第233話 増えていく土産
ポルフィラは、先日立ち寄った店へ戻った。
並んだ品を見比べ、値段を確かめてから、一つ選んだ。
包みを受け取って通りへ出ると、何度も手元を見た。
自分の働いたお金で買った、初めての土産だった。
そのまま町の外へ足を向けた。
林の奥では、オブシディオンが岩に顎を載せていた。
〈お土産、買えたよ〉
ポルフィラは包みを持ち上げた。
彼は鼻先を寄せた。
〈喜ぶだろう〉
〈まだ、みんなの分はそろわないけど〉
〈帰るまでに考えればよい〉
ポルフィラはうなずき、包みを大切にしまった。
*
仕事では、荷物を運ぶ先を少しずつ覚えた。
初めは店の者の後ろをついていった道も、一人で荷車を引いて行けるようになった。
揺れない地面なら楽だと思っていたが、坂では重さが違う。でこぼこした道では、荷がずれないように気を配った。
倉庫では、布や油、干した食べ物など、扱う品も多かった。
土地の文字には、知っているものと似ていても読めないものがあった。
ポルフィラは荷札を持ってタオを訪ね、教わった読み方を端の板へ書き留めた。
数は確かめられる。
荷札も読めるものが増える。
やがて、運び込まれた荷を受け取り、帳面を確認する仕事も任されるようになった。
足りない籠が一つあると伝えると、タオは帳面と荷を見直した。
「こちらの書き忘れだ。よく確かめたね」
タオとの信頼関係が確かなものになっていった。
*
夕方の岩場には、羽が落ちている日も、海の匂いが残っている日もあった。
オブシディオンは海へ狩りに出るほか、山沿いに飛び、島の奥も見て回っていた。
ポルフィラが仕事のない朝に訪ねると、彼は背を低くした。
〈今日は、どちらへ行く〉
〈海。少しだけ、遠くまで〉
岩場を飛び立てば、町も倉庫も小さくなった。
仕事の合間に遠くの空を見上げていたポルフィラは、今度はそこから畑や街道を眺めた。
海岸へ出れば、漁船が並んでいた。
ハイナ村の浜へ降りると、レンとメイが仕事の手を止めて駆けてくる。
「ちゃんと食べてる?」
メイに頬を見られ、ポルフィラは笑った。
「食べてるよ。今日はお菓子を買ってきたの」
ガンも呼んで分け合うと、店での話をせがまれた。
久しぶりに乗ったレンの船では、以前より動けるようになっていた。
*
町へ来てひと月ほどたった夕方、ポルフィラは林の入口でタオと出会った。
彼は近くの得意先から戻るところだった。
手に小さな帳面を持っている。
「こんなところで何をしているんだい」
ポルフィラは立ち止まった。
答える前に、頭上で大きな羽音がした。
海の方から戻ってきたオブシディオンが、木々の向こうへ姿を消した。
翼の先を目で追ったタオが、ポルフィラへ向き直る。
「……レンたちの村へ、竜に乗った娘が来たという話は聞いていたが」
「私です」
タオはしばらくポルフィラを見ていた。
「一緒に旅をしてきたのかい」
「はい」
「そうか。それで、あの日、確かめることがあったんだね」
ポルフィラがうなずくと、タオは手の帳面を閉じた。
「今日はもう仕事も済んでいる。食事に遅れるなら、戻ったときに台所へ声をかけなさい」
それだけ言って、町へ歩いていった。
竜を見たいとも、どこにいるのかとも聞かなかった。
*
食事と寝床を用意してもらえるので、給金は少しずつ残った。
初めに決めた旅の費用は別の袋へ入れ、それから土産を選んだ。
休みの日に店を巡り、気に入ったものを少しずつ買い足していった。
一つ買うと、別の人の顔が浮かぶ。
その人の物を選んでいると、隣の店でまた足が止まった。
ふた月ほど過ぎた頃には、部屋の隅へ置いた箱がいっぱいになった。
戸口からのぞいたタオが、その前でしゃがんでいるポルフィラを見た。
「ずいぶん買ったね」
「持って帰りたい人が、たくさんいて」
ポルフィラは膝の上の包みを箱へ戻した。
一つずつは小さくても、集まると思った以上にかさばった。
タオは倉庫を指した。
「棚を一つ空けよう。湿気ないように包んで、そこへ置けばいい」
「ありがとうございます。すごく助かります」
言ってから、ポルフィラは運ぶときのことを考えた。
オブシディオンの背に、どうやって積もう。
*
岩場で相談すると、オブシディオンは包みの数を聞いた。
ポルフィラが指を折り始めると、先に声が返ってくる。
〈まとめて、落ちぬようにくくればよい〉
〈翼の邪魔にならない?〉
〈積む時に教える。まだ増えるのだろう〉
ポルフィラは指を止めた。
〈……もう少しだけ〉
オブシディオンの鼻から、長い息が漏れた。
*
町で三度目の給金を受け取る頃には、ポルフィラの担当する倉庫が決まっていた。
任された分を確かめ、届け、帰ってきたら次の支度をする。初めより仕事が増えた分、給金も上がっていた。
旅の費用はたまった。
土産の包みも、倉庫の棚で大きな山になっている。
……そろそろ、次へ行ってもいい。
そう考えた夕方、ポルフィラはタオへ、近いうちに旅を再開したいと伝えた。
新しく入る人へ仕事を教え終えるまでいてくれるなら助かると頼まれ、うなずいた。
店を出る前に、土産の棚を見た。
帰る前には、レンとメイにも会いに行こう。
ガンに聞かれた町の話も、まだ話していないことがある。
林へ続く道を歩いていると、町へ戻る男たちとすれ違った。
一人がポルフィラを見て、隣の者へ何か話した。
背に乗って飛び立つところを、以前この辺りで見られたことがあった。
岩場では、オブシディオンが首を上げて待っていた。
ポルフィラは前脚へ手を置き、そのまま背へ登った。
〈もう少しで、出られそう〉
〈そうか〉
〈次は山の方へ行ってみたい。まだ、見ていないところがたくさんあるもの〉
オブシディオンが町とは反対へ顔を向けた。
ポルフィラもその先を見ようとしたとき、林の入口で足音が止まった。
振り返ると、道の脇に男が二人立っていた。
一人は配達先の商家で何度か見たことのある男だった。
その男が、背の上のポルフィラを指さす。
「あの娘です」
隣の男は整った服を着て、腰に剣を下げていた。
オブシディオンを見上げたまま、しばらく声を出さなかった。
ポルフィラは背から下りた。
「……何か、ご用ですか」
男はようやく彼女へ視線を移した。
「この領地の主より、お言葉を預かっている」
差し出された書状へ手を伸ばしかけ止めた。
「竜とともに、屋敷へお越しいただきたい」
男の目は、もう一度、彼女の後ろへ向いていた。




