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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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216/285

第216話 二つの命令

詰所へ来たヴィオレスタの医師が、ポルフィラの治療後の体を確認した。

「今日は、ここで休んでください。館へ戻るのは明日にしましょう」


ポルフィラはうなずいた。

庭では、オブシディオンが窓のそばへ首を伏せている。


隣の部屋から、男の声が聞こえた。

捕らえられた王の追撃隊の指揮官が、リゼリアたちへ事情を話していた。


*


指揮官の頬には、白い布が当てられていた。

両手は机の上に置かれている。背後には、見張りのヴィオレスタ兵が二人いた。

向かいに座るのはレオンハルトとレオノーラ。

西門の小隊長も、入口のそばに立っていた。


レオノーラが尋ねた。

「あなたが王から受けた命令を、もう一度話してください」


「王都を離れた兵を捕らえろと。それから、殿下が迎えに出てきたら、城へ連れ戻せと命じられました」


「殺すことも、認められていましたか」


「いいえ。生きたまま連れてこいと、王がおっしゃいました。私も、その場で繰り返して確認しております」


レオンハルトは、指揮官を見た。

父は自分を捕らえようとしている。それは分かっていた。

だが、この男が止めなければ、自分は殺されていたかもしれない。

「私を斬ろうとした兵は、王の密命だと言ったそうですね」


「はい。ですので、止めました。私が受けた命令と違います」


入口で、小隊長が拳を握った。

「なら、あいつは嘘をついたのか」


レオノーラは首を振った。

「まだ分かりません。本人が嘘をついたのか、誰かから違う命令を受けたのか、確かめる必要があります」


小隊長は口を閉じた。

床を見下ろし、しばらくしてから言った。

「あの兵は、アウレリスの城に仕えていたそうです。王の呼びかけで王都へ来たあと、うちの隊へ回されました」


レオノーラの目が上がった。

「フェリクスと共に来た者ですか?」


「はい。ただ、隊に入ってからは、ほかの兵と同じように働いていました。殿下へ先に手紙を出そうと勧めたのも、あいつです」


レオンハルトは息を止めた。

あの手紙を読み、自分はここへ来た。

誘い出されたということか……


レオノーラは、小隊長に詳しく話すよう頼んだ。

フェリクスが命じたという証拠はない。


*


捕らえた兵は、別の部屋にいた。

レオノーラが入ると、椅子に座った男の肩が強張った。


「あなたは王の密命だと言って、王子を斬ろうとしました。その命令を、誰から聞いたのですか」


男は俯いた。

縛られた手が、膝の上で握り合わされている。


「王から直接ですか。それとも、誰かに伝えられたのですか」


「……密命は、話せません」


レオノーラは、男の前へ椅子を置いた。

「王の追撃隊の指揮官は、王子を生きて連れ戻せと命じられたそうです。あなたは、それを知っていましたか?」


男が顔を上げた。

「そんなはずは……」

言いかけて、口を閉じる。


レオノーラは返事を待った。

男は、今度は何も言わなかった。

部屋を出ると、レオンハルトが廊下で待っていた。

「何か、分かりましたか」


「王から直接聞いたとは答えませんでした。命令した者の名は言わないわ。」


王子はうなずいた。

あの兵から事実を聞き出す必要がある。


*


その夜、レオンハルトは庭の端へ出た。

副長の遺体は、詰所の空き部屋に安置されている。

西門の兵たちは、その部屋の前から離れようとしなかった。


ポルフィラは、隣室の窓から王子を見つけた。

「眠れないのですか」


レオンハルトは窓へ近づいた。

黒い竜の頭は、少し先に伏せられている。近づきすぎないようにして足を止めた。

「助けを求めに来た兵を、私の前で死なせてしまいました」


「あなたを襲った人は、皆さんと同じ隊の兵だったのですね」


「はい。だから、誰も疑わなかった。私も、あの兵を近づけてしまった」


ポルフィラは右手を膝へ置いた。

相手が襲ってくると分かってからでは、間に合わないことがある。

自分の腕と脇腹にも、その傷が残っていた。


レオンハルトは、遺体のある部屋へ目を向けた。

「私を捕らえに来た王兵が、私を助けました。私を守りたいと言って来た隊には、私を殺そうとする兵がいた。見分けられませんでした」


ポルフィラには、彼にかける言葉が浮かばなかった。

窓の外へ右手を伸ばすと、オブシディオンが首を寄せた。


レオンハルトはその動きに肩を強張らせたが、そのまま続けた。

「副長を刺した兵が、誰の命令で私を殺そうとしたのか、確かめます。分からないまま、また誰かを私のそばへ立たせたくありません」


ポルフィラはうなずいた。

王子は窓から離れ、副長のいる部屋へ戻っていった。


*


追撃隊の指揮官は、王へ送る報告を書いた。

王子を殺そうとした兵を、自分が止めたこと。

その兵が捕らえられ、王の密命だと主張していること。


レオノーラたちは写しを取り、リュシエンヌへ送った。

原本は、負傷して詰所に残された追撃隊の王兵のうち、帰路に耐えられる者へ預けた。指揮官自身は、見張りつきで留め置かれた。


数日後、王都へ届いた報告を読んで、王は顔を上げた。

「私は、レオンハルトを殺すなと命じたはずだ」


書状を運んだ王兵が、頭を下げた。

「指揮官も、そのようにおっしゃっています」


フェリクスは、家臣たちの列にいた。

捕らえられた兵は、生きている。

声に出さず、書状を持つ王の手を見つめた。


王は、そばの家臣へ命じた。

「その兵が、誰の命令で動いたのか調べろ」

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