第154話 護送の道へ
アウレリスの村で捕らえられたニコとダリオは、一台の荷車へ乗せられていた。
手は縛られたまま。村人ニコは座っていられたが、荷運びのダリオは脚を腫らし、荷台へ横たわっていた。
荷車は王領へ向かって進んでいた。
近くをアウレリス兵が歩き、後ろには王領から来た受け取りの兵が続く。王兵を率いる指揮官が、護送全体を見ていた。
「水をください。こちらの人は、ずっと飲めていません」
ニコが頼むと、兵の一人が水袋を置いた。縄は解かなかった。
ニコは縛られた両手で袋を持ち、ダリオの口元へ寄せた。
*
街道の曲がり角で、先頭の馬が止まった。
空の荷車が横倒しになり、道を塞いでいる。ダリオの弟がその脇に立ち、折れた軸を持ち上げるふりをしていた。
「道を空けろ!」
アウレリス兵が近づいた。
「手を貸してください。動かせないんです」
弟は顔を伏せたまま答えた。兵が囮の荷車へ寄ったところで、茂みからアズレイン兵が出た。
「止まれ! 荷車の二人を、こちらで引き取る!」
救出隊を率いるロデリクの家臣が声を張った。
護送側の兵は剣を抜いた。アズレイン兵が盾で押さえ、街道の上で戦いが始まった。
その間に、案内に来た竜の民の若者が囚人の荷車へ走った。
ニコは同じ村の顔に気づき、荷台の端へ寄った。若者が刃で縄を切る。
ダリオの弟も戻ってきて、兄の手の縄を解いた。
「兄さん、俺だ。今、ここから出す」
弟が声をかけると、ダリオはようやく顔を上げた。
歩かせることはできない。弟は荷馬の手綱へ回り、護送の荷車をそのまま横道へ向けようとした。
アウレリス兵が一人、盾を押しのけて荷台へ近づいた。
「勝手に動くな!」
ダリオが体を起こそうとしたところへ、兵の剣が振り下ろされた。
ニコが引き寄せたが、間に合わなかった。ダリオが荷台へ崩れ、弟が叫んだ。
アズレイン兵が間へ入った。
「荷車を出せ! こっちは押さえる!」
ニコはダリオの傷を布で押さえた。村の若者は車輪へ手を掛け、弟とともに荷車を横道へ押し出した。
*
上空で待っていたアドリアンは、囚人の荷車が向きを変えたのを見た。
ソレインへ、追手と荷車の間へ下りてほしいと頼む。明灰色の天馬が翼を打つと、迫る兵の足元を風が払った。
王兵の指揮官は、後ろにいた弓兵へ丘の斜面に上がるよう命じた。
横道は丘から見下ろせた。王兵は高い所から、逃れる荷車を狙い始めた。
「止めろ。荷馬でも車輪でもよい、進ませるな!」
矢が空気を切り裂き飛来した。アズレイン兵が盾を上げたが、矢は荷車を押していた村の若者を貫いた。
ニコはダリオから片手を離し、倒れかける若者の腕をつかんだ。近くの兵が運ぶのを手伝う。
アドリアンはソレインを丘へ向け、薙ぎ払う風を放った。
しかし、兵は斜面の石陰へ散り、後方を受け持つ兵がまた弓を引いた。
その間に、街道のアウレリス兵が荷車へ追いつきかける。
ソレインを街道へ戻せば、丘から矢が飛ぶ。丘を押さえれば、地上の兵が迫る。
一頭では、退路の両側を守れなかった。
救出隊の家臣が合図を命じ、斜面に白い布が高く上がった。
*
ポルフィラは、隣の丘にある草地でオブシディオンに乗って待っていた。
白い布が見えた瞬間、前を指した。
〈合図だ。あそこへ!〉
竜が地面を離れ、木々の上へ出た。眼下には、矢を受けながら横道を進む荷車があった。
オブシディオンの咆哮に、護送兵の一部は逃げた。荷馬も怯えたが、ダリオの弟が手綱を取り、兵とともに前へ引いた。
王兵の指揮官は丘から叫んだ。
「荷車を止めろ! 連れていく者がそこから動けずにいれば、竜も簡単にはこちらを攻撃できない!」
弓兵たちは顔をこわばらせながら、射撃を続けた。
オブシディオンは街道脇の空いた場所へ降り、追う兵の前に翼を広げた。
荷車からは距離を取り、逃げる道を塞がない位置だった。地上の兵は竜を前に後ずさった。
だが、丘の弓はまだ止まらない。
ポルフィラの目の前で、荷車のそばにいた兵が肩を射抜かれた。
彼女は竜の頭から丘を見上げた。次の矢が、次々と弓へつがえられていた。




