第213話 同じ隊の中に
西門の守備を交代したあと、小隊長は部下たちを詰所へ集めた。
机には、レオンハルトから届いた手紙が置いてある。
「俺は王都を出る。ヴィオレスタへ行き、殿下をお守りしたい」
部下たちが顔を見合わせた。
副長も、黙って隊長を見ている。
「王の兵をやめるということですか」
若い兵が尋ねた。
隊長はうなずいた。
「このまま仕えていれば、殿下を捕らえる命令が来るかもしれん。殿下が助けた三人を、処刑場へ連れ戻す役目もだ。俺は、それをしたくない」
「命令を断るだけでは、いけないのですか」
「断れば、俺たちも捕らえられるだろう。だから、王都を出るつもりだ」
部屋が静まった。
壁に貼られた王の布告を、何人かが見た。
「ついて来いという命令ではない。家族がいる者も、王に仕え続けたい者もいるだろう。残るなら、それでいい」
副長が口を開いた。
「私は行きます」
ほかにも数人が、隊長と行くと言った。
だが、若い兵は机の手紙を見つめたままだった。
「私は、竜の民を自由にするという話には、まだ納得できません」
「殿下は、そう望んでおられる。同行するなら、竜の民を傷つけたり、無理に従わせたりすることは認めない。それでも行くかは、自分で決めてくれ」
若い兵は、すぐには答えなかった。
隣では年長の兵が、妻を王都に残せないと言った。
隊長は引き止めず、残る者を先に帰した。
詰所に残ったのは、小隊の半分ほどだった。
王子の考えすべてに賛成した者ばかりではない。それでも、王子を捕らえる側にはなりたくなかった。
その中に、フェリクスへ忠誠を誓う兵が一人いた。
*
その兵は、夜になるとフェリクスの滞在先を訪れた。
かつてアウレリスの城に仕え、王都へ来たあと西門の小隊へ配属された男だった。
「隊長が、明朝、王都を出ると申しております。私も同行することになっています」
フェリクスは男を見た。
王から、兵の逃亡や王子への協力を調べるよう命じられている。すぐに知らせれば、小隊長たちを捕らえられた。
だが、それではレオンハルトは、館に守られたままだ。
「予定どおり、一緒に行け」
「王へは、お知らせにならないのですか?」
「知らせるのは、おまえたちが出たあとでよい」
男は戸惑った顔をした。
フェリクスは声を落とした。
「隊長から王子へ手紙を書かせろ。王都を離れた兵が来たから、直接会って話したいと」
「殿下を、館から呼び出すのですか?」
「そうだ。昔の部下が頼めば、会いに出てくるかもしれない。追撃隊が来て争いになったら、その混乱の中で王子を殺せ」
男が息を呑んだ。
「王子殿下を殺せというのは、王の御命令でしょうか?」
「人前には出せぬ命令だ。王は、息子を殺せとは公には言えない」
フェリクスは、男の目を見て続けた。
「私が王から聞いた密命として、おまえに伝えている。ほかの者へ話すな」
男は、膝の上で拳を握った。
王へ直接確かめることなどできない。目の前のフェリクスは、王から守備の仕事を任されている。
逆らってよいのかさえ、判断できなかった。
「果たせば、アウレリスを取り戻したときに相応の役目を与える。おまえの働きは、私が王へ伝える」
男は深く頭を下げた。
殺害は、王の命令ではなかった。
フェリクスが望んだことだった。
レオンハルトが王と和解すれば、王に逆らう兄アドリアンまで許されるかもしれない。そうなれば、フェリクスは王の力で兄から領地を取り上げることができなくなる。
王子が二度と城へ戻れない方が、自分には都合がよかった。
男が帰ると、フェリクスは家臣へ命じた。
「西門を見張らせろ。隊が出ても、当家の者から引き止めるな。出たことだけ、すぐに私へ知らせろ」
*
翌朝、小隊長たちは、城外を巡回する部隊として西門を通った。
いつも使う道を進み、王都が見えなくなると、ヴィオレスタへ向かう街道へ入った。
戻る時刻を過ぎても帰らない。
西門の詰所から報告が出ると、フェリクスは王へ知らせた。出発前から計画を知っていたことは、隠した。
「隊長が、部下の一部を連れてレオンハルト様のもとへ向かったと思われます」
王は、机を叩いた。
「王都を守る兵まで連れ出すか」
兵を追うため、王軍の別部隊が出されることになった。
その指揮官が呼ばれると、王は直接命じた。
「逃げた兵を捕らえろ。レオンハルトが迎えに出てきたら、息子も城へ連れ戻せ」
「抵抗された場合は、いかがいたしますか?」
「殺すことは許さん。生きたまま連れてこい」
指揮官は、命令を繰り返して確認した。
フェリクスは家臣たちの後ろに立ち、そのやり取りを黙って聞いていた。
*
ヴィオレスタへ向かう道で、フェリクスの兵が小隊長へ近づいた。
「先に殿下へ、私たちが向かっていると知らせませんか。王兵の姿のままでは、領境で止められると思います」
隊長は、自分たちの装備を見た。
王家の印は、そのまま残っていた。
ヴィオレスタ兵から見れば、追手と区別がつかない。
「そうだな。俺の名で手紙を書く。詰所の兵から殿下へ届けてもらおう」
フェリクスの兵は、もう一言付け加えた。
「殿下に直接お会いしたいとも、お書きになっては。こちらも、着いてすぐに事情を話したいので」
隊長はうなずいた。
自分も、王子に会って伝えたかった。王命に背くと承知のうえで来たことと、これからは王子を守りたいということを。
休憩の間に手紙をしたため、足の速い馬に乗る部下へ託した。
ヴィオレスタの詰所まで先行し、渡してくるよう命じる。
フェリクスの兵は、その部下が走り去るのを見送った。
誰も、この男だけが別の命令を受けているとは知らなかった。




