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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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153/231

第153話 許せないままで

ポルフィラがレオノーラを通じて求めていた、エナとの面会が実現した。

今エナは王都の洗い場で働き、竜の力で王弟を殺してほしいとポルフィラへ託していた。


王領から出るには許可が要った。今回はオランデルの家臣が付き添い、面会後は王都へ戻るという条件で認められた。

ポルフィラは竜とともに、レオノーラの館に近い草地で待った。


エナはオブシディオンを見ると足を止めた。竜の顔がこちらへ向くと息が詰まったが、それでも娘の前まで歩いてきた。

二人が座り、レオノーラも横へ席を取った。


「私の頼みは、聞いたのですね?」


「はい。でも、セヴェランを殺すために、彼を連れていくことはできません」


エナはポルフィラを見た。

「怖いからですか?」


「怖いです。誰かを殺すことが。でも、襲われている人がいれば止めたいです」


エナは膝に置いた手を握った。

「襲われてからでは、死ぬ人もいます。私たちの所には、止めてくれる人は来ませんでした」

夫が家族をかばって殺されたこと。娘が壊れた家の下で死んだこと。

エナは短く話した。ポルフィラは、何も答えられずに聞いた。

「自由になれても、私はあの男を許せません」


「許してくださいとは、言いません」

レオノーラも、自由を求めることと王弟の責任を問うことの、両方が必要だと伝えた。

だが、処罰を約束することはできなかった。


面会を終えるとき、エナはポルフィラへ言った。

「夫と娘のことを、忘れないでください。あなたがこれから何かを選ぶときに」


「忘れません」

エナは礼を言わなかった。望んだ答えは得られないまま、迎えの家臣と帰りの支度へ向かった。


*


その後、ロデリクから救出の計画を知らせる使者が着いた。

捕らえられたのは、村人の訴えを届けたニコと、その文を書いた天馬の民のダリオ。二人の釈放と医師の面会を求めたが、ユリウスは拒んでいた。

裏切り者として、歩けないほど打たれたダリオも王領へ運ばれるという。


使者はレオノーラへ告げた。

「護送には、王領から来た受け取りの兵も加わります。ロデリク様は、村人だけを向かわせず、兵を出して二人を救うと決められました」


ポルフィラは立ち上がった。

「私も行きます」


レオノーラはすぐにはうなずかなかった。

「今度は、こちらが仕掛けるの?自領に踏み込まれたから、防衛していた時とは異なるわ。こちらから王兵に武器を向けることになる。もう引き返せないところまで争いが進むことになるでしょう…」


「では運び出されるのを諦観するだけですか?」


「それができない。できないからロデリクは兵を出すと言っているわ…」


ポルフィラは、エナのいた席を見た。

今は、罪のない傷ついた人が連れていかれると分かっている。戦いになるのが怖いから、誰かを傷つけるのが嫌だから…と、このまま話だけ聞いてここに残るのか……?

この先もずっと何もせず、心を痛めるだけで終わらせるのか…?

「……オブシディオンに話します。戦いになるとしても、一緒に助けに行きたいです」


レオノーラはうなずいた。

「私からも支援を出す。西と北の守りは、クラウスたちと分担するわ」


*


竜は救出の話を聞くと、一緒に行くと答えた。


〈あなたが行けば、兵は退いてくれると思いたい〉

ポルフィラが言うと、彼は静かに返した。


〈退かぬ者もいる〉


〈そうだね…行けば何が起こるか分からない…〉


〈ならば、何もかもを受け入れる覚悟が必要だ〉


ポルフィラはうなずいた。戦う覚悟ができたとは、まだ言えない。それでも、二人が死ぬかもしれないと知りながら、ここで心配だけしている事はできなかった。

角へつかまり、鱗の足場を使って登る。オブシディオンが体を起こす前に、彼女は身を低くした。


*


アズレインへ着くと、ポルフィラはロデリクの用意した救出隊と合流した。

隊を率いるのはアズレイン家の家臣達だ。ニコの村から逃れた若者が道を案内し、ダリオの弟も兄を運ぶために加わった。


救出隊を率いる家臣が、地図の曲がり角を示した。

「ここで囮の空の荷車を倒し、護送を止めます。その間に二人の縄を切り、護送の荷車ごと横道へ出します。この道を戻れば、アズレイン側へ抜けられます」


ダリオの弟が、囮の荷車を扱う。村の若者がニコの縄を切り、兵が相手の護送兵を押さえる。

アドリアンとソレインは、上から様子を見て退路を守る役だった。


「私たちは、最初から出ないのですか?」

ポルフィラが尋ねると、救出隊の家臣は答えた。


「護送兵が二人を盾にする恐れがあります。まず縄を解いて、逃げられるようにしたい。危険が増せば、すぐ合図を出します」


合図は、竿へ結んだ白い布。ポルフィラの待つ斜面から見える所へ、合図役の兵を置く。

ロデリクも計画を確かめ、出発前の隊へ告げた。

「二人を連れ出したら、こちらへ戻れ。相手が後退したら、決して追うな。お前達を他領へ入れる責任は、私が負う」


ポルフィラは、ダリオの弟が囮の荷車を確かめる姿を見た。

その手が震えていた。兄を助けたいと思う人も、戦いになることは怖いのだ。

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