第20話 村の外へ
その日の午後、ドランは納める品を見て回った。全部合わせると、荷車は二台必要だった。倉のある方へは、朝に村を出れば、その日のうちに戻れるという。
ガルの父親は、物置から荷車を引き出した。
「これは使える。もう一台は、セラの家にある」
ドランが車輪を確かめていると、セラの父親が来た。
「うちのも出す。麦を運ぶなら、俺も行こう」
ガルの父親は荷車から手を離した。
「俺も行く。だが、向こうで何を言われるかは分からんぞ。運べと言った者と、受け取る者が同じとは限らん」
ドランは立ち上がった。
「ああ。管理者に、受け取る者にも話が通っているか確かめてもらう」
畑から戻ったトーマの父親も加わった。四人で荷を分け、荷車一台につき二人がつくことにした。管理者には、その人数で通してもらえるか尋ねる。
トーマの父親がドランを見た。
「おまえも行くのか」
ドランはうなずいた。
「道具の荷は俺が見たい。途中で車が傷めば、直せるところは直す」
ガルの父親は、荷車の縁を握った。
「向こうでは、村にいるときのようにはできん。ガルにも、ついてくるなと言っておく」
ドランが答えた。
「うちもだ。荷はここで積んで、大人だけで行こう」
*
翌日の夕方、管理者が返事を持ってきた。四人は鍛冶場の前に集まった。
管理者は紙を開いた。
「明日の朝、四人と荷車二台で行くことになった。倉の受け取りの係にも、村人が運ぶと伝えてある」
セラの父親が答えた。
「分かりました」
管理者は続けた。
「荷置場では、ほかの荷を運ぶ者たちと場所を分ける。私が係と話して戻るまでは、荷車のそばで待っていてくれ。荷を下ろす場所も、私が示す」
ドランが尋ねた。
「荷を下ろしたら、すぐ帰れますか」
管理者は紙へ目を落とした。
「受け取りの確認が済むまでは待つことになる。私が帰ってよいと言われてから、一緒に戻る」
ガルの父親が口を開いた。
「受け取りが終わるまで、荷置場で待つのですね」
管理者はうなずいた。
「そうだ。待つ間も、倉や町の方へは行かないでくれ」
「ほかに気をつけることはありますか」
「指示にあるのは、それで全部だ。向こうで何か言われたら、私が聞く。自分たちで話をつけようとしないでくれ」
ドランは答えた。
「分かりました。何かあれば、あなたに聞きます」
紙には、まだ文字が並んでいた。自分たちでは、一つも確かめられない。
管理者が去ると、トーマの父親が小さく息を吐いた。
「ただ運んで帰るにも、これだけ決められるのか」
セラの父親は、荷物の袋へ目を向けた。
「あちらが受け取るまで、俺たちの都合では帰れんのだな」
*
夕食のあと、ドランはミレアに、明日は自分も行くと伝えた。ポルフィラは、手にしていた椀を置いた。
ミレアが尋ねた。
「朝に出て、夕方には戻れるの?」
ドランは答えた。
「道のりは、そのつもりで行ける。ただ、荷を受け取ってもらうまで待つことになった。遅くなるかもしれん」
ミレアは黙って夫を見た。それから、低い声で言った。
「近づけと言われたから行くのに、近づいたことで責められるのが怖いわ」
ドランはうなずいた。
「受け取る者にも話が通っているとは聞いた。向こうでは、管理者が示した場所から動かん」
ポルフィラは父へ顔を向けた。
「私も、荷を積むのは手伝っていい?」
父は娘を見た。
「積むのは俺たちでやる。おまえは、母さんと家にいてくれ」
ポルフィラは椀の縁に触れた。
「村を出るところまででも?」
ドランは首を振った。
娘は小さく答えた。
「分かった。家にいる」
ミレアが食卓から椀を下げた。
「食べるものは包んでおくわ。待つことになっても、向こうで困らずに済むように」
ドランは妻を見た。
「頼む」
*
翌朝、ポルフィラが起きると、父はもう出かける支度をしていた。母が包みを渡す。ドランはそれを、道具の入った袋とは別に持った。
ポルフィラは戸口までついていった。
「父さん」
ドランが振り返った。
娘は、早く帰ってきてと言いかけた。昨夜、父は、向こうが受け取るまで待たなければならないと話していた。
「帰ってきたら、どんなところだったか聞いてもいい?」
ドランは娘のそばへ戻った。
「ああ。帰ったら話そう」
ポルフィラはうなずいた。父が道へ出ると、母がそばに来た。二人で、鍛冶場の方へ歩いていく背中を見送った。
遠くで荷車の音がした。父は一度こちらを振り返り、手を上げた。ポルフィラも手を上げ、姿が見えなくなるまで下ろさなかった。
いつもなら、ほどなく鍛冶場から鉄を打つ音が聞こえてくる。今朝は、荷車の音が遠ざかったあと、何も聞こえなかった。




