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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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第19話 届いた指示

第19話 届いた指示


翌日の夕方、ドランは村長の家へ行った。ガルとシオンの父親にも来てもらっていた。


ドランが娘たちの読んだ内容を伝えると、ガルの父親は顔を上げた。

「セレフィアは、殺されたのか」


ドランはうなずいた。

「そのあと、エルディオは村と家族を守るため姿を消した、と書いてあるそうだ」


ガルの父親は、膝に置いた手を握った。

「平和を築いた人を、なぜ殺す。エルディオは、誰から村や家族を守ろうとしたんだ」


ドランは首を振った。

「それは、書いていない。殺した者も、エルディオが行った先もな」


シオンの父親が口を開いた。

「昨夜、妻と息子から聞いた。あの子は、誰が書いたのか分かると思っていたらしい。だが、名前はなかったんだな」


ドランが答えた。

「エルディオから聞いた話を、後の者へ伝えるために残す、とだけだ」


村長はしばらく黙っていた。それから、ゆっくり口を開いた。

「二つの民の平和を築いたセレフィアが殺され、エルディオも姿を消したのか。二人に、何があったのだろうな」


ドランはうなずいた。村長は、戸の方へ目を向けた。外では、仕事から帰る者が言葉を交わしている。

「わしらには、何も伝わっていなかったな」


誰もすぐには答えなかった。二つの民の平和を築いたセレフィアが殺され、エルディオまで姿を消した。誰が、何のために彼女を殺したのか。村と家族は、どんな危険にさらされていたのか。


シオンの父親が、声を落とした。

「後の者に伝えたいなら、なぜ入口まで隠したんでしょう。普通の物置の下に、こんな記録があるとは思わん」


ドランは地下の入口を思い出した。あの壁が動かなければ、石板の存在さえ分からなかった。

「読まれれば、まずい相手がいたのかもしれん」


ガルの父親が戸口を見た。

「その話を、俺たちは知ってしまったんだな」


部屋の外で、誰かが声を上げた。帰りを急ぐ村人が、連れを呼んだだけだった。それでも、四人は言葉を切り、足音が遠ざかるのを待った。


村長が言った。

「何を恐れて隠したのかは、わしにも分からん。だが、これを外で話して、子供らがどうやって読んだか尋ねられたら、どうする」


ドランは膝の上の手を握った。文字を覚えたことが知られれば、ポルフィラを殺されるかもしれない。家で読ませていたと分かれば、ミレアも無事では済まないだろう。二人を連れていこうとする者の前に立っても、自分の力だけで止められるとは思えなかった。


