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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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131/228

第131話 竜を知った王

セヴェランが王都へ戻ったとき、城へ降りたアルディスは何度も後ろを振り返った。

隣のノクスも落ち着かず、迎えに出た者たちは離れて待った。ヴァルテルは自ら広場へ出て、黒い天馬の前に立った。

弟が竜を見たと言った。

ノクスよりはるかに大きく、黒い炎を吐いたという。

王は、そんなものがいるはずはないと思ったが、戻ったノクスの姿を見て、その言葉を口にできなくなった。


*


セヴェランは王の前で、同じ話を繰り返した。

「竜が王の兵を脅したのです。ロデリクは、その力で引き渡しを拒みました」


「その場で見たのだな」


「はい」


「竜を?」


セヴェランの顎が強張った。

「アルディスも竜を見て怯えて暴れていた。天馬で止められるようなものではありませんでした」


ヴァルテルは弟の顔を見た。

これまで、天馬の力で従わぬ者を抑えてきた弟だった。その弟が、止められなかったと言っている。

「娘が一人、竜のそばにいたと言ったな」


「竜へ駆け寄りました。ロデリクの宿舎にいた娘です」


「娘の名は」


「確かめておりません」


王は家臣へ、ロデリクからの文が届き次第持ってくるよう命じた。


*


王の兵の指揮官から、急報が届いた。

持ってきた兵は、広場にいた一人だった。王は文を読ませる前に、その兵を呼んだ。


「おまえも竜を見たのか」


「はい」


「何をされた」


兵は喉を動かした。

「空へ火を吐き、そのあと我々へ吠えました」


「人を焼いたのか」


「いいえ。ですが、こちらへ向けられたら……」

言葉が止まった。


王は続きを急かさず、指揮官の文を読んだ。

人も建物も焼かれていない。退いた兵への追撃もない。引き渡しを中断したのは指揮官の判断で、兵は宿舎から離れて待機している。

そして、竜が来る前に双方の兵が抜刀したとあった。

王はセヴェランを睨みつけた。

「拒まれたら報告しろと命じた。なぜ宿舎へ行った」


「ロデリクが本人たちを囲っていたからです。帰る意思を確かめようとしました」


「兵へ連れてこいと命じたのか」


セヴェランの返事が一拍遅れた。

「…本人に話を聞くために…」


「そのために兵同士が剣を抜いた」

王の声が低くなった。

「勝手に争いを始めるなと、言ったはずだ」


セヴェランは唇を結んだ。


*


ロデリクの報告も届いた。

竜が現れた経緯は、指揮官の報告とほぼ同じだった。斬り合いになる前に、娘が助けを求め竜が飛んできた。娘は竜のそばに留まっている。

ヴァルテルは二つの文を並べた。


竜はいる。


王の兵を止め、ノクスまで退かせた。今もアズレインに留まっている。


家臣が尋ねた。

「増援をお出しになりますか」


王は首を振った。

「あの場で兵を増やして、何ができる」

机の上には、以前から届いていた三家の申し出もあった。三人の家族へ危害を加えぬよう、ユリウスに命じてほしいとある。

王はその文を引き寄せた。

「ユリウスへ伝えよ。三人の家族を罰してはならん。家族を使って、保護されている三人を脅すことも禁じる」


家臣が顔を上げた。

「竜が怖いから王が譲ったと、受け取られませんか?」


「家族へ手を出して、竜を動かす口実まで与えるつもりか」

王は家臣を見た。

「村へ人を送り、家族の扱いを確かめさせる。ユリウスにも、処罰しようとした理由と元の報告を出させろ」


「引き渡しの命令は」


「実行を待たせる。兵は指示があるまで動くな」

命令を撤回するとは言わなかった。


*


王は最後に、四家へ説明を求める文を出した。


娘は何者か。


竜と関わったのはいつからか。


なぜ王へ知らせなかったのか。


ヴァルテルは書き上がった文を確かめた。

ロデリクだけの判断で、あそこまで王の命令を拒めたのか。三家はどこまで知っていたのか。

ほかの領主へも、竜が現れたという報告があったことを知らせるよう命じた。噂だけで勝手に兵を動かすことは許さないと添えさせる。


娘を差し出させる命令は、まだ書かせなかった。


今、それを出せば従うのか。拒まれたときに何をするのか。王にも、すぐには決められなかった。

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