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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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203/256

第203話 席に着く者

王の使者が帰ってから半月あまりで、双方の代表がリュシエンヌの館に集まった。

軍事的な中立を保つヴィオレスタ領で、戦いを止めるための話し合いが開かれたのだ。


王の代理は、王子レオンハルトだった。

向かいにはロデリクとレオノーラ、クラウスの代理である息子エミール、インディルの後継者リゼリアが座っている。アウレリスを治めるアドリアンも出席していた。

館の外では、それぞれの護衛が離れて待っていた。


レオンハルトは、父から預かった書状を開いた。

「二十日間、互いの領地へ兵を進めない。その間に捕虜の名前を知らせ合い、負傷者を運べるようにする。王は、この範囲の取り決めを私に任せています」


「逃げてきた竜の民を捕らえるための兵も、入れないでいただきたい」

リュシエンヌが、一通の文を机に置いた。

王の役人が、逃げてきた家族の引き渡しを求めた書面だった。端には、それを止めて斬られたヴィオレスタ兵の血が残っている。

「家族を返すつもりはありません。王に、そうお伝えください」


レオンハルトは血の跡から目を上げた。

「他領へ兵を入れないことは約束します。ただ、竜の民を返さなくてよいと認める権限まではありません」


「では、王の返答を待ちます。その間も、ここで暮らしてもらいます」

リュシエンヌは文を引き寄せた。


レオンハルトは自分の家臣に、彼女の返答を書き留めるよう命じた。

続いて口にしたのは、父から必ず伝えよと言われた提案だった。

「ポルフィラを王都で療養させ、その後も王家で保護したいとのことです。戦場へ出なければ、竜が王兵を襲う理由もなくなるのではないかと」


ロデリクの眉間に皺が寄った。

「王兵に射られた娘を、王へ預けることはできない」


リゼリアが、ポルフィラの署名のある紙を差し出した。

「本人も、王都へ行くことを望んでいません。それから、オブシディオンは彼女の命令で動くわけではありません。王軍の弓兵を見れば殺すという考えも、変わっていません」


紙を受け取ったレオンハルトの指が止まった。

王都の城にも弓兵はいる。竜が娘を追って来たら、城内で同じ惨事が起こりかねなかった。

「では、王都を襲わないという約束も、得られないのですか?」


「私たちにはできない。できると偽って署名するわけにもいかない」

ロデリクは、机の上へ両手を置いた。

「だが、こちらの軍は止められる。まず、それを決めよう」


しばらく沈黙したあと、レオンハルトは家臣に停戦の文書を用意するよう告げた。


軍を進めない期間は二十日。

互いに捕虜の名簿を送り、負傷した捕虜から引き渡す。手当てのための搬送も妨げない。

各領の代表が内容を確かめ、順に署名した。


最後に、レオノーラが王子へ言った。

「竜の民が自由に暮らせることも、王に認めていただきたい。それが認められなければ、戦いの原因は残ります」


レオンハルトは、筆を置いた。

父は、その要求を認めるために自分を送り出したのではない。

「王へ伝えます。今ここで、認められるとは申し上げられません」


レオノーラはうなずいたが、表情は緩まなかった。

レオンハルトの手元には停戦の文書がある。その隣には、返答のできなかった要求が並んでいた。

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