第132話 隠していた者たち
港を出た船でも、街道の宿でも、アズレインの竜の話がされた。
黒い天馬より大きい。
黒い火を吐いた。
王の兵が近づけなかった。
聞く者の多くは笑った。酒の席で作った話だと言う者もいた。それでも、違う道を通って来た者たちが同じ話をした。
竜へ近づいた娘がいたという話まで伝わり始めた頃、各領主のもとには王からの文が届いていた。
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レオノーラは王の問いを読み終え、家宰へ渡した。
「竜のことを知っていたと答えるわ。ポルフィラを守っていることも」
「王へ知らせなかった理由は、何と」
「知られれば、娘がどんな扱いを受けるか分からなかった。だから知らせなかった。そのまま書いて」
家宰はすぐには筆を取らなかった。
「陛下のもとでは娘を守れぬと、申し上げることになります」
「ええ。何も知らなかったと答えることはできない」
レオノーラはロデリクの報告を見た。
娘は泣きながら竜にすがったという。
「帰りたいと思っても、竜を連れて行ける場所は限られる。あの子がどこにいたいか確かめて。私たちが勝手に移す話を進めないよう、ロデリクにも伝えてちょうだい」
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クラウスの前でも、家臣が王への返答を待っていた。
「私は竜を直接見ていない。だが、ポルフィラから話を聞き、知っていた。それは隠さない」
「領内から出た娘であることも、答えますか」
「ヴェルディアで育ったことまでは答える。村の場所や家族の名は書くな。王に問われたこととは別だ」
年配の家臣が口を開いた。
「王がお調べになれば、いずれ分かります」
「だから、先に村の様子を確かめる。あの娘の家族だというだけで、勝手に問い詰める者を出すな」
クラウスは若い記録係を呼ぶよう命じた。
「エーベルトは村へ行ったことがある。家族へ伝えることができるか、本人にも聞く。私からの知らせと分かる形で行かせたい」
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インディルでは、テオバルトがリゼリアへ文を書かせていた。
王から説明を求められたこと。竜を知っていたと認めること。現地で保護を続けるなら、リゼリアにも滞在してもらいたいこと。
家臣が尋ねた。
「リゼリア様の引き上げはお命じにならないのですか」
「今引き上げさせれば、残る者に危険を任せて帰れと言うことになる」
テオバルトは書き上がった文へ目を通した。
「ただし、本人の考えも聞く。家のために竜のそばへいろと命じるつもりはない」
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アズレインでロデリクが答えた内容も同じだった。
竜は以前から知っていた。
娘の滞在は自分が認めた。
王の兵を迎え撃つために竜を待ち構えさせたのではなく、現場で抜刀に至り、娘が助けを求めた。
竜に王を攻めさせる約束などしていないと、最後に添えた。
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ユリウスは、家族を罰するなという王の命令を読み返した。
「まだ、何も罰していないではないか」
家臣は答えずに立っていた。
息子とソレインは戻らない。頼った王の兵も、三人を連れてこなかった。さらに、王の調べを受けることになった。
ユリウスは別の報告を指した。
「ロデリクたちは竜を隠していたのだな」
「王から、四家へ説明を求められています」
「そのことを問題にすべきだ。王の兵を退かせる力を、黙って抱えていたのだから」
「元の村の報告も出すよう、命じられております」
ユリウスは机へ手をついた。
怪我で働けなかったと書いた報告だった。息子は、それを反抗者の話へ変えたことを知っている。
「……写しを用意しろ」
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リュシエンヌは、家臣の集めた話と王都からの知らせを並べた。
四家が、竜と娘を守っている。
「こちらへも協力を求めてくるでしょうか」
家臣の問いに、彼女はうなずいた。
「来るかもしれないわ」
「お受けになりますか」
「まだ決められない。四家が何を知っていたか聞く必要がある」
リュシエンヌはクラウスへの文を用意させた。
国の始まりについて話そうとしたとき、彼は明かせないことがあると言っていた。
「あのとき伏せた話に、竜も含まれていたのか聞くわ」
四家に賛同するという返事ではない。だが、竜の話が嘘で済むのを待っていることもできなかった。




