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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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177/233

第177話 蔵の扉を開けろ

木立の向こうに、納付倉の西門が見えた。

塀の上に並ぶのは、ユリウスに従うアウレリスの弓兵だった。門の内側にも守備兵が集まっている。

その門を見据え、アズレインの救出隊長が盾の革紐を締め直した。


「西門は俺たちが引きつける。南へ回る者は、閉じ込められた人を出せ。荷車は負傷者のために空けておけ」


部下たちがうなずく。

案内をしてきた天馬の民の荷運び役も、南へ向かう一隊に加わった。倉から男を逃がし、アズレインへ連れてきた人物だった。

彼が枝を踏むと、隣の救出隊の兵が腕を引いた。

「まだだ。木の陰を通れ」


荷運び役は息を詰めた。

麦を運ぶために何度も通った場所だ。門の内にも、顔を知る者がいるかもしれない。

だが今日は、見つかれば矢を射られる。

男は兵の背を追い、南の塀へ回った。


*


西門の前へ、ソレインが飛び出した。

アウレリスの弓兵が、天馬に狙いを向ける。アドリアンは門から距離を取り、父へ呼びかけた。

「捕らえた人々を出してください! そうすれば、救出の兵は引きます!」


門の内へユリウスが現れた。

自分の護衛が構える盾の間から、息子を見上げる。

「おまえが先に降りてこい!」


「降りません。捕虜を返してください!」


ユリウスの手が上がった。

塀の弓兵が弦を引く。

アドリアンは身を伏せた。ソレインが翼を振り、飛んできた矢を風で薙ぎ払う。

一本が門の内へ突き立った。

足元へ刺さった矢に、ユリウスの護衛が飛び退く。


「父上、やめてください!」


父は答えず、盾の陰へ下がった。

アドリアンへ向けて、次の矢がつがえられた。

巨大な影が屋根の上を流れ、近づいてくる。

弓兵達の顔から、日の光が消えた。

味方も敵もみな、空を見上げる。

黒い翼が空を覆っていた。


オブシディオンが首を曲げ、西門にいる敵の守備兵へ顎を向け口を開いた。

咆哮が塀を震わせ、兵達の足元から弓を持つ腕まで振動が突き抜ける。

バラバラと弓を落とす音がした。

アウレリスの弓兵たちは梯子へ殺到し、ぶつかり合った。一人が足を滑らせ、下で待つ味方の守備兵の上へ落ちる。

門の内では馬が暴れ、荷車を横へ引きずった。


ポルフィラは角へつかまったまま、南の塀を探した。

そこへ回ったアズレインの一隊が、梯子を立てかけている。

〈南へ行って。戸を開ける人たちを見たい〉


竜が翼を傾けた。


*


西門が内側から開いた。

アウレリスの守備兵が、外にいる救出隊を押し返そうと槍を突き出す。

穂先が、救出隊長の肩をかすめた。

隊長は盾で槍の柄を弾き返す。

「左へ回れ!」


アズレインの兵が隊長の横へ入り、門柱へ盾を押しつける。

門を閉じようとした敵の守備兵が、剣を振り下ろした。刃が盾の縁を削り、木片が飛ぶ。

その脇から救出隊の槍が突き出され、刺されたアウレリス兵が膝を折る。

後続の守備兵がその体につまずき、門の内へ倒れ込んだ。


「押せ!」

救出隊長は、盾ごと前へ出た。

開いた隙間からアズレインの兵が続く。アウレリスの守備兵は中庭へ押し出され、西門を閉じられなくなった。


*


同じころ、南の塀を越えたアズレインの一隊は、二手に分かれていた。

一方は塀の小さな通用口へ向かい、内側の閂を外す。外で待つ荷運び役へ、避難する人を案内するよう合図した。

