↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
PR
275/296

265話 翼を射られた竜

長老たちのいる場所を離れると、赤銅色の竜が先に立って飛んだ。

オブシディオンはその後を追い、谷の中腹にある広い岩場へ下りた。

そこには、旅から戻った竜たちがいた。

一頭は、濃い茶色だった。

胴が厚く、畳まれた翼も大きい。

首を上げると、オブシディオンより大きく、こちらを見下ろした。

隣には、明るい灰色の竜が伏せている。

その向こうで体を起こした緑の竜は、オブシディオンより小さかった。

どの竜の鱗も、日の当たり方で色を変えた。

茶色には金色の光が走り、緑の鱗は、影に入ると深い森のような色になった。

ポルフィラは角のそばに立ったまま、一頭ずつ見た。


赤銅色の竜が鳴くと、休んでいた竜たちの目が、いっせいに彼女へ向いた。

長い首が伸び、鼻先が少し近づいてくる。

ポルフィラは息を詰めた。

近くで見る茶色の竜は、やはり大きかった。

けれど、先ほどの長老たちを思えば、この竜たちも、確かに「チビ」なのだろう。


〈ここにいるものたちは、このところ旅から戻ったそうだ〉

オブシディオンが告げた。


〈弩弓のこと、聞いてもらえる?〉


黒い竜はうなずき、彼らへ声を掛けた。


*


オブシディオンは、銀の竜が大きな弩の矢に射られて死んだことを話した。

繋がった人を連れ帰り、そのまま息絶えたことも。

茶色の竜が、低く唸った。

緑の竜も首を起こし、話を聞いている。


「その武器を持つ人間の国を、知っているか」

オブシディオンの問いに、茶色の竜は首を振った。


「知らぬ。見たこともない」


緑の竜も、知らないと答えた。

赤銅色の竜にも、心当たりはなかった。


ポルフィラには、彼らの声が低く鳴り交わされているだけに聞こえた。

けれど、返事を待つオブシディオンの様子から、すぐには分からないのだと察した。


そのとき、灰色の竜が頭を上げた。

「私は、その国は知らない。だが、帰る途中で、射られた竜に会った」


オブシディオンの首が、すぐにそちらへ向いた。

「生きていたのか」


「ああ。岩山の間で休んでいた。翼の膜に、穴が開いていた」


ポルフィラは、黒い鱗へ手を置いた。

〈何か、分かった?〉


彼の声が届いた。

〈帰る途中で、翼を射抜かれた竜に会ったと言っている〉


彼女は顔を上げた。

〈生きているの?〉


〈生きている〉


胸に、安堵が広がった。

話を聞けるかもしれない。

その竜は命を落とさずに済んだのだ…


*


灰色の竜は、オブシディオンへ話を続けた。

「翼を広げれば飛べる。だが、長く飛ぶと傷に響くらしい。ここまで戻るのは、まだ難しいと言っていた」


「どこで射られた」


「そこまでは聞かなかった。翼の傷が落ち着くまで、あの場所にいると話していた」


オブシディオンは、体の脇へ畳んだ翼を少し動かした。

長く空を渡るには、翼を何度も広げなければならない。

膜が破れたまま、この山々まで飛んで戻ることはできなかったのだろう。

「獲物はいるのか」


「あの辺りの岩山を巣にしている、大きな鳥がいる。遠くまで追わずに捕れるそうだ。天馬を追い回すより、今の翼には楽だろう」


その竜が休んでいるのは、高い岩山に囲まれた場所だという。

切り立った岩が重なり、外からは姿が見えにくい。

岩壁には大きな鳥が巣を作り、何度も出入りしていた。

傷ついた竜はそこで身を隠し、近くの鳥を狩っていた。

遠くへ飛ばなくても食べ物があり、翼が安定するまで休める場所なのだという。


「まだ、いるだろうか」

オブシディオンが尋ねた。


「私が会ったときには、急いで出るつもりはなかった。翼をかばいながら旅をするより、そこで休むと言っていた」


ポルフィラは、オブシディオンからその話を聞いた。

大きな竜が、傷ついた翼を畳み、岩の間で休んでいる。

飛ぼうと思えば飛べても、長くは続かない。

生まれた場所へ帰る道さえ、今は遠いのだ。


〈会いに行こう〉

彼女は告げた。

〈どこで、何に射られたのか、その竜なら話せるかもしれない〉


〈ああ〉


〈銀の竜を射たのと、同じ武器かは分からないけれど〉


オブシディオンは灰色の竜へ向き直った。

「その場所を教えてほしい」


*


ポルフィラは岩場へ下りた。

周りの竜たちの顔が、こちらへ下がってきた。

オブシディオンから離れた人間が、珍しいのだろう。

緑の竜は、彼女の頭から足元まで眺めている。


ポルフィラは少し緊張しながら、旅の袋から帳面を取り出した。

〈教えてもらったことを、描いておきたいの〉


オブシディオンは彼らへ短く鳴き、灰色の竜に道を尋ね始めた。


どちらへ飛び、何を目印に進めばよいのか。

灰色の竜は、首を向けて方角を示し、途中で見た山や川について話した。

オブシディオンはそれをポルフィラへ伝え、彼女は帳面へ書き留めた。


灰色の竜が頭を寄せ、紙の上を覗き込んだ。


〈この山の向こうで、川が曲がるそうだ〉


〈こう?〉


ポルフィラが線を引くと、オブシディオンが確かめた。

灰色の竜も鼻先を動かし、また声を上げる。

少しずつ、探す場所の目印が揃っていった。

ポルフィラは最後の線を描き終え、顔を上げた。


「ありがとう」


竜たちには、その言葉の意味は通じなかった。

けれど、彼女が頭を下げると、灰色の竜はしばらく見つめてから、首を少し引いた。

オブシディオンが、彼へ礼を伝えた。


*


出発する前に、ポルフィラは携帯食を食べ、水を飲んだ。

オブシディオンも岩場へ体を伏せ、しばらく翼を休めた。


彼女はそのそばに座り、帳面を見返していた。

ようやく、弩弓のことを知る相手が見つかった。

それも、実際に翼を射られた竜だ。

〈その竜、少しでもよくなっているといいね〉


オブシディオンの目が、彼女へ向いた。

〈そうだな〉


ポルフィラは帳面をしまった。

傷ついた竜を見てから、どうするか考えよう。

まずは、無事でそこにいてほしかった。


やがてオブシディオンが頭を上げた。

ポルフィラは荷を確かめ、翼の付け根から肩へ上がる。

角のそばのいつもの位置に立つと、灰色の竜へ手を振った。


大きな翼が広がった。

周りの竜たちが首を上げ、黒い巨体が浮かぶのを見送った。

ポルフィラは角を握り、進路の先へ目を向けた。

次に探すのは、高い岩山に囲まれた、竜の休む場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。