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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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160/233

第160話 ともに守る岸

橋から逃れた人々は、西岸の道を領内の奥へ進んだ。

クラウスは避難所の担当を家臣へ任せ、自分は橋に近い宿場へ留まった。町に入った王兵が川を渡れば、荷車の列へ追いつく。

オブシディオンも、橋を見渡せる草地から離れなかった。


宿場の庭へ、竜の民の男たちが来た。

町の川舟で荷を運んでいた者と、近くの村の者だった。避難の荷車を押し終えたあと、家臣に話をしたいと申し出たという。


クラウスが出ると、舟の仕事をしていた男が頭を下げた。

「川上に、浅くなる所があります。水が少ない今なら、馬も通れます。見張りを置いてください」

守備を任された家臣が地図を開いた。

「ここか。巡回は出している」

「もう少し北です。岸が崩れて、前より入りやすくなっています。私が案内します」


家臣は男の示した場所を見た。

男は続けた。

「道を塞ぐ手伝いもします。家族が先へ逃げています。王の兵を追いつかせたくありません」


そばにいた天馬の民の兵が口を挟んだ。

「場所を教えてくれればいい。あとは兵がやる」


男は兵を見た。

「竜の民は自分の家族を守る相談にも、加われませんか?」


クラウスが二人の間へ入った。

「案内してもらおう。戦う訓練のない者を、すぐ兵の列へ入れることはできない。だが、川を知る者の助けは必要だ」

彼は家臣へ向き直った。

「兵を出して、渡り場を確かめろ。手伝う者にも食事と道具を渡せ。怪我をしたら、兵と一緒に手当てを受けさせる」


家臣は一礼した。

舟の男には案内を、同行を願った村の男たちには、守備兵とともに岸へ障害物を運ぶ仕事を頼んだ。

危険な仕事になることも伝え、家族の所へ戻ると言った一人を引き留めなかった。


*


川上へ着くと、男の言ったとおり、崩れた岸から浅瀬へ下りる道があった。

守備兵たちは荷車と丸太を運び、こちらの岸の出口を狭めた。

竜の民の男たちも一緒に土を掘り、丸太が動かないよう据えた。

空になった荷車は斜面で綱に支えさせ、必要なら横倒しにして、残った隙間も塞げるようにした。


作業の途中、向こう岸に騎馬の王兵が現れた。

見張りの笛が鳴った。王兵は川を確かめ、こちらの人数を見ると馬を進ませた。


「道具を置け! 下がれ!」

守備兵の隊長が叫んだ。

舟の男たちが丸太の後ろへ移る。王兵の馬が水を跳ね、浅瀬を渡ってきた。


隊長が槍を構えた。

馬を止めた王兵の一人が、鞍から身を乗り出して斬りつけた。隊長は盾で受けたが、横から来た別の兵のその槍が肩を突いた。

隊長が肩を押さえ膝をついた。

舟の男がその襟を引く。

丸太の陰まで隊長を引きずり、ほかの兵へ託す。

王兵の馬は、足元を塞ぐ丸太を越えられず、岸へ上がりきれずにいた。


「荷車の綱を切れ! 倒して塞げ!」

負傷した隊長が、肩を押さえて命じた。

兵が支えの綱を切り、村の男が荷車を押す。傾いていた車が横へ倒れ、出口を塞いだ。

王兵は馬を返し、後ろの馬とぶつかった。


こちらの守備兵が弓を射た。

一騎の王兵が馬から落ちる。残った王兵は川の中へ戻り、向こう岸へ退いた。

隊長は王兵を追わせなかった。こちらの岸でも、一人の兵が腹を押さえて倒れていた。


舟の男は、隊長の肩へ布を押し当てた。

「医師まで運びます。立てますか」

隊長はうなずきかけ、痛みに顔をゆがめた。

「……さっき、下がれと言ったのは」

「分かっています。逃してくれたんですね」

男が仲間を呼び、荷車の板を担架に使った。


*


負傷者が宿場へ運ばれたとき、ポルフィラも草地の端まで来た。

彼女のそばにはオブシディオンがいた。担架の通る道へは近づかず、医師が駆けていくのを待った。


腹を傷つけられた兵は、手当ての途中で亡くなった。

舟の男が、血のついた手を見下ろしていた。そばにいた別の兵が、水の入った桶を持ってきた。

男は礼を言い、二人で担架の血を洗った。


クラウスは報告を聞き、川上の守りへ増員を命じた。

川上を守るには兵の数が足りない。それでも、橋の守りを手薄にすることはできなかった。


「竜の民の希望者にも、武器の扱いを教えてほしいです」

舟の男が言った。

「次に来たとき、倒れた人を運ぶだけでは間に合わないかもしれません」


クラウスは、守備を任せた家臣を見た。

「希望を確かめ、兵と組ませて教えろ。食事も手当ても、武器を持つ責任も、ふたつの民で平等にな」

家臣は、亡くなった兵を見てからうなずいた。


*


領都の城では、エミールが家宰から避難者の報告を受けていた。

父クラウスから留守を任されたあと、川沿いの町から来る人は増え続けていた。


「運び込まれた負傷者は、医師が診ています。ただ、住民の寝場所が足りません」

家宰が告げた。

エミールは、城内の建物を書いた紙を広げた。

「兵を送り出して空いた宿舎を使おう。治療を受ける人は、運び出さなくていい。後から来る家族を、そちらへ入れてほしい」


「食料も、追加が必要です」

「私から倉の担当へ命令を出す。父上への荷車と、こちらで使う分を分けて知らせてくれ」


家宰がうなずき、担当の家臣を呼びに行った。

エミールは父へ送る文を書いた。引き受けられる避難者の数と、送れる物資を記す。

まだ用意できていない寝床を、急いで準備しなければならない。

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