第137話 王からの申し入れ
クラウスがオブシディオンに会ったのは、ポルフィラが帰郷したあとだった。
それまで、ポルフィラとリゼリアたちの話を聞いていた。だが、森の外に伏せる姿を見たときには、足が止まった。
近づいていた家臣も立ち止まる。
ポルフィラは竜のそばから歩いてきた。
「来てくださって、ありがとうございます」
クラウスは娘と竜を交互に見た。
「あれが、おまえを助けに来たのだな」
「はい」
黒い鱗の向こうで、翼の先が動いた。クラウスは息を整え、持ってきた文を取り出した。
「王から、おまえに申し入れが来た」
*
話は森の館で聞いた。リゼリアも同席した。
王はポルフィラと直接会い、竜との関係や、今後どうするつもりかを確かめたいと書いていた。
王の保護を受けるなら、王都で暮らす場所を用意し、家族を呼び寄せることも認める。ただし、王の命令に従う意思を確かめたいとある。
読み上げられた言葉を聞き、ポルフィラは顔をこわばらせた。
「行ったら、帰してもらえるんですか」
クラウスは文へ目を落とした。
「そこは書かれていない」
「父さんたちまで王都へ行ったら、私が命令を断ったとき、どうなるんでしょう」
「家族を近くに置けば、おまえを従わせやすくなる。そういう狙いも考えなければならん」
ポルフィラは両手を握った。
王は三人を返すよう命じ、兵を送ってきた。その命令で来た者たちが剣を抜いた。今度は保護すると言われても、あの光景が先に浮かんだ。
リゼリアが言った。
「王都で暮らせることと、自由に暮らせることは同じではないわ。用意された家から出られなくなるかもしれない」
「オブシディオンを遠くで待たせて、その間に私を閉じ込めることも……」
「あり得る」
クラウスは答えた。
「私たちが一緒に行くから大丈夫だとも言えん。王の城へ入れば、扉も兵も王のものだ」
部屋が静かになった。
「だから、今は面会を受けない。おまえにも、すぐ返事をしてほしくない」
ポルフィラはうなずいた。
「話を聞いてほしい気持ちはあります。でも、帰れなくなるかもしれない所へは、行きたくありません」
クラウスが言った。
「まず、王の保護とは何を意味するのか確かめる。会うにしても城の中ではなく、おまえと竜が離されない場所を求めたい」
「彼も、そばにいていいんですか」
「王がどう答えるかは分からん。だが、竜だけを遠ざけて来いと言われたら、従うつもりはない」
リゼリアも続けた。
「三家にも立ち会ってもらうことと、会ったあとに帰れることも求めましょう。言葉で保証されただけで決めず、実際にどこで会うかも確かめてから」
ポルフィラは少し息を吐いた。
「オブシディオンにも話します」
*
ポルフィラが申し入れを伝えると、オブシディオンはすぐに答えた。
〈おまえだけを行かせはしない。私も行く〉
〈王は、あなたを遠くで待たせたいと言うかもしれない〉
〈ならば、近くで会える所を選べ。それができぬなら、行くな〉
竜は低く顔を下げた。
〈声が届いても、すぐにおまえのそばへ行けるとは限らん。私を残して、おまえだけをどこかへ連れていくことはさせない〉
ポルフィラは鼻先の鱗へ手を添えた。
〈私も、あなたと離れて王の城へ入るのは怖い〉
〈ならば、そう答えろ〉
〈うん。話すために行きたいけれど、安全が保証されない限りは行かない〉
オブシディオンは、しばらく彼女を見ていた。
*
クラウスはレオノーラとテオバルトへ王の文を送り、相談したうえで返事を出した。
今の申し入れを、そのまま受け入れることはできない。
娘と家族を王都へ移す提案も受けない。
面会をするなら、竜と離されない城外の場所で、三家が立ち会うこと。娘にも同席者にも、会談後に帰る自由を認めること。
条件への回答と、具体的な場所を求めた。
王から返事が来ても、受諾を決める前にポルフィラと竜へ相談する。
その文を家臣へ渡したあと、オランデルから別の使者が来ていると知らせがあった。




