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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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170/240

第170話 道を守る人々

翌朝になっても、王軍前方の部隊は街道に残っていた。

夕刻に一度収まった戦いが、セヴェランが前へ出ると再び始まる。撤退の合図は、何度も街道へ響いた。

それでも正面の兵は下がらない。後ろへ引き返そうとした者が、進む者に押し戻される。オランデルの兵には、どちらも盾を構えて迫る王兵に見えた。


レオノーラは、ヴェスペラを詰所の前へ戻した。

「押し出さないで! 道を守って!」


味方の家臣が顔を上げ、兵へ命令を伝える。

詰所の南へ続く道では、まだ避難する人々が動いていた。その足を止めるわけにはいかなかった。


アルディスが、また正面へ出てきた。

セヴェランはオランデルの兵の列へ向けて、白い天馬を低く飛ばせた。そのすぐ手前には、まだ王兵も残っている。

構わずアルディスが翼を振り、兵たちへ突風を放った。


「伏せて!」

レオノーラは兵とアルディスの間へヴェスペラを飛び込ませた。ヴェスペラも翼を振り、迫る風へ突風をぶつける。

衝突した風が地面へ吹きつけ、街道の土と石を巻き上げた。オランデルの兵が盾ごと倒れ、近くにいた王兵も足をすくわれる。


ヴェスペラの体も大きくあおられた。

レオノーラは鞍の縁へ左肩を強く打ちつけ、息を詰めた。腕が痺れる。手綱を握り直そうとしても、指がうまく閉じなかった。

アルディスが旋回する。

彼女は右手で手綱を支え、ヴェスペラを上へ逃がした。


地上では、オランデルの兵が倒れた仲間を引いていた。

一人を盾の陰へ運び、次へ戻ろうとすると、王兵の槍が伸びる。

味方が盾を割り込ませた。

「怪我人を先へ! ここは止める!」


足を引きずる兵の向こうで、農地の石垣に人が押しつけられていた。

逃げる領民の列へ、風を避けた兵が入り込んだのだ。杖を落とした天馬の民の老人がかがみ、後ろから来た人に押される。

近くの竜の民の男が腕を伸ばした。

「立って! こっちへ!」

男が体を支え、通りかかった天馬の民の運び手へ渡す。二人で石垣の切れ目へ抜け、ようやく列の外へ出た。

振り向くと、今いた場所を馬が駆け抜けて行った。


*


西から、インディルの増援が姿を現した。

藍の旗を見たオランデルの家臣が、声を上げた。

「右の道へ! 避難する人を守ってほしい!」


新しく来たインディルの兵が、街道から農地へ続く道を塞ぐ。

その陰へ、運び手たちが負傷者を引き入れた。負傷者を担いで来た竜の民の男は、地面へ寝かせた兵へ水を飲ませようとしたが、脇の医師に手を止められた。

兵の胸は、もう動いていなかった。

男は水袋を下ろした。

すぐそばへ、別の担架が運ばれてくる。

医師に呼ばれ、男はその担架の端を持ち上げた。


レオノーラは空から、増援の兵が守りに入るのを見た。

コンラートたちが送り出した兵が、間に合った。

だが、アルディスを止める役目は、まだ自分とヴェスペラに残っている。


アルディスが旋回し、再び詰所へ向かってきた。

このままでは、兵も避難する人々も風に巻き込まれる。

レオノーラは東の丘へ目を向けた。そこに人影はない。


「ヴェスペラ、こっちへ引きつけるわよ」

痺れた左腕を腹へ寄せ、右手だけで手綱を握る。

ヴェスペラはアルディスの前を横切り、詰所から離れた。白い天馬が後を追ってくる。

レオノーラは肩越しにその姿を確かめた。次の風は、兵や避難民のいない丘の上で防ぐ。痛む肩をかばいながら、鞍の上で身構えた。


*


西へ急いだ使者がクラウスのもとへ着いたとき、馬の首は汗で濡れていた。

王軍の後ろは退いている。だが、セヴェランが攻撃を続け、前の部隊が抜けられなくなっている。

報告を聞き終え、クラウスはポルフィラへ向き直った。


「南へ向かってほしい」

彼は、国境の見張りの報告も手にしていた。

「西の王軍は後方へ下がっている。町と橋には兵を増やした。国境の砦も、引き続き見張る。君たちが離れる間は、こちらで守る」


ポルフィラは使者を見た。

「レオノーラ様は、まだ戦っているんですか」


「はい。白い天馬を止めておられます」

息を切らした返事だった。彼がこちらへ向かっている間も、レオノーラは戦い続いている。


彼女はオブシディオンの首へ手を伸ばした。

〈南へ行こう。飛べる?〉


〈行ける。おまえは、つかまっていられるか〉


〈うん〉


足を鱗へ掛ける。

腰が落ち着くまで頭を低くしてくれていることが、今はよく分かった。彼女が角を握り直すと、首が上がった。

飛び立つ前に、地上へ目を向ける。


「西の知らせも、南へ送ってください」


クラウスがうなずいた。

オブシディオンの翼が開く。ポルフィラは身を低くし、南へ向かう風を受けた。

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