もう一方は、人々が閉じ込められた建物へ走った。


建物の角から、アウレリスの守備兵が槍を突き出した。

先頭にいた救出隊の兵が、腹を押さえて崩れる。

後ろの仲間が槍を刺した守備兵へ飛びついた。

槍の柄を両手で押さえ、壁へ叩きつける。その間に、斧を持った救出隊の兵が戸へ取りついた。

「中の者、戸から離れろ! 助けに来た!」


戸の奥で声が重なる。

斧が鉄具の脇へ打ち込まれ、木が裂け戸板が内側へ傾く。

斧を捨てた兵は、倒れる戸を肩で支えた。

「下がれ! 挟まれるぞ!」


割れ目から、竜の民の女が手を伸ばした。

救出隊の兵がその腕を取ると、女は声を上げて身を引いた。

「アズレインの兵だ。助けに来た!外へ出られる!」


女の目が、開いた戸へ向く。

手首の縄を切ってもらうと、ようやく一歩を踏み出した。

救出隊の兵が女を支え、通用口へ送る。後から出る人々にも、同じ道を指した。

「南の塀の小門へ! そこから外へ出てくれ!」


だが、奥の部屋からは、まだ戸を叩く音がしていた。

そちらの入口にも板が打ちつけられている。

救出隊の兵が、もう一度斧を拾った。


*


通用口の外で、荷運び役が逃げて来た女を見つけた。

「こっちだ。道の先に、荷車がある」

「今度は、どこへ連れていくの?」

怯えた女の足が止まる。

「手当てをしてもらえる。今はこの領内から出る……」

荷運び役の肩へ、矢が突き刺さった。

男は女の前で倒れ、地面へ手をついた。


屋根の上に、アウレリスの弓兵がいた。

避難する人々へ向け、二本目の矢をつがえている。

通用口を守っていたアズレイン兵が、荷運び役の服をつかんだ。

「伏せろ!」

男を道脇の石垣へ引きずり込み、女もその陰へ押し込む。

次の矢が、すぐそばの土へ刺さった。


上空のポルフィラにも、その弓が見えた。

〈屋根の上! 逃げる人を射ってる!〉


オブシディオンが降下する。

目の前へ屋根が迫り、ポルフィラは身を伏せた。

翼が空気を叩く。瓦がバラバラとめくれ上がり、アウレリスの弓兵は顔をかばって腹ばいになった。

竜の牙を剥き出した顔が弓兵の方を向く。

弓兵は弓を投げ捨て、必死で梯子へ這っていった。


〈下に、まだ人がいる。火は使わないで〉


ポルフィラは角を握り直した。

オブシディオンは建物へ触れず、再び空へ上がった。


その下へ、ソレインが回り込む。

アウレリスの増援が、南の建物へ向かっていた。アドリアンはその前へ天馬を降ろし、剣を抜いた。

「そこを通すわけにはいかない。武器を捨てろ!」


増援の兵が足を止める。

ソレインの後方では、救出隊がまだ奥の戸を開けようとしていた。


*


西門をアズレインの兵に奪われたと聞き、ユリウスは馬車を待たせてある東門へ走った。

城へ逃げるための馬車は、門柱へ車輪をぶつけて止まっていた。

御者が手綱を引いても、馬は竜を見て暴れるばかりだ。


「鞭を使え! 早く出せ!」


「これ以上叩けば、もっと馬が暴れて馬車が倒れます!」


ユリウスの護衛たちが、馬を車から外し始めた。

ユリウスは御者の鞭へ手を伸ばしかけ、南へ顔を向けた。

捕らえた竜の民が、アズレイン兵に支えられて出てくる。

自分の命令で閉じ込めた人間を、息子が守っている。

「その奥は敵に開けさせるな!」

ユリウスは、南の建物を守る自家の家臣へ叫んだ。

「アズレインの兵が入ったら、残った者を殺せ!」


ソレインの上で、アドリアンが振り向いた。

奥の部屋へ通じる戸口に、アウレリスの兵が立っている。

その男が剣を抜き、戸へ手を掛けた。


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