第29話 来年の働き手
翌日の昼、五人が修理した道具を受け取りに来た。
家の戸を閉めてから、リナが小声で尋ねた。
「本、いつ戻ってくるの?」
ポルフィラは首を振った。
「まだ分からないの」
ガルが椀を置いた。
「うちの父さんは、少しほっとしてた。もう読ませなくても済むって」
シオンはうつむいた。
「せっかく覚えたのに、忘れたくないな」
トーマが隣へ顔を向けた。
「僕も。でも、家の人に黙って読むわけにはいかないよ」
セラがポルフィラを見た。
「また読めるようになったら、教えてね」
ポルフィラはうなずいた。いつとは言えなかった。六人はそれぞれ道具を持ち、次に集まる約束をしないまま家へ戻った。
*
その後、巡察の日が決まった。
管理者が二人の天馬の民を連れて鍛冶場へ来ると、ドランは作業を止めた。ポルフィラも、運んだ薪の籠を壁際へ置く。
帳面を抱えた男が入口に立ち、もう一人は修理を終えた道具の前へ進んだ。ドランが説明しようと近づくと、男は手で制した。
「そこでいい。ここにあるのは、全部納める物か」
ドランは足を止めた。
「いいえ。納める分はこちらです。隣には、村や近くの村から預かった修理品を置いています」
男は二つの置き場所を見比べた。
「新しく作る仕事と、修理を両方しているのか」
「はい。納める道具を作りながら、壊れた物も直しています。畑で使えなくなると困るので」
帳面の男が、ドランの後ろにいるポルフィラへ目を向けた。
「その娘も、ここで働くのか」
ドランは娘のそばへ戻った。
「家の手伝いをしています。十四歳です」
「来年には一人分になるな。何をさせている」
村では十五歳から成人とされ、納付を担う働き手の一人に数えられる。来年、自分もその数に入る。ポルフィラは父を見上げた。
ドランが答えた。
「薪や修理品を運び、仕上がった道具を数えています。鍛冶の仕事は任せられません」
男は娘へ顔を向けた。
「おまえがしているのは、今言った仕事か」
ポルフィラはうなずいた。
「はい。父の手伝いをしています」
男が帳面へ書きつけた。何と記されたのかは見えない。ポルフィラは、自分の来年の仕事が、この帳面を持ち帰る人たちに決められるのだと思った。
管理者が言葉を添えた。
「今も手伝っています。十五歳になったからといってすぐに新しい労働力になれるわけではありません」
男は顔を上げた。
「今できる仕事は記す。割当ては、報告を見て役所が決める」
*
道具を見ていた男が、ドランを呼んだ。
「倉の修繕の話は聞いているな」
「はい。扉と金具を直すと聞きました」
「重い扉が傾いて、閉めるたびに引っかかる。建物側の木枠と、扉を支える金具を合わせ直す必要がある。木を扱う者と鍛冶の者が要る」
建物の扉を支える金具となれば、取り付ける場所を見なければ分からない。
「傷んだ金具だけを外して、こちらへ送ることはできないのでしょうか」
男は眉を寄せた。
「金具だけ直しても、木枠がずれたままでは扉が合わん。町の職人は別の倉にかかっていて、間に合わないから、おまえたちを使うか調べているんだ」
ドランは返事をしかけ、口を閉じた。
四年前は、荷を届けてその日のうちに帰れた。修繕となれば、いつ戻れるか分からない。自分が離れたあと、ミレアと娘の暮らしを誰が守るのか。その心配をここで口にすれば、命令を嫌がっていると受け取られかねなかった。
管理者が男へ尋ねた。
「入れる場所と、監督する者は決まっているのですか」
帳面の男が答えた。
「使うことになれば、倉の裏手から修繕する区画へ入れる。町の通りは歩かせない。こちらの係が付き、終われば村へ戻す」
男はドランへ目を向けた。
「町へ出て好きに働けると思うな。倉を直す間だけだ。決まった所から出れば、処罰される」
「……分かりました」
ドランは答えた。入るよう命じられた場所でも、道を一つ間違えれば、逆らったことにされるかもしれない。許しがあるから安全だとは思えなかった。
ポルフィラは父の顔を見た。町へ行く話なのに、四年前のように、どんな所を見られるんだろうとは、もう考えられなかった。
管理者が続けた。
「村にも、修理を待つ物があります。連れ出す期間と、納める道具の期限は、調整してもらう必要があります」
帳面の男は、持っていた筆を止めた。
「それも書いておく。おまえを呼ぶか、何日使うかは、役所が決める。今日はまだ命令を出していない」
ドランはうなずいた。だが、呼ばれたときに断れるとは言われなかった。
男たちが次の仕事場へ向かうと、ポルフィラは父のそばへ寄った。
「父さん、行くことになったの?」
ドランは娘へ顔を向けた。
「まだ決まっていない。母さんには、今日聞いたことを話す」
父の返事を聞いても、ポルフィラは安心できなかった。いつもこの鍛冶場にいる父を、知らない場所へ連れていくかどうか、別の誰かが決めようとしていた。




