第54話 支える者
城の庭へ降りてきたヴェスペラを、リゼリアは階段の上で迎えた。濃い灰色の翼が畳まれると、その向こうからシルヴァが顔を出す。二頭の間に立つレオノーラは、外套の留め具を外しながら笑った。
「あなたまで迎えに出てくれたのね」
風に乱れた淡い金髪の下で、青い瞳が細くなる。その美しい顔に見覚えのある笑みを見つけ、リゼリアの肩から力が抜けた。挨拶のために覚えた言葉より先に、素直な声が出た。
「来てくださって、うれしいです」
レオノーラは彼女の手を取った。
「私も、あなたと話したかったわ」
玄関で待っていたテオバルトへ、レオノーラが顔を向ける。
「急な訪問になってしまったわね」
テオバルトは首を振った。
「よく来てくれた。ユリウスにも、おまえがこちらへ来ることは知らせた」
「なら、私がリゼリアに会ったことも伝わるでしょう」
リゼリアは二人を見た。縁談を断っただけなら、自分の部屋でほっとしていればよいと思っていた。けれど、その返事を誰が支えるかまで、二人は考えている。
「私のために、ユリウス様と争うことになるのですか」
レオノーラは握っていた手を離さなかった。
「そうならないように来たの。テオバルトだけを押せば、あなたを嫁がせられると思われては困るでしょう」
テオバルトも、リゼリアへ目を向けた。
「断ったのは、私の判断でもある。おまえが相手の機嫌を気にする必要はない」
守られているのは分かった。それでも、自分が嫌だと言ったことで、二人の間に新しい心配を持ち込んだ気がしていた。
「シルヴァがいなければ、こんな話は来なかったのでしょうか」
答えを待つ間に、庭でシルヴァが首を上げた。灰色の目がこちらを向く。リゼリアは慌てて首を振った。
〈あなたに会わなければよかった、ということじゃないの〉
胸の奥に、静かな響きが返った。
〈分かっている〉
レオノーラは、その様子を黙って見ていた。リゼリアが顔を戻すと、初めて口を開く。
「加護を持つあなたと縁を結びたいのでしょうね。でも、シルヴァがいなくても、家同士の都合で縁談は来るわ。嫌だと思った理由を、あなたの天馬のせいにしなくていいの」
リゼリアは庭へ目を戻した。幼いころ、空から降りてきたシルヴァに出会った。この縁談のせいで、シルヴァに嫌な思いをさせたくない。
「ここを離れるのが嫌でした。会ったこともない人と暮らすことも。シルヴァと、知らない家へ行かなければならないのが怖かったんです」
「それを、テオバルトに話せたのね」
リゼリアは頷いた。レオノーラはようやく手を離し、彼女と並んで城へ入った。
*
夕方、リゼリアはシルヴァの額へ頬を寄せた。城の窓には明かりが灯り、客を迎える支度に追われていた人々も、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
〈レオノーラ様、明日はあなたにも会いたいって〉
〈今日も会った〉
リゼリアは小さく笑った。
〈ちゃんと、そばで話したいのよ。私があなたと飛ぶときのことも、聞きたいって〉
シルヴァが鼻先を下げ、彼女の髪へ触れた。
〈おまえも、聞けばいい〉
ヴェスペラに乗ってこれまで色々な所を飛んできた人だった。どこへ行ったことがあるのか。城の外で、何を見てきたのか。たくさんの尋ねたいことが浮かんでくる。
額から離れると、シルヴァの目を見た。
〈うん。聞いてみる〉




