↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
PR
270/292

第260話 約束した国へ

海を渡る間、ポルフィラは何度も帳面を開いた。

岩の尖った島。

二つ並んだ小島。

広い浜のある島。

前の旅で描いた形と見比べながら、オブシディオンと休む場所を選んだ。

雨が続いて、島で待つ日もあった。

空が晴れればまた飛び、やがて、海の向こうに大きな島と、高く連なる山々が見えてきた。


〈戻ってきたね〉


〈ああ〉


ポルフィラは、風に乱れた髪を押さえた。

あの山の手前に、リャンたちの住む宮殿がある。


*


ハイナの村では、レンが大きく手を振って迎えてくれた。

ポルフィラはメイとガンにも顔を見せ、故郷で自分が選んできた土産の包みを渡した。

「今度は、私の国の物。皆に持ってきたよ」


レンが嬉しそうに包みを受け取り、メイとガンも中を覗いた。

品を囲んで、故郷の家族や友達の話が始まった。


タオの店では、彼の分と、働き手たちへ用意した土産を渡した。


タオは包みを眺め、笑って彼女を迎え入れた。

「帰ってきて、顔を見せてくれるだけでも嬉しいのに。ありがとう」


ウェン・ルイの屋敷にも立ち寄った。

土産を差し出すと、彼は穏やかに微笑んだ。

「故郷でも、私たちを思い出してくれたのだね」


「はい。ぜひ見てもらいたくて」


その晩は屋敷に泊まり、故郷の様子を話した。

翌日、オブシディオンの背に立ったポルフィラは、角を握って宮殿へ向かった。


王都の人々は、黒い竜の姿に気づくと顔を上げた。

店先から出てくる者がいる。

道の端で立ち止まり、隣の者へ空を指す人もいた。


「オブシディオン様だ!」

声が、通りへ広がっていった。

ポルフィラは、背から大きく手を振った。

あちこちで腕が上がる。

その光景に、自然と笑みがこぼれた。


*


宮殿へ近づくと、庭の働き手たちがこちらに気づいた。

オブシディオンが以前休んでいた広場から、人々が離れていく。建物の中へ知らせに走る者もいた。


黒い翼が風を受け、巨体がゆっくり下りた。

後脚が地を踏むと、周りの木々が大きく揺れた。翼が畳まれ、鉤爪が地面へ触れる。

その頭が下がりきる前に、回廊の向こうから声がした。


「ポルフィラ!」

シェンリュカだった。

きれいな茶色の髪を揺らし、長衣の裾を持ち上げて走ってくる。


ポルフィラは肩から翼の付け根へ移ると、跳び下りた。

両足で軽く着地し、駆け寄ってくる友達へ両腕を広げる。

「ただいま!」


「本当に戻ってきた!」


抱き合う二人のそばへ、ユエンが来た。

すらりとした体に深い黒の長衣がよく似合っている。

妹とよく似た整った顔の中で、鮮やかな緑の目が、まっすぐポルフィラを見ていた。

「お帰り」

彼女が顔を上げると、ユエンはもう一度、確かめるように言った。

「無事で、よかった」


「うん。皆にも会ってきたよ。話したいこと、たくさんあるの」


ユエンの顔に、嬉しそうな笑みが広がった。

「聞かせて。今度は、君の故郷の話だね」


「私にもよ」

シェンリュカが、ポルフィラの腕を離さずに言った。


そこへリャンとシーランも現れた。


リャンは娘たちの後ろで足を止め、オブシディオンを見上げた。

「また、この庭に来てくれたのだな」


ポルフィラは、シェンリュカの腕をそっと外して二人の前へ進んだ。

「はい。約束しましたから」


シーランが微笑み、彼女の手を取った。


リャンは、竜と娘を交互に見てから、大きくうなずいた。

「よく戻った。さあ、旅の荷を下ろそう」


*


身支度を整えたあと、ポルフィラはリャンへ文箱を渡した。

レオンハルトから託された、封をした返書だった。


「陛下の申し出を、とても喜んでいました。こちらの国を、もっと知りたいと」


リャンは封を開いた。

二つの国の言葉で書かれた紙を並べ、ユエンとともに読み進める。


