第214話 領境へ向かう者たち
王都の西門を守っていた小隊から、レオンハルトへ手紙が届いた。
王都を離れた兵たちが、ヴィオレスタを目指しているという。
手紙を運んできた兵は、館の玄関で膝をついた。
「隊長たちは追手を避け、脇道を使いながら進むと申していました。殿下に、直接お会いしたいと」
レオンハルトには、よく知る隊長の字だった。
だが、リュシエンヌはすぐには面会を認めなかった。
「王兵の一隊が来るのです。手紙どおりの目的か、詰所で確かめさせます」
「分かりました。確かめられたら、私も詰所へ行かせてください。私の手紙を読んで、王都を出た者たちです」
リゼリアが、そばへ来た。
「私も行きます。シルヴァで上から周囲を見て、追手がいないか確かめます」
ポルフィラは椅子から立とうとした。
レオノーラが、その肩へ手を置く。
「あなたは休んでいて。私がヴェスペラと、館からの連絡を受け持つわ」
ヴィオレスタへ来た翌日から、脇腹の痛みが強くなっていた。
医師には、飛び続けた疲れが抜けるまで休むよう言われている。
ポルフィラは、寝具の上で右手を握った。
「何かあったら、知らせてください」
レオノーラはうなずいた。
レオンハルトは、自分の護衛と、リュシエンヌがつけた兵を伴って館を出た。
*
翌日の午後、領境の詰所へ王都からの兵たちが近づいていた。
まだ王領側の道にいる。
ヴィオレスタの兵が少し手前まで出て、持っていた手紙と小隊長の名を確かめた。
レオンハルトは、詰所の庭で待っていた。
坂の向こうに、見覚えのある隊長の姿が見える。
以前、王都で報告を聞いていたときより、頬が痩せていた。
その上空を、シルヴァが回っている。
リゼリアは、兵たちの後方へ目を凝らした。
道の曲がり角から、別の騎馬隊が現れた。
西門の小隊より、ずっと速い。
「追手よ!」
リゼリアはシルヴァを降下させた。
同時に、追撃隊の指揮官が声を張りあげた。
「西門の小隊、止まれ! 武器を捨てれば、その場では斬らぬ!」
小隊長が振り返る。
追手は、すでに後ろの兵へ迫っていた。
「走れ! 領境まで行け!」
離反した兵たちが駆け出した。
王の追撃隊も速度を上げる。馬の蹄が、逃げている兵のすぐ後ろへ迫った。
西門小隊の副長が、道の脇へ退いて剣を抜いた。
追手の馬へ向き直り、斬り下ろされる剣を受ける。
「先に行け!」
金属音が響いた。
副長の横を、仲間が走り抜けた。
*
レオンハルトは、詰所の庭から道へ出た。
ヴィオレスタ兵が、その前へ盾を並べる。
逃げてくる兵と、追う王兵。
どちらの装備にも王家の印がある。
近づく者を片端から斬れば、助けを求めた兵まで殺してしまう。
リゼリアは、領境の横にある草地へシルヴァを下ろした。
追撃隊の騎兵が一人、道を外れて逃亡者の前へ回り込もうとしている。
「そこを通らないで!」
騎兵は止まらなかった。
剣を構えたまま、シルヴァの脇を抜けようとする。
リゼリアは手綱を引いた。
シルヴァが向きを変え、前脚を振り上げた。
蹄が、騎兵の盾を打ち砕いた。
男は鞍から弾き出され、草地へ落ちた。
起き上がろうとして腕を動かしたが、再び体を沈め、そのまま動かなくなった。
後続の馬が急停止する。
その間に、道を走る離反兵が詰所へ近づいた。
「武器を下げた者から通せ!」
ヴィオレスタ兵の責任者が命じた。
小隊長が剣を鞘へ戻し、両手を見せる。
「王領の西門の小隊だ! 後ろに、まだ仲間がいる!」
ヴィオレスタ兵の列が割れ、離反兵を受け入れた。
小隊長が領境を越え、仲間たちを振り返る。
その中に、フェリクスの命令を受けた兵もいた。
*
フェリクスの手先の兵は、詰所の庭へ入ると、すぐにレオンハルトを見つけた。
王子のそばには護衛がいる。
今、剣を抜けば止められる。
背後で、また悲鳴が上がった。
追撃隊が、逃げ遅れた兵を捕らえていた。
レオンハルトが庭の入口へ近づく。
「止まれ! ここへ来た者は、私が話を聞く!」
追撃隊の指揮官が、王子を見つけた。
「殿下もお戻りください! 王命により、城へお連れします!」
ヴィオレスタ兵の盾と、追撃隊の剣がぶつかる。
門口へ人が集まった。
誰かが転び、助け起こそうとした兵までよろめいた。
手先の兵は、その混乱の中でレオンハルトへ近づいた。
「殿下、後ろへ。危のうございます」
レオンハルトが振り向いた。
男は王子の腕を取るふりをして、剣を抜いた。
「殿下から離れろ!」
叫んだのは、追手を振り切って戻ってきた西門の副長だった。




