第68話 届けたい返事
王都から届いた書状を読み終えると、クラウス・ヴェルディアは机の上へ戻した。向かいの役人が、口を開いた。
「職人を呼んだ分、村での納付を減らしている件でございますか」
「ああ。定められた納付を損なわぬように、と念を押してきた」
役人は書状へ目を落とした。
「割当てを戻しましょうか」
クラウスの灰色の目が、役人へ向いた。
「できぬ量を割り当て直しても、届く物は増えん」
そう言いながら、村の割当てと倉の仕事を記した帳面を寄せた。
「どちらに何日使ったか、王都へ説明する。留守の分まで帰ってから作らせるやり方には戻すな」
「承知しました」
役人が退出したあと、扉のそばに残った家臣が近づいた。インディルの視察団を倉へ案内し、ドランを別室へ導いた者だった。
「また職人を呼ぶことを、王家はどう受け取るでしょうか」
「仕事のために呼ぶ。そこは変わらん。村で受け持つ量も、決めたとおり調整する」
クラウスは書状を閉じた。竜の民の負担を減らしたと取られれば、不足分を厳しく問われる。だが一人に倍の仕事を押し付ければ、その者は潰れてしまう。
家臣は声を落とした。
「ドランは妻と相談してから答えると言っていましたが、その後の話は、まだ聞けておりません」
クラウスは廊下へ目を向けてから答えた。
「使い始めた倉の扉を、ドランに点検させる。その日に、おまえも倉へ行け」
「点検が済んでから、話を聞くのですね」
「ああ。係の者に聞かれない場所で、妻と話し合ってどう考えたか尋ねてくれ。娘が母親や父親の話を聞きたがっているかも分かれば伝えてほしい」
家臣はうなずいた。
「私が聞いてご報告します」
クラウスは念を押した。
「今度呼ぶのはドラン一人だ。妻や娘まで連れてくるようには言うな。二人を町へ入れる理由も、エステリアと会わせる場所も、まだ用意できていない」
娘を連れてこいと命じれば、ドランは拒めない。クラウスは、まず夫婦と娘が何を望んでいるのかを聞いてから、会わせる方法を考えるつもりだった。
*
数週間後ドランは管理者に案内され、再び倉へ入った。修繕した扉を荷の出し入れに使い始めたため、金具に緩みがないか確かめる仕事だった。留守にする分の納付も、前と同じように調整されている。
金具の具合を見終えると、係は荷を運ぶ者を呼びに行った。ドランが道具をしまっているところへ、前の案内役が来た。
「確認が終わったら、こちらへ」
ドランはその顔を見て手を止めた。今度もあの女性がいるのだろうか。
脇の部屋へ入ると誰もいなかった。家臣は扉を閉め、ドランから少し離れて立った。
「前に会った女性から、二人が考えるのを待ちたいと聞いている。家で話せただろうか」
ドランは、すぐには答えなかった。
「ここでお話ししたことは、あの方へ伝わるのですか」
「私からクラウス様へ。それから秘密を知る者を通じて、彼女へ伝える」
ドランは声を落とした。
「妻と話しました。娘にも、母親のことと、父親が生きていることを伝えました」
家臣はうなずいたが、返事を急かさなかった。
「娘は母親がどんな人だったか、あの方から聞きたいと言っています。父親にも自分が生まれたときのことを尋ねたいと。ただ会いたいかどうかは、まだ決められんようです」
言いながらドランは娘が泣いた夜を思い出した。会ったことのない母親を失った悲しみを、妻も自分も代わりに消してやれなかった。
「娘が会いたいと言っているとは伝えないで下さい」
家臣が彼を見た。
「聞いたとおりに伝える」
ドランは少し息を吐いた。
「妻も私も、話は聞かせてやりたいです。ですが娘をどこへ連れていくのか、誰の目に触れるのか分からないまま、行かせることはできません」
家臣は答えた。
「今日は同行を求める話ではない。返事を聞くためだ」
「私たちも一緒に話を聞けるか確かめていただけますか?娘だけを連れていかれるのは困ります」
「その希望も伝える」
ドランはうなずいた。母親を知りたいという娘の願いだけでも、ここへ届けるには妻と何度も話す必要があった。
家臣が扉へ向かう前にドランは呼び止めた。
「あの方には、娘が聞きたいと思っていると伝えてください。ですが、そのために危険なことまでして欲しいという返事ではありません」
家臣は手を止めた。
「分かった」
*
城へ戻った家臣の報告を、クラウスは最後まで聞いた。娘は母親を知りたがっている。育て親も話を聞かせたいと思っている。しかし娘は、まだ父親との対面を決めてはいない。
クラウスは机へ肘をついた。
「娘が今は誰から話を聞きたいと言っているか、正確に伝えろ」
「はい」
クラウスはインディルへ送る私信のため筆を取った。
最初に書いたのは、育て親も同席を望んでいる、という一文だった。




