第73話 会いに来た父
秋の日差しが入る窓のそばで、男がこちらを向いた。ポルフィラは足を止め、その顔を見つめた。
波打つ淡い金髪を首の後ろで束ねた、背の高い男だった。広い額の下の灰青の瞳は自分とは違う色だったが、切れ長の目や、少し上がった目尻の形がよく似ている。上唇のゆるやかな曲線も、きゅっと結ばれた口元も、鏡で見てきた自分を思わせた。叔母が父に似ていると言った意味が、ようやく分かった。ポルフィラは、その顔から目を離せなかった。
マティアス・フェルナーは、迎えようとした手を下ろした。
「マティアスです。会いに来てくれて、ありがとう」
ポルフィラは頭を下げた。父と呼ぼうとは思わなかった。けれど、誰なのかを尋ねる必要もなかった。
母がそばに座り、父も隣へ腰を下ろす。前と同じ受け取り場の部屋に、今日は叔母もいた。マティアスは二人へ礼を言ってから、娘の方へ身体を向けた。
ポルフィラは、用意していた問いを口にした。
「私が生まれたとき、見ましたか」
「見た。小さくて、抱き上げるのが怖かった」
彼は自分の両手を見た。
「髪が黒かった。目を開けたとき、その目も、私たちとは違っていた」
ポルフィラは頭の布を押さえた。
「それで、村へ連れていったんですね」
マティアスはうなずいた。
「おまえが私たちのそばで育てば、髪から昔の一族を思い出す者がいるかもしれない。母方の血を調べられたら、守ってくれている家まで危険になる」
「私は、ここでも髪を隠しています」
彼の目が、娘の手に止まった。
「そうだな」
ポルフィラは母の膝にある手を見た。言いにくかった。でも、本人に尋ねたかった。
「村が壊されたら、どうするつもりだったんですか」
マティアスは、すぐには答えなかった。エステリアも顔を伏せる。ドランの身体が、娘の方へわずかに寄った。
「私たちには、ここなら決して見つからないと思える場所がなかった」
マティアスの声は、さっきより低かった。
「村で暮らす人たちを苦しめているのが同じ天馬の民だと分かっていながら、その村へ託した。おまえを守るためだと、今も思っている。だが、それで、この二人が背負わされた恐怖への言い訳にはならない…」
ドランは彼を見ていた。ミレアは娘の指を握ったまま、何も言わなかった。
ポルフィラが尋ねた。
「会いに来たいと思ったことは、ありますか」
「何度も」
「でも、来なかった」
「私が村へ通えば、その理由を探る者が出る。それが怖かった」
彼は息を吸い直した。
「会いに行かないことが、守ることだと思っていた。おまえが、なぜ来ないのだろうと考えることも知らずに」
ポルフィラは目を落とした。長い間、そんなことを考えたことさえなかった。父と母は毎日そばにいたからだ。この人がいると知ってから、初めて、来なかった年月を思った。
マティアスが二人へ向き直った。
「娘が元気だと聞くまで、私は今の暮らしを何も知りませんでした。お二人が守ってくださったことを、心から感謝しております」
ドランはゆっくり答えた。
「娘が会いたいと言ったので、連れてきました。これからも、私たちの娘です」
「はい。その暮らしから、連れ出したいのではありません」
ポルフィラは顔を上げた。マティアスが静かにこちらを見ていた。自分によく似たその顔は、初めに見たときほど遠く感じられなかった。知りたいことが、全部分かったわけではない。許せるのかも分からなかった。それでも、問いかけた言葉を、この人は聞いた。
「また、会えますか」
マティアスの肩が、わずかに動いた。
「会いたい。おまえが、そう思ってくれるなら」
ポルフィラはうなずいた。母の手を握ったまま、今度は、マティアスから目をそらさなかった。




