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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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135/231

第135話 竜と飛ぶ

三人への罰を取り消すという王の命令が届いた。

元の報告にも、村で聞き取った話にも、反抗や暴力の事実はなかった。怪我で働けなかったことと、罰をやめてほしいと頼んだことを理由に処罰してはならない。

引き渡しの命令も取り消され、王の兵は帰還することになった。ユリウスには、同じ件で三人や家族を責めないよう改めて命じられた。


ロデリクの家臣が読み終えると、世話役の女性は尋ねた。

「帰っていいんですね」


「はい。帰りの道は、こちらで付き添います。村の方でも、迎えるよう知らせます」


怪我をした男性が、足へ目を落とした。

「家まで、荷車に乗せてもらえますか?」


「用意します」


男性はうなずき、隣の村の係を見た。係も、ようやく小さく息を吐いた。


ポルフィラはその顔を見ていた。

帰れる。

彼らはもう、家族のもとへ帰っていける。


*


帰りの支度が始まると、ポルフィラはリゼリアに言った。

「私も、家へ帰りたいです」


「クラウス様へ知らせましょう。帰り道も相談しないとね」


ポルフィラは窓の外へ目を向けた。

オブシディオンが首を起こしている。

「今度は、彼に乗って帰れないでしょうか」


リゼリアも竜を見た。

「あなたたちがよければ。ただ、村のすぐそばへ降りるのは避けたいわ。着地する場所は、先にクラウス様と決めましょう」


ポルフィラはうなずいた。

「まず、乗せてもらえるか聞いてみます」


*


〈私も、あなたに乗って帰りたい〉


広場で伝えると、オブシディオンは顔を下げた。

〈よいぞ。エルディオは、いつも私に乗っていた〉


〈どこに座っていたの?〉


〈角の根元の間だ。おまえも、そこへ乗れ〉


ポルフィラはその頭を見上げた。


角は頭の左右から後ろへ伸び、先端が外側へ開いていた。根元は太く、その間から首へ続く所が浅くくぼんでいる。

乗れそうな場所はある。けれど、そこまでが高かった。


〈どうやって登ればいい?〉


オブシディオンは体を伏せ、長い首を地面へ伸ばした。顎をつけ、頭を少し横へ傾ける。

片方の角の根元が、手の届く高さまで下がった。

〈角を持て。足は、その下の鱗へ〉


ポルフィラは両手を掛けた。角の根元はしっかりしていて、力を掛けても動かなかった。

片足を頬の後ろの鱗へ載せる。

重なった鱗の縁に、靴底が掛かった。思っていたより滑らない。腕で引き上げ、もう片方の足も載せると、地面が離れた。

角を握る指に力が入った。


〈そのまま待て。頭を戻す〉


〈うん〉


オブシディオンがゆっくり頭の傾きを戻した。ポルフィラは角に体を寄せ、鱗の段差を一つずつ確かめながら、頭の後ろへ移った。

角の根元の間は、近くへ来ると広かった。

低く座り、首へ続くくぼみに腰を落ち着ける。足を置き直すと、左右とも鱗の縁へ引っかかった。


〈そこだ。エルディオも、その鱗へ足を掛けていた。首を挟もうとせず、足で体を支えろ〉


ポルフィラは言われたとおりに膝を曲げた。手近な角の根元へ両手を掛け、少し身を伏せる。


下からリゼリアの声がした。

「落ち着いて座れた?」


「はい。足を掛ける所もあります」


返事をしたところで、オブシディオンが尋ねた。

〈起きるぞ〉


〈待って〉

ポルフィラは角を握り直した。

〈……いいよ〉


首が持ち上がった。

地面にいたリゼリアが、急に遠くなった。続いてオブシディオンが体を起こす。宿舎の屋根が目の下へ沈んだ。


ポルフィラは慌てて身を伏せた。

〈まだ飛んでないよね〉


〈立っただけだ〉


足元を見ないようにして、角へ抱きついた。

オブシディオンは動かずに待った。


*


ポルフィラの初めての騎乗飛行は、海沿いの開けた場所からにした。


ロデリクにも伝え、近くの道から人を離してもらった。ポルフィラは乗ったまま、オブシディオンが歩く揺れも確かめた。

彼が足を運ぶたびに、振動が伝わってくる。それでも頭が激しく振られることはなかった。

エルディオを長く乗せていた竜だった。ポルフィラが足を置き直すときには待ち、姿勢が落ち着くと歩き出した。

〈飛ぶときは、もっと低く伏せろ〉


ポルフィラは角の根元へ腕を回した。両足を鱗の段差へ押しつけ、体を低くする。

〈こう?〉


〈ああ。慣れるまでは、ゆっくり飛ぶ。向きを変える前にも知らせる〉

大きな翼が左右へ広がった。


頭の後ろから、風を打つ音が響いた。足元の体がぐっと持ち上がり、ポルフィラは目を閉じた。

体が浮いた。

角を抱く腕と、鱗に掛けた足へ力を込める。

次の羽ばたきが来た。大きな体が、さらに上へ進む。


〈ポルフィラ〉


〈うん〉


〈顔を上げられるか〉


少しずつ目を開けた。

海が見えた。

陸へ寄せる波が、白い筋になって続いている。港も城も、少しずつ遠ざかっていた。

シルヴァに乗ったときと、見えるものは同じはずだった。けれど、すぐ下にはオブシディオンの鱗があり、腕には角の硬さがある。

自分はもう、オブシディオンとどこへでも飛んで行けるのだ。


〈少し右へ向く〉


体がゆっくり傾く。足を掛けた鱗の縁が支えになり、腰はくぼみに収まったままだった。


〈大丈夫か〉


〈うん。ゆっくりなら〉


オブシディオンは緩やかに海の上を回り、陸へ向き直った。


風に涙がにじんだ。ポルフィラは顔を伏せたが、今度は怖さだけではなかった。

〈私、あなたに乗って飛んでるんだね〉


〈そうだな〉

短い返事が届いた。


ポルフィラは角を抱く腕を少し緩め、もう一度海を見た。


*


着地の前にも、オブシディオンは声をかけた。

ポルフィラが身を伏せるのを待ち、翼を広げて高度を落とす。足が地面を踏んだときには体が揺れたが、掛けていた手足は離れなかった。

降りるときは、また首を地面へ下ろしてもらった。

角を手掛かりに、鱗の段差を伝う。最後の一歩で地面へ降りると、膝が少し笑った。

ポルフィラは角の根元から手を離し、頬の鱗へ触れた。

〈乗せてくれて、ありがとう〉

ポルフィラは、角の間をもう一度見た。

〈エルディオとも、飛ぶたびにこうして話していたの?〉


〈慣れてからは、いちいち知らせることもなかった。私が向きを変えれば、あいつも体を合わせた〉


〈急に動いても?〉


〈動く前の気配を覚えていた。私も、あいつの体の動きで、どちらへ向きたいか分かった〉


ポルフィラは飛んでいるときの揺れを思い返した。今は知らせてもらわなければ分からない。

〈私にも、分かるようになるかな〉


〈乗り続ければな。おまえが私の動きを覚え、私もおまえの動きを覚える〉


ポルフィラはうなずいた。

次はもっと力を抜いて、伝わってくるものを感じようと思った。


〈帰るときも、乗るか〉


〈うん〉

ポルフィラは笑い、まだ低い所にある彼の顔を見た。

〈でも、村の近くでは、先に知らせてから降りよう。みんな、びっくりするから〉


〈降りる場所を決めたら教えろ〉


〈分かった〉

家へ帰れる。

その道を、今度はオブシディオンと飛んでいける。


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