↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
PR
161/226

第161話 父の兵を止める

王都から戻ったユリウスは、アズレインとの境界に兵を集めさせた。

王へ差し出す報告には、アドリアンが王命に背いても庇わない、と記した。

書き終えると、指揮を任せる家臣を呼んだ。


「息子には、最後の機会だと伝えろ。戻れば私が王へ取りなす。従わず兵を傷つけるなら、もはや命令に背く敵だ!」

天馬を失えば、一族が手にするはずだった大きな力も失われる。だが、王に息子をかばったと思われる方が恐ろしかった。

「兵を殺させてまで、息子を守る必要はない」


家臣が一礼した。


壁際で話を聞いていた若い男が、一歩進んだ。

アドリアンの弟フェリクスだった。彼も成人しており、父のもとで領地の仕事を学んでいた。

「兄上が戻られたら、父上の後を継ぐのですか?」


ユリウスは息子を見た。

「あの者に、この家を任せられると思うか?」


「王に逆らい続けるなら、難しいと思います」


ユリウスは指揮官へ向き直った。

「アドリアンを後継ぎのままにはしておけぬ。今後、フェリクスにも領内の報告を出せ」


フェリクスは頭を下げた。兄を思い直させたいとも、自分は継がないとも言わなかった。


ユリウスは、川沿いの荷揚げ場を示した地図を引き寄せた。

「こちらへも兵を回せ。ロデリクが物資を運び出す前に押さえろ。船を逃がすな」


*


アドリアンは、父からの使者をロデリクとともに迎えた。

使者は、ユリウスに仕える家臣だった。幼いころから顔を知る相手でもあった。

「お父上は、お戻りを待っておられます」


「私が戻れば、領境の兵は下がるのか?」

使者は答えなかった。


アドリアンは続けた。

「逃げた村人を返せと言わないでほしい。私が従えば、あの人たちまで父の言うとおりにさせられる」


「ご自身の立場をお考えください。王の兵へ刃向かえば、お父上も守れません」


「父に守ってもらうために、ここにいる人を渡すつもりはない」


使者はロデリクを見た。

ロデリクが口を開いた。

「アドリアン殿を留めているのは私ではない。本人の返事を伝えなさい」


そのとき、庭へ駆け込む足音がした。

荷揚げ場の見張りから来たアズレイン兵だった。

「川下から兵が入りました! 船を出そうとした者が、斬られています!」


アドリアンは使者を見た。

相手も驚いていた。別の部隊が動くことは、知らされていなかったらしい。


ロデリクが家臣を呼んだ。

「荷揚げ場へ兵を出せ!町の者を川から離し、倉へ避難させるな。占拠されれば閉じ込められる」


アドリアンはソレインへ走った。


*


荷揚げ場には、避難所へ送る穀物の袋が積まれていた。

運んでいたのは、天馬の民の船乗りと荷運び、仕事を手伝う竜の民の人々だった。

川下の岸から入ったアウレリス兵が、その間を押し分けていた。

アウレリス兵は桟橋の綱を切らせず、船を岸へつなぎ止めようとしていた。抵抗した船乗りが倒れ、仲間が倉の陰へ引いていく。

薄灰色の天馬が上を通ると、アウレリス兵の一人が叫んだ。

「アドリアン様だ!」


指揮官が顔を上げた。父に長く仕えてきた家臣だった。

「お戻りください! 王命によって、ここを押さえます!」


アドリアンはソレインを岸沿いの空き地へ下ろした。

「兵を下げろ。おまえたちが切りつけたのは、荷を運んでいただけの領民だ」


「王命に逆らう者たちを支える物資です。渡すわけにはまいりません」


近くのアウレリス兵が、船へ移ろうとした竜の民の男をつかんだ。

アドリアンが叫んだ。

「その手を離せ!」


兵は指揮官を振り返りながら、男の腕を離さない。


「あの人たちを捕らえて、父の所へ連れていくのか」


指揮官は返事をせず、弓を持つ兵へ手を上げた。

アドリアンはソレインを前へ出した。


矢が飛んだ。

ソレインが矢をかわし、アドリアンは鞍へ伏せた。耳のすぐそばで、矢の羽音がした。

次の矢をつがえる兵が見える。

「ソレイン、あの弓を止めて!」


薄灰色の翼が開いた。

岸にいた弓兵を突風が襲った。積んであった空箱が砕け、弓兵達とともに石の上を転がる。

そのうちの一人が動かなくなった。


アドリアンの喉が詰まった。

父の館で、顔を合わせたことがある兵かもしれなかった…

ソレインの首へ触れた手が震える。それでも、前を見て命じた。

「武器を捨てろ! これ以上、こちらを攻撃させない!」


男をつかんでいた兵が手を離した。

桟橋から離れようとした別の船では、アウレリス兵と船乗りが松明を取り合っていた。落ちた火が、荷を覆う布へ移った。


「船から離れろ!」

アドリアンはソレインでその上へ飛んだ。


慌てて兵が水際へ退く。船乗りたちは綱を切ったが、火のついた船には乗れず、流れに押された船が桟橋から離れた。


アズレイン兵の増援が着き、岸の出口を封鎖する。

アウレリス兵の指揮官は川下へ退くよう命じた。逃れられなかった兵は武器を置き、アズレイン兵が縄をかけた。

アドリアンは追わず、ソレインを下ろした。


岸には斬られた船乗りが横たわり、仲間の呼びかけにも動かなかった。

弓兵のいた場所でも、アズレイン兵が一人の死を確かめていた。

アドリアンは、どちらからも目をそらせなかった。


*


焼けた船は、下流で岸へ寄せられた。

積み込んであった穀物も、運ぶための船も失った。

ロデリクは被害を聞き、残った船の警護と、別の道での輸送を家臣へ命じた。


「父の兵を、ソレインに攻撃させました」

アドリアンが告げた。


ロデリクは、彼の握り締めた手を見た。

「何があったか、そなたからも聞く。誰を傷つけたかも記そう」


アドリアンはうなずいた。

父の命令を拒むだけでは済まなかった。今度は自分の兵が、息子に殺されたとの報告を聞く…

それでも、自分とソレインは引き返さない。

日が落ちる前にもう一度、残った船の上を見回ると、ロデリクへ伝えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。