↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
PR
61/223

第61話 聞きたいこと

リナの家へ修理した道具を届けると、戸口で母親に呼び止められた。

「少し休んでいきなさい。リナも、もう帰るから」


ポルフィラは礼を言い、籠を下ろした。


やがてリナが帰ってきた。水を飲み、ポルフィラを見つけると、疲れた顔に笑窪が浮かんだ。

「来てたんだ。帰る前に会えてよかった」


母親が外へ出たあと、二人は戸口のそばに並んで座った。リナは靴を脱ぎ、足に入った小石を落としている。

「このあいだ、姉さんのところへ行ったとき、また来てって言ってたよ」


「うん。母さんにも伝えておく」


ポルフィラが答えると、リナは靴へ足を戻した。

「ミレアおばさんも来たら、喜ぶと思う」


話しながら、リナがこちらの顔をのぞいた。

「どうしたの?」


「何でもない」


そう答えかけて、ポルフィラは口を閉じた。リナなら、途中でうまく言えなくなっても待ってくれる。

「私を産んだ人も、生きているのかなって、ときどき思うの」


リナの手が、靴の上で止まった。


「父さんと母さんも、知らないでしょう。どんな顔なのかだけじゃなくて、今もどこかにいるのかなって……」


言葉にすると、胸の奥が落ち着かなくなった。生きているなら、どうして来ないのだろう。会えないのか、それとも会いたくないのか。考え始めると、知るのも怖かった。


リナが静かに尋ねた。

「ミレアおばさんには、話した?」


ポルフィラは首を振った。

「最初に聞いたときは、そんなことまで考えられなかった。今になって、また聞いたら……」


「また聞いたら?」


「母さんが、寂しくならないかな」


リナはすぐには答えなかった。外で母親が誰かと話す声がする。その声を聞いてから、ポルフィラへ顔を戻した。

「分からない。でも、ポルフィラが言いだせずに悩んでたって知るのも、つらいんじゃないかな」


ポルフィラは膝へ目を落とした。


リナは隣から、そっと腕へ触れた。

「おばさんに話すとき、一緒にいようか」


「ありがとう。でも、自分で聞いてみる…」


リナはうなずき、腕から手を離した。何を聞けばよいのか、まだ決まらない。それでも、話してはいけないことのように胸へしまい込むのは、やめようと思った。


*


家へ帰ると、ミレアが夕食の支度をしていた。ポルフィラは籠を片づけ、母の隣で野菜を洗った。話そうと思っていたけど、言い出しにくい。


ミレアが娘の手元を見た。

「そこは、もう洗えているわよ」


同じ野菜を握ったままだと気づき、ポルフィラは心を決めた。

「母さん。私を産んだ人のこと、知りたいと思ってもいい?」


母の手が止まった。その顔を見て、ポルフィラは慌てて続けた。

「ここを出ていきたいんじゃないの。ただ、生きているのかも分からないから」


ミレアは持っていた包丁を置き、娘へ向き直った。

「知りたいでしょうね。私たちに話すのを、ためらっていたの?」


「母さんが、嫌かもしれないと思って」


ミレアは娘の濡れた手を布で拭いた。指の間まで拭き終えても、すぐには離さなかった。

「あなたが私に気を遣って、聞きたいことを聞けなくなる方が、悲しいわ」


ポルフィラは母の顔を見た。答えを知らないことを、申し訳なく思わせたくもなかった。

「母さんに、分からないことを調べてほしいっていうんじゃないの」


「ええ。分かっているわ」


ミレアは娘の手を離し、隣へ椅子を寄せた。鍛冶場から戻ったドランも、二人の様子を見て仕事の話をやめた。


ポルフィラは、昼にリナへ話したことを父にも聞かせた。父は最後まで聞き、食卓の向こうへ座った。

「父親のことも、知りたいか」


ポルフィラはうなずいた。

「うん。どんな人かも分からないから。もし、私を預けた人のことが分かったら、私にも教えてほしい。その人なら、何か知っているかもしれないでしょう」


ドランはミレアと顔を見合わせた。

「分かった。だが、天馬の民のところへ、自分で探しに行くのは駄目だぞ」


「行かないよ」


「おまえが知りたいと思うことまで、やめさせたいわけじゃない。もしあの人から何か伝わってきたら、母さんと話して、おまえにも知らせる」


知らない天馬の民の手に娘を渡す場面を思うと、ドランの胸は冷えた。預けた理由も知らされていない。相手が今になって何を求めるかも分からなかった。


娘は父の顔を見つめている。怖いからという理由で、何もかも伏せてよいとは思えなかった。


ミレアがポルフィラへ尋ねた。

「一番聞きたいのは、生きているかどうか?」


「うん。それから、どうして私を預けたのか」


口にしてから、ポルフィラは二人へ目を向けた。

「父さんと母さんに育ててもらえて、よかったと思ってる。それは、本当だよ」


ドランは娘の黒い髪へ手を置いた。

「知ってるよ」


父の手が離れる前に、ポルフィラはその手へ触れた。聞きたいことを話しても、いつものようにそばにいてくれる。そのことにほっとすると、ようやく腹が空いているのに気づいた。


ミレアが鍋へ戻り、椀へ温かい汁をよそった。ポルフィラは受け取り、父にも同じ椀が渡されるのを待ってから、ひと口飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。