「使節を、迎えてくださるのか」


「はい。海を渡る方法も調べ始めています。島の絵の写しを、海に詳しい領主様が調べてくださっていて」


ポルフィラは、文箱と一緒に持ってきた海路図の写しも広げた。

故郷までに見つけた島々を順番に並べ、目印になる岩や浜を書き込んだものだった。


「これも、お渡しする約束でした。こちらでも使えるように、故郷で写してもらってきたんです」


ユエンが身を寄せ、リャンも島の絵を一つずつ確かめた。

ポルフィラはそばで、どの島で休んだのかを説明した。


リャンが顔を上げた。

「ありがとう。航路を調べる者たちにも、見せよう」


ユエンは図の端を押さえた。

「こちらでも古い記録を探しているよ。まだ向こうまで続く航路は分からないけれど、この図と比べてみる」


「同じだね。少しずつ調べようって、レオンハルトも言っていた」


リャンは返書を読み終え、机へ丁寧に置いた。

「遠い国に、話を進めてくださる方がいる。それが分かっただけでも、大きな前進だ」


レオンハルトからの贈り物も運び込まれた。

箱を開けると、一家は身を寄せて中を見た。シェンリュカが一つ手に取り、父や母へ見せている。


その様子を見ながら、ポルフィラは故郷で品々を広げた夜を思い出した。

海を隔てた二つの食事の席で、同じように人々が目を輝かせていた。


*


その晩、ポルフィラは以前と同じ席へ座った。

ユエンが隣にいて、向かいではシェンリュカが料理を勧めてくれる。

庭では、オブシディオンが翼を畳んでいた。


故郷の村が大きくなっていた話をすると、リャンは身を乗り出した。

ドランが異国の金属を鍛えていると聞き、シェンリュカは嬉しそうに手を合わせた。

家族や友達のこと、二つの民が同じ町で働いていたこと。話す間、一家は何度も尋ね、笑い、相槌を打った。


食事が落ち着いた頃、ポルフィラは次の旅のことを伝えた。

「今度は、オブシディオンの故郷へ行くつもりです」


リャンの手が止まった。

ユエンとシェンリュカも、同時に顔を上げる。


「竜たちの住む、火を吹く山々へか」


「はい。弩弓のことを、ほかの竜にも尋ねてみたいんです。外の世界を旅して、戻ってきた竜もいるそうなので」


リャンは庭へ目を向けた。

「オブシディオン殿は、あの武器をご存じなかったのだね」


「昔の旅では、見たことがないそうです。でも、今の世界は、その頃とは違うはずだから」


「最近まで旅をしていた竜なら、危ない国のことも知っているかもしれません。すぐに見つからなくても、まずは話を聞きたいんです」


リャンは、ゆっくりうなずいた。

「それなら、確かに尋ねてみる価値がある。竜を射る人間を、ほかの竜も知っているかもしれぬ」


シェンリュカは、興奮を抑えきれない顔で庭を見た。

「オブシディオン様のような竜が、ほかにもいる場所なのね」


「色も、大きさも違う竜がいるんだって。私も、会うのは初めて」


ポルフィラの声も、少し弾んだ。

ユエンは、そんな彼女を見て微笑んだ。


「また、話してもらいたいことが増えたな」


「うん。あなたたちが見たがりそうな竜がいたら、ちゃんと覚えてくるね」


シーランが、そっと口を開いた。

「今は、戻ってきてくださったばかりですもの。しばらくは、ここで休んでいってくださいね」


リャンもすぐにうなずいた。

「そうだ。まだ故郷の話を、半分も聞いておらぬ」


皆が笑った。

ポルフィラも笑い、庭の黒い竜へ顔を向けた。


〈行き先のこと、皆に話したよ〉


〈そうか〉


〈皆、あなたの故郷を見てみたいって顔をしてる〉


オブシディオンは、一家へ目を向けた。

〈まずは、お前に見せてやろう〉


ポルフィラは嬉しくなって、うなずいた。

次に向かうのは、彼が生まれ育った山々だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。