第48話 王家の成果
王都の城では、朝食の席へ王領の報告が運ばれてきた。
ヴァルテル・ルベリオンは皿の脇へ書類を置き、給仕が下がるのを待った。後ろへ撫でつけた淡い金髪の下で、薄い青の目が最初の行を追う。向かいに座るセヴェランは杯を手にしたまま、報告に来た役人を見ていた。
兄より面長で、細い顎と薄い唇が、笑っていないときには冷たく見える。セヴェランと目が合うたび、役人は背筋を伸ばした。セヴェランはその緊張を眺めながら、椅子へゆったり身を預けていた。
役人は、王領の村から納付を減らしてほしいという願いが届かなくなったと告げた。以前は不足を訴えていた村も、定めの量を用意すると答えている。
ヴァルテルは書類から顔を上げた。
「できることだったのだな」
「量を揃えられるかは、まだ確認中でございます」
「揃えると言っているなら、揃えさせろ」
役人が頷くと、セヴェランが杯を置いた。
「初めから従っていれば、一つ村を失わずに済んだものを」
ヴァルテルは弟を見た。
「ほかの村が分かったのなら、無駄ではなかった」
二人の間で村が失われたことは、命令を守らせるための代価になっていた。役人は壊された村が納めるはずだった分の不足について尋ねた。
「その村から届かなくなる物を、どこで補うか決めなければなりません」
「同じ物を納めている村へ、分けて割り当てろ」
「量を増やすことになりますので、働き手も確かめる必要がございます」
ヴァルテルは皿へ手を戻した。
「十五になった者は、すべて数えたか」
「まだ報告の揃っていない村がございます」
「先に確かめろ。働く者が増えた村なら、その分も納められるはずだ」
セヴェランは、役人が書き留めるのを見ていた。村を出る前、三人に言った言葉を覚えている。何が起きたか、ほかの村へ伝えろ。あれらが歩いて行った道の先で、同じように従わぬ者が減ったのだろう。
生かして帰しただけのことはあった。
役人が書き終えると、ヴァルテルは書類を返した。
「働ける者の数と、増やせる量を揃えて持ってこい」
セヴェランが兄へ尋ねた。
「残した三人は、まだ隣村にいるのか」
「手当てを受けている。オランデルが医師を残した」
セヴェランの唇が歪んだ。
「随分、手を掛ける」
「働けるようになった者から、王都の外の作業場へ回せ。何をさせるかは役所に決めさせろ」
ヴァルテルはそれだけ答え、皿のパンを取った。家を失った三人をいつから働かせられるかを気にしていた。
セヴェランも、それ以上は聞かなかった。
*
庭へ出ると、アルディスが白い首を向けた。
広い芝地に立つ天馬の脚は、世話をする者の身体より太い。翼を畳んでいても、その影が石畳まで届いている。手綱を確かめていた世話係が下がると、セヴェランは首へ掌を当てた。
「待たせたな」
アルディスは彼を見た。
村でセヴェランが剣を抜き、人を殺した。その剣を止めようと、村人たちが彼へ手を伸ばした。アルディスは、彼らを傷つけたくなかった。それなのに、セヴェランへ危険が迫ると、翼は彼を守るために動いた。
放った風は村人の身体を断ち切り、背後の柱まで切断した。家を吹き飛ばしたときには、逃げ込もうとしていた場所まで奪ってしまった。村では多くの命が失われたのに、彼は何事もなかったように、アルディスを連れて出かけようとしていた。
セヴェランは大きな瞳を覗いた。
「今日は静かだな」
声を聞いても、アルディスは心を開かなかった。セヴェランを憎み、死んでほしいとさえ願っている。それでも、彼と結ばれた魂の絆を、自分から断つことはできない。今ここで彼に剣が向けられれば、守りたくないと思っていても、身体はまた彼を守るために動いてしまう。
アルディスは顔を横へ向けた。セヴェランが手を下ろし、騎乗の台へ歩いていく。その背を見送ってから、庭の向こうへ目を移した。
黒い天馬が立っていた。
ノクスの厚い首のそばで、ヴァルテルが護衛と話している。国王が動くと、黒い瞳もその姿を追った。ノクスもまた、ヴァルテルの死を願いながら、危険が迫れば彼を守らなければならない。
ノクスがこちらへ顔を向けた。
アルディスはしばらくノクスと目を合わせていた。セヴェランが騎乗の台へ上がる足音に、顔を戻す。やがて背に重みがかかり、鞍の革が軋んだ。
セヴェランは鞍へ腰を落ち着け、外套の裾を整えている。庭の兵は顔を上げ、白い翼が開くのを待っていた。
アルディスは首を低くした。セヴェランが手綱を持ち直す。
村へ降りたあの日も、人々はこの翼を見上げていた。
あのときの目は、もうこちらを見ない。アルディスは首を起こし、脚に力を込めた。
白い翼が開くと、庭の兵が身を屈めた。セヴェランは鞍の上で身体を起こし、その姿を見下ろした。




