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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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174/226

第174話 閉ざされる街道

臼が止まった。

アウレリス領の町で粉屋を営む男は、空になった麦の袋を逆さに振った。底へ残っていた粒が、ばらばらと落ちる。

戸口には、粉を取りに来たパン屋が立っていた。どちらも天馬の民だった。


「今日の分も、これだけか」


「次の荷が来ていない」


「竜の民どもが逃げたからだろう。好きにさせるから、こうなる」


粉屋は袋を畳みかけた手を止めた。

「うちへ届くはずの麦は、ここの兵に持っていかれたんだ」


パン屋が黙る。

店の前で車輪の音がして、二人は顔を向けた。待っていた荷運び役だったが、荷台には何もない。

「また、倉へ回せとさ」

天馬の民の荷運び役は、御者台を下りずに言った。

「兵がついていた。こっちへ届けたいと言っても、通してもらえなかった」


パン屋は受け取った粉を見下ろした。

「今日は、焼く量を減らす。残りは明日、取りに来るぞ」


粉屋は返事ができなかった。荷運び役へ顔を向けたが、男も首を振るばかりだった。


*


町からの訴えは、役所を通してユリウスのもとへ届いた。

製粉に回す麦を出してほしい。検問で荷を止めないでほしい。

読み上げる家臣へ、ユリウスは手を上げた。

「先に城の倉を満たせ。王への納付もある」


「ですが、兵へ出した分を集め直すのは、すぐには……」


「村には、まだあるのだろう?」


納付を担当する家臣が口をつぐんだ。

手元の紙には、食べる分と種にする分しか残っていない村も記されている。その紙を出しかけたとき、ユリウスが先に言った。

「今、王を支えるのをやめれば、私は何をしていたと思われる」


向かいのフェリクスは、父を見ていた。

ユリウスは城を任せる次男へ、検問の命令書を渡す。

「逃亡を助けた者も捕らえろ。逃げた竜の民の家族は、川沿いの納付倉へ集める。逃げた奴らを戻らせるために使える」


「兄上にも、知らせるのですか」


「帰ってこなければ、あの者たちの処分は私が決める。そう伝える」


家臣の前へ、もう一通の文が押し出された。

王宛ての報告だった。南の撤退が乱れた責任は、命令に従わなかった王弟にある。

その文には、領内で荷が滞っていることは書かせなかった。


*


翌朝、竜の民の女が、穀物の袋へ両手を置いた。

「これは、次に蒔く分です」


役人は兵を振り返った。

女の夫が前へ出かけると、槍の柄が胸へ当てられる。

「下がれ」


夫は止まった。

女の手から袋が離れ、荷車へ積まれる。膨らんだ荷台の隅には、別の村から連れてこられた夫婦が座らされていた。

夫婦の手首は、縄でつながれている。

袋を奪われた女は、夫の腕を引いて家へ戻った。戸が閉じたあとも、荷車の軋む音が聞こえていた。


*


納付倉へ来た荷運び役は、いつもの受取り担当を探した。

川沿いの道と街道が交わるこの倉から、麦は町や城へ送られる。今日は袋ばかりが積まれ、町へ出ていく荷車が見当たらなかった。

「村の者は、どこだ?」

顔を知る下働きへ尋ねると、男は南の建物を見た。

「あっちへ入れられた。親族が逃げたとかで」


荷運び役は、開いた戸の向こうをのぞいた。

床へ膝を抱えている人々の中に、荷受け担当の老人がいた。こちらに気づき、顔を上げる。

老人は声をかけようとしたが、戸口の兵を見て口を閉じた。


帰りの検問で、荷台を調べられた。

役人の槍が、空の板を叩く。

「竜の民を隠して運ぶ者がいる。気をつけろよ」


男は頭を下げた。

空の荷台を引いて町へ戻っても、粉屋へ渡せる麦はない。倉の中には、あれほど積まれていたのに。

御者台で手綱を握り直した。

今日、老人が口を閉じた顔を、自分は忘れられるだろうか。


数日後、ユリウス自身が中を確かめるため、納付倉へ入った。


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