第138話 竜を頼って来た人々
オランデル領の境へ、竜の民の一行が来ていた。
王領の村から出てきた者たちだった。
竜が王の兵から村人を守り、三家も保護に協力した。仕事のために村へ来る者から、そう聞いたという。
竜のいる場所までは知らなかった。それでも三家の領地へ行けば、助けを求められると思ったのだった。
*
一行を止めたのは、オランデル側の領境を受け持つ役人だった。
事情を聞く間に、王領から追ってきた役人も到着した。この村人たちを元の村へ戻すよう求めている。
「村を出る許しは与えていない。こちらへ引き渡してもらいたい」
王領の役人が言うと、オランデル側の役人は首を振った。
「領主様へ知らせを送った。返事を待ってほしい」
道端に座っていた竜の民の男性が、顔を上げた。
「帰ったら、罰を受けます」
王領の役人は男性へ向き直った。
「勝手に村を出たのだから、調べるのは当然だ」
男性は口を閉じた。
オランデル側の役人は、王領の役人を道の反対側へ案内した。村人たちから離れた所で、返事を待つよう求める。
それから、一行のための水を運ばせた。
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城で報告を受けたレオノーラは、オランデル家の家宰へ命じた。
「今日は戻さないで。屋根のある所で休ませ、足を診てもらって」
家宰が尋ねた。
「王領の役人には、何と答えさせますか」
「私が王へ申し入れると伝えて。現場だけで引き渡しを決めないように」
家宰は指示を書き留めてから、顔を上げた。
「アズレインの三人と違い、今回は許しなく村を出ています。王は戻せと命じるかもしれません」
「ええ。何があって出てきたのか、本人たちの話も聞く必要があるわ」
レオノーラは続けた。
「聞き取りは、オランデル側で選んだ者にさせて。追ってきた王領の役人は同席させないでほしい」
「承知しました」
「食事と寝床を用意したことも、私から王へ報告する」
レオノーラは指示の文へ自分の名を記した。
*
城から戻ったオランデルの使者が、領境の担当役人へレオノーラの指示を渡した。
一行は近くの休憩所へ案内された。保護の手配を任されたオランデルの家臣も、休憩所に留まった。
食料を届けに来たのは、領内で食べ物を売る天馬の民の男性だった。
男性は戸口から中を見て、足を止めた。
「荷は、ここへ置けばいいのか」
オランデルの家臣が外へ出た。
「ここで受け取る。用意してくれて助かった」
「頼まれた人数分は持ってきた」
男性は荷を渡すと、家臣に中へ運んでもらい、自分は帰っていった。
少しあと、同じ道沿いで商いをする女性が来た。彼女もオランデル領で暮らす天馬の民だった。
布に包んだパンを、先ほどのオランデルの家臣へ差し出す。
「これも渡してくれるかい。昼間、この人たちが道端に座っていたのを見たから」
家臣は包みを受け取った。
「代金は、いくらだ」
女性は首を振った。
「今夜の分くらい、構わないよ」
部屋の中で休んでいた竜の民の男性が、その声に顔を上げた。領境で、帰れば罰を受けると訴えた男性だった。
「ありがとうございます」
女性は戸口から彼を見た。少しぎこちなくうなずき、部屋には入らずに帰った。
オランデルの家臣がパンを切り分けると、竜の民の男性は両手で受け取った。
*
クラウスはレオノーラから届いた文を読み、翌日、森の館でポルフィラへ内容を伝えた。
王領から来た人々は、今もオランデル側の保護を受けている。追ってきた役人へは渡していないという。
ポルフィラはクラウスに尋ねた。
「オブシディオンの所へ行けば、助けてもらえると思ったんですか」
「三家の領地なら、保護を頼めると考えたようだ。竜がどこにいるかは知らなかった」
「私、そんなことが起きるとは……」
あの広場では、三人を連れていかれないようにしてほしかった。その出来事を聞き、自分たちも助かるかもしれないと村を出た人々がいる。
「帰されたら、その人たちも罰されるかもしれないんですね」
クラウスはうなずいた。
「レオノーラは王へ保護を続けたいと申し入れている。人数が増えた場合の食べ物や仕事、住む場所についても、三家で相談を始める」
「王との面会が実現したら、その人たちのことも話したいです。戻れと命じる前に、なぜ出てきたのか聞いてほしい」
「レオノーラへ伝える。本人たちの言葉を王へ届けられるかも相談しよう」
*
森の外へ行くと、オブシディオンが顔を上げた。
ポルフィラは角に手を掛け、鱗へ足を置いた。前より迷わず頭の後ろへ座れるようになっていた。
その日は飛ばず、竜が伏せたまま話をした。
〈あなたが三人を守ったと聞いて、王領の村から出てきた人たちがいる〉
〈どこにいる〉
〈レオノーラ様の領地。今は帰さずに休ませてもらっている。でも王は、元の村へ戻せと言うかもしれない〉
ポルフィラは角へ背を寄せた。
〈王と会えることになったら、その話もしたい。あの三人だけで終わらないんだね〉
〈会うために、おまえだけで行くことはないぞ〉
〈うん。条件を確かめてから、あなたと決める〉
ポルフィラは草地の向こうへ続く道を見た。
〈帰したあとで罰されたと聞くのは嫌だ。どう守ればいいか、私も考えたい〉




