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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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第27話 村を調べる者

翌朝、ポルフィラはガルの家へ向かった。父母から聞いたことが頭に残り、あまり眠れなかった。朝の食卓でも何を話せばいいか迷ったが、家を出る前には、ガルの母に会ってくると伝えた。


戸口で声をかけると、ガルの母が濡れた手を拭きながら出てきた。

「おはよう。ガルなら、お父さんと畑へ行ったよ」


ポルフィラは首を振った。

「今日は、おばさんに聞きたいことがあるんです」


母親は手に持っていた布を置いた。ポルフィラは一度息を吸ってから、昨夜、父母に話してもらったことを伝えた。

「私が赤ん坊のとき、おばさんが乳をくれたって。あのころのこと、聞いてもいいですか」


ガルの母は娘の顔を見つめ、家の中へ招いた。

「そう。二人から聞いたんだね。もちろん、いいよ」


椅子に座ると、ポルフィラは膝の上で手を重ねた。

「私、ガルと同じくらい小さかったんですか」


「ええ。あの子も、まだ首を支えて抱くころだったからね。あなたにも乳をあげようとしていたら、ガルが泣き出して、あなたのお父さんが慌てて抱いてくれたこともあったよ」


ポルフィラは顔を上げた。

「父さんが、ガルを?」


母親は笑った。

「二人とも泣いたら困ると思ったんだろうね。でも、抱いたあとで、どうあやせばいいか分からなくなって。私の顔ばかり見ていたよ」


大柄な父が、小さなガルを抱いて途方に暮れている。その姿を想像すると、ポルフィラの口元が少し緩んだ。


「あなたのお母さんとは、そのころもよくこうして話したんだ。夜は眠れたか、乳は足りているかって。赤ん坊を育てるのは、初めてだったからね」


ポルフィラはうなずいた。何気なく母と一緒に訪ねていたこの家に、覚えていないころから来ていたのだ。

「おばさんも、私を引き取ったことは知っていたんですよね」


母親は笑みを収めた。

「ええ。初めに聞いたよ」


ポルフィラは指を握った。

「昨日まで、私だけ知らなかったんだなって」


ガルの母は、すぐに言葉を返さなかった。ポルフィラが目を上げると、静かにうなずいた。

「そう思うよね。私たちも、二人が話すまでは黙っていようと決めていたんだ」


なぜ黙っていたかは、昨夜も聞いた。それでも胸に残るものはあった。ポルフィラはうつむいたまま尋ねた。

「ほかに、私の小さいころの話はありますか」


「あるよ。歩けるようになってからも、あなたのお母さんと来ていたもの」


母親が、ガルと庭の土を掘って服を汚した日の話を始めた。そこまで育ったころなら、ポルフィラにも覚えていることがある。覚えていることが出てくると、ポルフィラも「あのとき?」と尋ねた。初めに来たときより、少し話しやすくなっていた。


*


そのころ、村の管理者は町の役所にいた。四年前、ドランたちが荷を届けた町だった。入口には緑の旗が掛かっている。この町も、周辺に点在する竜の民の村々も、ヴェルディア家の領地に属していた。


役人は、管理者が持参した納付の帳面を机に置いた。そばには、ほかの村の帳面も積まれている。

「来月、この近辺の村を順に調べる。畑と仕事場を確かめる者を二人送るから、案内してくれ」


管理者は役人を見た。

「納付の量を確かめるためですか」


「それだけではない。何を作り、何人が働いているかも見る。今の割当てを変える必要があるか、帳面だけでは分からんからな」


管理者は、自分の担当する村の帳面へ目を落とした。

「作物によって、畑に人手が要る時期が違います。ほかの仕事に人を回せば、その分、収穫に響くこともあります」


役人は帳面を閉じた。

「だから、調べてから決める。おまえは普段どおりの様子を見せればよい」


村の暮らしを確かめるという言葉に、管理者は少しだけ期待した。人手が足りない時期や、道具の修理が重なる事情を見てもらえれば、割当てを減らしてもらえるかもしれない。


だが、役人は続けた。

「余力があれば、もっと納めさせる。使える手を遊ばせておくわけにはいかん」


管理者は顔を上げた。帳面に書かれた品を納めるため、村人がどれほど働いているかを知っている。けれど、自分がそう伝えるだけでは、役人の判断は変わらなかった。

「調べに来る者には、私からも事情を説明します」


「そうしてくれ。日が決まったら知らせる。仕事場や、品を置いている場所には入る。村の者にも、そのつもりで伝えておけ」


役人は、もう一つの用件を付け加えた。

「町外れの倉で、扉と金具を直さなければならん。町の職人は別の倉の修繕にかかっていて、次の納付までに手が回らない。現場へ入れて使える職人が村にいるかも、確かめさせる」


管理者は役人を見た。竜の民を倉へ入れるほどの修繕なのか。だが、今は職人の候補を調べるという指示だった。返事をして、帳面を受け取った。


*


来月には、村人にとって見知らぬ二人が村へ入る。村人が知らない者を怖がることは、役人には伝わっていないだろう。


仕事場まで入られるのなら、ドランにも早めに知らせる必要があった。


管理者は、村へ渡した教科書のことを思った。今も読むたびに隠しているはずだ。だが、巡察の日に片づければ済むだろうか。予定が変わり、先に誰かが来ることもありうる。


本が見つかれば、文字を学んだ子供も、それを許した親も処罰される。竜の民には、命を失う刑さえ下される。自分が本を渡したと申し出ても、村の者が助かる保証はない。


管理者は帳面を抱え直した。巡察の知らせを待ってからでは遅い。次に村へ行ったとき、ドランと二人で話せる時間を作ろうと思った。

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