第139話 城の外で会う
王からの返事には、城外で会うと書かれていた。
王都へ入る街道を外れた広い草地を使う。三家の立ち会いを認め、娘と竜を引き離さない。会談を終えたあと、同席した者を留め置くこともしない。
クラウスは文を読み上げてから、ポルフィラへ渡さず机へ置いた。
「約束は書かれた。だが、これだけで出発は決めない」
リゼリアがうなずいた。
「先に場所を見てきます。道と、周りに何があるかも」
ポルフィラは尋ねた。
「ほかの領主も来るんですか」
「ああ。王が呼んだ。竜の件は、各領に関わると言っている」
クラウスは文の続きを指した。
王は、会談中に竜が人を襲わず、火を吐かないことを求めていた。天馬は、竜のすぐそばへは連れてこないという。
「私から伝えます。でも、私が彼を思いどおりに動かせるわけではありません」
「王にも、そう説明する。こちらへ手を出さないことも、王の兵に守らせなければならん」
*
オブシディオンは、会談の条件を聞いた。
〈おまえに手を出されなければ、こちらから襲わん〉
〈王は怖がるっているのね…〉
〈おまえを離れた所へ連れていく理由にはならん〉
ポルフィラは角の根元へ手を掛けた。
〈うん。そばにいてほしい〉
〈もちろんだ〉
その返事を聞いてから、ポルフィラは会いに行きたいと伝えた。
*
先に現地を確かめたリゼリアから、知らせが戻った。
草地は見通しがよく、すぐそばに人を隠せる建物はない。道を離れても歩けるが、竜の着地に使う辺りは石や溝を避ける必要がある。
クラウスは自分の家臣にも道を確かめさせ、王側へ警備の配置を問い合わせた。
王側の兵は会談場所の外側に置く。領主たちの護衛も同じ範囲に留まり、会談中に誰かを囲まない。場所や警備を当日に変えないことも求めた。
レオノーラとテオバルトも、王が出した約束の写しを持って参加することになった。
それでも、絶対に安全だとは誰も言わなかった。
出発前、クラウスはポルフィラに確かめた。
「行ってみて、話と違っていたら引き返す。王が待っているからと、無理に近づく必要はない」
「はい」
「途中でやめたいと思ったら、それも言ってくれ」
ポルフィラはうなずいた。
「会って話したいです。でも、帰れないと思ったら中断するつもりです」
*
ドランとミレアへは、ポルフィラから話した。
王都の中へ入らずに会うこと。オブシディオンも一緒に行くこと。三家の領主が立ち会うこと。
ミレアは聞き終え、娘の手を握った。
「王が、話を聞いてくれるといいね」
「うん」
ドランは口を開きかけ、少し間を置いた。
「おまえを待っている家は、ここだ。それは覚えておけ」
ポルフィラは二人の顔を見た。
「覚えてる」
*
オブシディオンに乗ると、最初の頃より足の置き場に迷わなくなっていた。
飛び上がる前には、まだ角の根元へしっかり腕を回した。だが空へ出て揺れが落ち着くと、力を少しずつ抜くことができた。
王都へ近づく前に、街道と集落を避けるようリゼリアがシルヴァで先を案内した。
〈肩に力が入っている〉
オブシディオンに言われ、ポルフィラは息を吐いた。
〈飛ぶのが怖いのか〉
〈違う。王に何を言われるか考えてた〉
〈まだ、何も言われておらん〉
ポルフィラは少し笑った。角を握る指を緩め、前を向く。
やがてシルヴァが進路を変えた。約束の草地が見えた。
遠くに立つ王都の壁。その手前に、集まった馬車と人々。
オブシディオンはすぐには降りなかった。
広い草地をひと巡りし、人と兵のいる場所を確かめる。リゼリアが先に降り、話が決めたとおりに進んでいるかを確かめた。
合図が上がった。
ポルフィラは身を低くした。
〈降りるぞ〉
〈うん〉
角の根元を握った手の下で、オブシディオンの体が緩やかに傾いた。