ガルの父親はドランを見た。

「ここから先は、息子には聞かせられん。妻には今夜話す。あの子がうっかり口にしたとき、俺たちの知らないところで何をされるか分からん」


ドランはうなずいた。

「娘からも話させない。知っている者を増やすのは、今はやめよう」


シオンの父親が言った。

「息子は、もう最後まで読んでいる。叱ったところで、知らなかったことにはできない。妻にも、この怖さを話しておきます」


村長は父親を見て、ゆっくりうなずいた。

「子供だけの秘密にさせてはいかん。何か尋ねられたり、不審に思うことがあったりしたら、親に知らせるよう伝えてくれ」


村長はドランへ向き直った。

「ほかの親にも、残りの話を伝えてくれんか。子供を通して広まる前に、大人が知っておかねばならん。写しも、子供が持ち歩かないよう、親が預かってくれ」


ドランが答えた。

「はい。うちにあるものは、ミレアと俺で預かります。シオンとセラが持っている写しも、それぞれの親に預かってもらいます」


帰り道、ガルの父親が足を止めた。

「石板を見たときには、子供が怪我をするのが怖かった。今は、あれの中身が分かったせいで、もっと怖い」


ドランは相手を見た。

「ああ。娘が持っている写しも、俺たちで預かる。ミレアと俺がそばにいれば、守れると思ってはいかんな」


ガルの父親はうなずいた。二人は黙って歩き、分かれ道で別れた。


*


帰宅したドランは、ミレアに村長の家で話したことを伝えた。妻は、しまってある写しの方へ目を向けた。

「私も、あの話を聞いてから怖かったの。写しは私たちで預かりましょう。子供同士で見せ合うことも、今はやめさせたいわ」


ポルフィラは二人を見た。

「トーマに、続きを話すのも駄目なの?」


ドランは娘の隣へ座った。

「ああ。今は話さないでくれ。おまえが誰かに話して、どこで知ったか尋ねられるのが怖い。本や石板のことで何か聞かれたら、俺か母さんに知らせてくれ」


ポルフィラは父の顔を見た。トーマにも教えたかったが、父の声はいつもより低かった。


父は続けた。

「向こうの親には、俺から伝える」


娘は少し黙ってから、うなずいた。ドランは包みを受け取り、ミレアとしまう場所を確かめた。


*


翌朝、ポルフィラは鍛冶場で、父が仕上げた道具を布で拭いていた。


道の方から足音がすると、ドランが顔を上げた。管理者だった。いつもの帳面とは別に、折り畳んだ紙を持っている。


ドランは手を止めた。

「おはようございます」


管理者は戸口に立ち、納めるためにそろえてある道具を見た。

「次の荷について、領主の役人から指示が来た」


ドランは布を置いた。

「何か、変わるのでしょうか」


管理者は紙を開いた。

「今回は、村で荷をまとめ、倉の外の荷置場まで運ぶ者も出すように、とある」


ドランは管理者の顔を見た。

「いつものように、こちらへ取りに来ていただけるのではないのですか」


管理者が答えた。

「そうだ。倉へ集める荷が重なり、運ぶ者が足りないらしい。役人が、今回に限って、荷を運ぶ村人を通すと決めた」


ドランはすぐには答えなかった。天馬の民は、村人が近づくだけでも嫌がる。その人たちの暮らす方へ荷を運べと言われても、ただ行けばよいとは思えなかった。

「私たちが、そちらへ近づいてもよいのでしょうか」


管理者は紙の続きを確かめた。

「指定された日に、私が連れていく。入れるのは倉の外の荷置場までだ。町へは入れない。倉で働く者たちとは場所を分け、荷を下ろしたら村へ戻る」


ドランは紙を見た。普段なら近づくことも許されない場所へ、役人の命令で行くことになる。

「荷を下ろす場所では、どなたの指示に従えばよいのでしょうか」


管理者が答えた。

「私が受け取りの係と話す。村の者は、私が場所を示すまで荷車のそばで待っていてくれ」


ポルフィラは拭いていた道具を下ろした。父の前にそろっているものを、自分たちで全部運ぶのだろうか。隣にはまだ仕上げていない道具もあった。


ドランは尋ねた。

「道具だけでしょうか。麦なども、一緒に運ぶのでしょうか」


管理者は紙へ目を戻した。

「今回納めるものは、まとめて運ぶことになる。荷置場で受け取る日も指定されている」


ドランは畑へ続く道を見た。村の仕事を続ける人手も必要だが、誰を荷運びに出すかは、それだけでは決められなかった。許しが出たからといって、村人を嫌う相手が態度を変えるわけではない。

「村長と、納める家の者に伝えます。ただ、運べる人数や荷車を、すぐには決められません」


管理者はうなずいた。

「まず、どれだけ用意できるか聞いてくれ。通す人数と、荷を下ろす場所も、出発前に役人へ確かめる。人手や荷車が足りなければ、それも伝える」


ドランは頭を下げた。

「承知しました」


管理者は紙を畳んだが、すぐには立ち去らなかった。鍛冶場の道具と、壁に立てた鍬へ目を向ける。倉へ送るもののほかに、畑から修理のために持ち込まれたものもあった。

「村の仕事がなくなるわけではないのだな」


ドランは答えた。

「はい。こちらも、使う日までに直さなければなりません」


管理者は短くうなずき、ほかの納付の支度を見に行くと告げた。ドランは見送ってから、仕上げかけの道具へ手を戻した。


*


ポルフィラは父のそばへ来た。

「父さんも、運びに行くの?」


「誰が行くかは、まだ決まっていない。荷の重さも、荷車が何台要るかも確かめないとな」


娘は戸口の外を見た。

「あの人が決めたんじゃないんだね」


父が答えた。

「領主の役人から言われたんだ。あの人も、勝手に取り消すことはできん」


ポルフィラは父の顔を見た。

「行っていいって言われても、近くに来るなって怒られない?」


ドランは娘のそばへしゃがんだ。

「だから、どこまで行ってよいのか、何人で行くのか、先に確かめてもらう。勝手に町へ近づくわけじゃない」


ポルフィラはうなずいたが、不安は残った。荷を運ぶ許しが出ても、村の人が近づくのを嫌がる相手だ。誰が行くにしても、怖い思いをするのではないかと思った。


父は娘が拭いた道具を受け取り、そろえてあったものの隣へ置いた。

「おまえは、ここまででいい。母さんが待っているぞ」


ポルフィラはうなずいた。家へ戻り、父に代わって母へ知らせる。

「次に納めるものは、村の人が倉の外まで運ぶんだって。あの人も一緒に行くけど、町へは入っちゃいけないって」


ミレアは手を止めた。

「こちらから運ばせるの? いつもは、近づくことさえ嫌がるのに」


ポルフィラが答えた。

「今回は、役人が許したんだって。父さんが行くかは、まだ決まってない」


ミレアは娘の顔を見た。

「分かった。お父さんが戻ったら、詳しく聞くわ」


ポルフィラは父のいる鍛冶場へ目を向けた。荷を下ろしたら、すぐ戻る。管理者はそう言っていた。


父が行くことになったら、本当に、何事もなく帰ってこられるのだろうか。ポルフィラは籠を抱え直した。

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