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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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145/231

第145話 王へ出さない兵

アズレインの城で、ロデリクは王の使者へ返事を渡した。

「兵は出さない。オランデルを攻めるための兵糧も用意しない」


使者は文を受け取りかけて、手を止めた。

「王命へのお返事は、それでよろしいのですか?」


「三家は、村を出た者の事情を調べるよう求めている。私も、引き渡しより調査を先にすべきだと考えている。そのための使者や費用なら出す」


「陛下は、命令に従わせるために兵を求めておられます」


「分かっている。だから断る」

ロデリクは使者の目を見た。

「領民へ剣を向けることになれば、私の兵にも責任が生じる。どう使われるか分からぬまま、預けるわけにはいかん」


使者はそれ以上尋ねず、頭を下げた。


*


使者が去った後、ロデリクは家宰と軍務を担う家臣を残した。

「領内の守りを確かめろ。王へ兵を出さぬと言った以上、こちらにも兵が来るかもしれない」


軍務の家臣が尋ねた。

「港へ入る王の船も止めますか?」


「商いまで止めるな。兵や武器を運んでいると分かれば、入港前に報告を求める。勝手に攻撃はするな」


家宰が文を置いた。

レオノーラから、天馬を領民へ向けることに反対してほしいと求める文だった。

ロデリクは読み返した。

海へ続く川には、舟を待つ倉庫が並んでいる。船が着けば荷を下ろす者が集まり、魚の市が立つ。天馬が一頭降りるだけで、その人々は逃げ場を失う。

自分の一族には、天馬と繋がった者がいない。

城にいる一人の青年を頼れば守れるなどとは、考えられなかった。

「レオノーラへ返事を書く。天馬で領民を襲うことには反対すると、王にも伝える」


「三家に加わられるのですか?」


家宰の問いに、ロデリクは首を振った。

「すべてに同意したわけではない。だが、今回は傍観できん」


*


アドリアンは、城の外の草地でソレインの首をなでていた。

竜を見た後しばらく続いていた震えは、もう収まっている。それでも大きな鳥影が横切ると、ソレインは顔を上げた。

ロデリクが近づくと、アドリアンは手を下ろした。

「王へ兵を出さないと返事をされたのですね」


「ああ」


「私にも、できることはありませんか?」


「何を考えている?」


「オランデルへ行こうと思っています。王家の天馬が向かうなら、ソレインも戦えます」


ロデリクは青年の隣へ立った。

「君がここにいるだけで、守られていると思っている者もいる」


アドリアンは城へ目を向けた。

保護された三人は、もう家族の所へ帰っている。それでも、竜と天馬が王の兵を止めたという話は、港にも城下にも広まっていた。

「ここを離れれば、その人たちが危険になるのですね…」


「君が残っても、港から離れた町まで同時に守れるわけではない。だが、君を当てにしている者がいることは、知っていてほしい」


アドリアンはしばらく答えなかった。

父の言う通りにソレインを使うのは嫌だった。

では、自分がいいと思った場所へ飛ぶのは正しいのか?

ソレインが鼻先を彼の肩へ寄せた。

「まず、ここに残ります。王家の天馬が来たら、私が止めます」


「一人で引き受けるとは言うな。まず皆で領民を逃がすことが先決だ」

ロデリクは城を振り返った。

「ほかの領地にも、食料を送る用意をする。避難した者が、食べるために危険な場所へ戻らずに済むように」


アドリアンはうなずいた。

「その準備を手伝わせてください」


*


王都へ戻った使者から返事を受け取ると、ヴァルテルは読み終えた文を机へ置いた。

先に届いたリュシエンヌの返事も、兵を出すと約束していなかった。

三家だけではない。

王は、二つの文を並べた。

「ロデリクも、リュシエンヌも、自分が許した使い方でなければ兵を出さぬというのか」


控える王の家臣は黙っていた。


ユリウスだけが、進み出た。

「私の兵は支度を進めております。どうぞ、お命じください」


王はその声を聞きながら、地図を引き寄せた。

兵を集めても、三家は引き渡しに応じない。他家も加わらない。

次に命じたことも実行できなければ、王の指示は断ってよいものになる。

ヴァルテルは家臣へ言った。

「領境にいる指揮官を呼び出す。これからの命令を、直接伝える」

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