天馬と繋がっていることを伝えた。
ポルフィラは、驚いてリゼリアを見つめた。村の人は天馬を見たことがなかった。嘘だと思っていた頃もある。今は、王領の村を壊したのがその生き物だと知っている。
リゼリアはドランとミレアの顔も見た。
「シルヴァという名です。ここまで、馬車とは別に来てもらいました。森の向こうにいます」
ドランがミレアへ目を向けた。ポルフィラの背中が、暖炉の前なのに冷たくなる。
「怖いよね」
リゼリアは声を落とした。
「会うために呼んだのではないから、見なくてもいいの。私が近づけさせることもありません」
ポルフィラはその顔を見た。穏やかに話していた娘が、村を壊せる生き物と繋がっている。そのことが、急に二人の間を広げた。
リゼリアは席を立たず、待っていた。
ポルフィラは両親を見てから、尋ねた。
「遠くから、見るだけでもいいですか」
ドランは少し黙り、館の外で待つ家臣を見た。
「母さんも俺も、一緒に行く」
リゼリアがうなずいた。嬉しそうに笑うことはせず、まず、どこまで近づくかをポルフィラに確かめた。




