第156話 奪った命を抱えて
救出後、ポルフィラたちはアズレイン領内の退避所に留まった。
医師は味方の兵だけでなく、丘から救ってきた王兵も手当てしていた。火傷と脚の傷で、その兵はまだ起き上がれなかった。
ポルフィラが天幕の入口へ来ると、王兵は彼女に気づいて顔をそむけた。
「近づかないでくれ」
彼女は足を止めた。持ってきた水を医師へ渡し、入口から離れた。
王兵にとって、自分は火を吐く竜に乗っていた人間だった。助けるよう頼んだのも自分だが、火を向けてと頼んだのも自分だった。
ポルフィラは、竜のいる草地まで戻った。
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ロデリクも退避所へ来て、戻った者と死者を確かめた。
捕らえられた村人ニコは生還した。代筆した荷運びダリオと、ニコを助けた村の若者は死亡した。
ダリオの弟は、兄を町で待つ家族へ返したいと願った。だが、アウレリスへ戻れば弟も捕らえられる恐れがある。
ロデリクは家臣へ、安全に運べる道と付き添いを確かめるよう命じた。
ニコからは、訴えを出したときのこと、捕縛、村人の死、護送までを聞き取った。
救出隊の家臣にも報告を出させた。アズレイン側が他領へ兵を入れ、先に護送を止めたことも省かなかった。
「兵を出すと決めたのは私だ。王へもそう答える」
ロデリクは家宰へ告げた。
「ニコも、救出に加わった者も引き渡さない。だからといって、こちらのしたことを隠してよいわけではない」
「竜の炎で、敵にも死傷者が出ています」
「それも記せ。逃げる荷車へ矢が続いていたことも、竜が火を向けたことも、どちらも残す」
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王都へは、護送を生き延びた王兵の報告が届いた。
アズレイン兵と村人に護送を襲われ、竜が丘の弓兵へ火を吐いた。ニコは奪われ、荷運びダリオも戦いの中で死んだとある。
ヴァルテルは報告した家臣へ尋ねた。
「炎で、何人死んだ」
「丘の指揮官と兵、合わせて三人です。負傷者もおります」
王はしばらく黙った。竜を手に入れたいという欲望の横に、自分が焼かれる恐怖があった。
ユリウスが口を開いた。
「初めから、竜の力で王の命令を退けるつもりだったのです」
「おまえが捕らえた二人は、何をした」
「村人へ仕事を拒ませ、役人に逆らうよう仕向けました」
ユリウスは、仕事が止まる前に二人を捕らえたことを言わなかった。
王は、彼の返事と王兵の死者を記した文を見比べ、家臣へ命じた。
「四家へ伝えよ。ニコと、護送を襲った者を王の調べへ出せ。従わぬなら、王に反旗を翻したものとする」
王の命令に従う兵が四家側と斬り合い、竜に焼かれた。王はこれを武力による反抗と見なし、新たな出兵に備えるよう指示した。
*
その後、王の使者がアズレインへ来た。引き渡しを命じる文とともに、炎で死んだ三人のことも正式に伝えた。
報告を聞いたポルフィラは、オブシディオンのそばへ座った。
〈三人、死んだ〉
〈聞いた〉
〈私が、火を向けてって言った〉
竜は否定しなかった。
〈私は、その願いに応じた〉
ポルフィラは手のひらを見た。角へつかまった痕が残っている。
あの三人にも帰る家があったのだろうか。家族がいたら、どんな知らせを聞くのだろう。エナの話が、頭から離れなかった。
〈弓が止まったとき、ほっとしたの。人を焼いたのに、助かったって思った〉
〈荷車には、まだ生きている者がいた〉
〈うん。でも、それで殺したことが消えるわけじゃない〉
〈消えぬ〉
ポルフィラはオブシディオンへ額を寄せた。仕方なかったと言ってもらえれば、楽になると思ったのかもしれない。
だが、何と言われても、火を向けてほしいと頼んだのは自分だった。涙が落ちた。オブシディオンはそばにいた。
*
ロデリクは王の要求を拒んだ。ニコを返せば、また同じ者に調べられる。兄を救いに来たダリオの弟や、兵も引き渡せなかった。
彼は、他の三家へ王の文と救出の報告を送り、守りと避難の分担を急いだ。
リュシエンヌからは、王からの出兵要請には応じないと返事が来た。
竜の対人攻撃には懸念を示しつつ、訴えを捕縛で押さえ、逃れる人々を追って斬った経緯も調べるよう求めたという。自領へ逃れる者と負傷者は受け入れるという。
全面的な賛同ではなかったが、王は全領の兵を集めて動かせなくなっていた。
ポルフィラも、退避所で開かれた守りの相談に加わった。
アドリアンはソレインとアズレインの道を守る。レオノーラはヴェスペラと南に留まる。傷を負ったリゼリアとシルヴァに、西の守りをどこまで任せられるかも確かめる必要があった。
「君も、すぐに動けるか?」
ロデリクがポルフィラへ尋ねた。
「怖いです。三人を焼いたことも、頭から離れません」
彼女は息を吸い、負傷者が手当てを受ける天幕を見た。
「それでも、兵が来たら私も戦います。人を殺したことが怖いからと、ここにいる人たちを渡すことはできません」
ロデリクはうなずき、地図に示した避難先を指した。
ポルフィラは、人を逃がす道と、自分が守る場所を一つずつ確かめた。涙の痕はまだ頬へ残っていた。
王領では、待機していた兵に新しい支度が命じられていた。




