第261話 海の向こうから届いた品
翌日、ユエンが客殿へ迎えに来た。
「港から品物が届いたんだ。君も見てみない?」
ポルフィラが立ち上がると、彼は嬉しそうに笑った。
その隣から、シェンリュカも顔を出す。
「私も行くわ。まだ包みを開けていない物もあるんですって」
三人が向かったのは、宮殿の中にある検品する部屋だった。
長い机に、布や器、蓋をした小さな壺が並んでいる。
役人と商人が、開いた箱を前に話していた。
ユエンが入ると、二人は手を止めて頭を下げた。
「そのままでいい。こちらの品を見せてもらえるかな」
商人が、机の上の布を広げた。
深い赤に、見慣れない模様が織り込まれている。
ポルフィラは勧められて端に触れ、裏側も見せてもらった。
「こちらで織った布とは、模様が違うね」
「ああ。海の向こうの国から来た品だよ」
ユエンが答えた。
「この壺に入っている香辛料も、同じ船で届いたんだ」
シェンリュカが蓋を開けてもらい、そっと顔を近づけた。
すぐに目を丸くする。
「強い香りね」
ポルフィラも匂いを嗅ぎ、思わず鼻を押さえた。
二人が同じ顔をしたので、ユエンが笑った。
「料理に使うのは、少しだけだそうだよ」
「それなら、先に言ってよ」
シェンリュカが兄を見た。
ユエンは笑いながら、商人に蓋を戻すよう頼んだ。
ポルフィラは、まだ鼻の奥に残る香りを気にしながら、次の箱を覗いていた。
*
品物を見終え、三人は中庭の長椅子へ座った。
侍女が飲み物を運び、少し離れた所へ下がる。
ポルフィラが杯を受け取った。
「外国とは、商人の船だけが行き来しているの?」
「国の使節が来ることもあるよ。近隣の数か国とは、こちらからも使節を送っている」
ユエンが答えた。
「そうなんだ」
「ただ、どこの国へでも船で行けるわけではないんだ。知らない海の方が、ずっと広い」
ポルフィラは、帰り道で休んだ小島を思い浮かべた。
船からなら、あの島も簡単には見つけられないのだろう。
「私の故郷にも、いつか、さっきみたいな船が来るのかな」
ユエンはうなずいた。
「そうなってほしいね。君が持ってきてくれた品を見た職人たちも、向こうの作り手の話を聞きたがっているよ」
「父さんも、ここの職人さんに会えたら喜ぶと思う」
ポルフィラは笑った。
「仕事の話を始めたら、なかなか終わらないけど」
「お父様が来たら、工房へ案内するわ」
シェンリュカが言った。
ポルフィラは、ドランが珍しい道具の前から動かなくなる姿を話し、三人で笑った。
いつか本当に案内できたらいいと、ポルフィラは思った。
*
夕食の席で外国の品の話になると、リャンがうなずいた。
「ちょうど、あの船が帰るときに、書状を託そうと思っていたところだ」
「外国へ、ですか?」
ポルフィラが尋ねた。
「ああ。竜を射る武器について、見聞きしたことがないか、改めて尋ねたい」
ユエンが父へ顔を向けた。
「お祖母様が戻られたときにも、調べたのでしたね」
リャンは、少し表情を曇らせた。
「祖母がどこを旅したのか分からず、あの矢がどこの物かも、突き止められなかった。だが、それから年月がたっている。今なら、別の話を知る者がいるかもしれぬ」
ポルフィラは箸を置いた。
「では、お願いしてもいいですか。私たちは、予定どおり竜の故郷へ行ってみたいんです」
「もちろんだ。こちらで分かったことは、そなたたちが戻ったときに伝えよう」
リャンは庭へ目を向けた。
オブシディオンは、広場で静かに休んでいる。
「人の国のことは、私たちも調べられる。竜たちの話は、二人に頼む」
ポルフィラはしっかりとうなずいた。
「はい。何か分かったら、私たちもお伝えします」
シーランが、二人の顔を見て微笑んだ。
「どちらも、すぐに答えが出るとは限りませんものね。焦らずに進めてください」
「そうだな」
リャンが答えた。
「船で書状を送り、相手が調べ、返事が戻る。それだけでも時間はかかる」
ポルフィラは、夕方の中庭でした会話を思い出した。
地図には線を引けても、人が行き来するには、線を引くようにはいかない。
自分が竜たちの山へ向かう間にも、この国では、弩弓と航路の二つを調べてくれるのだ。
「ありがとうございます」
リャンは、いつもの親しい笑顔へ戻った。
「礼ばかり言わずに、食べなさい。そなたの好きな料理が、まだ残っているぞ」
ポルフィラが皿へ目を向けると、シェンリュカが勧めてくれた。
食事の席は、また和やかな話し声に包まれた。
*
食後、ポルフィラはオブシディオンのそばへ行った。
彼は顎を草へ下ろし、近づいてくる彼女を目で追った。
〈リャン陛下も、弩弓のことを調べてくださるって。外国へ書状を送るそうだよ〉
〈そうか〉
〈私たちは竜たちに聞いて、こちらでは人に聞くの。何か分かるといいね〉
ポルフィラは鼻先のそばへ腰を下ろした。
大きな目の縁を、宮殿の明かりが照らしている。
〈あなたの故郷までは、ここから遠い?〉
〈遠い。山も海も越える〉
〈途中で、知らない国も見えるかな〉
〈見えるだろう。昔と同じ場所にあるとは限らぬが〉
ポルフィラはうなずいた。
見知らぬ土地への楽しみと、そこで待っているかもしれない危険…
黒い竜が、鼻先を少し寄せた。
ポルフィラは手を置き、その硬い鱗を撫でた。
〈でも、楽しみだよ。あなたが育った場所へ行けるの〉
〈着いたら、私が昔いた所を見せてやろう〉
ポルフィラは顔を上げた。
〈うん。案内してね〉
オブシディオンの目が、ゆっくり細くなった。
ポルフィラは、そのそばでしばらく涼しい夜風に当たっていた。




