第127話 王が動かす兵
王の机には、ロデリクの返答と三家の申し出が並んでいた。
ヴァルテルは読み終えた文を置いた。
「三家も、引き渡しをやめろと言うのか」
「はい。三人を戻す前に、その訴えを聞いてほしいとの申し出です」
家臣の答えに、王はしばらく黙った。
怪我についての説明はある。だが、ユリウスは村で命令に従わぬ者が出ていると訴えている。その者たちを他家が保護し、王の返還命令まで拒んだ。
「ユリウスの処罰については報告を出させる。だが、他家の者を返さぬまま、私の命令を退けることは認めん」
王は家臣に告げた。
「兵を出す。アズレインへ行き、アドリアンと三人の引き渡しを受けよ」
家臣が書き留めた。
「セヴェランを先に向かわせる。兵が着くまでに、ロデリクを説得させる。ノクスにも同行してもらう」
*
呼び出されたセヴェランは、三家も引き渡しに反対していると聞いて顔をしかめた。
「四家が揃って、兄上の命令を拒んだのですか」
「おまえが行き、私の命令だと改めて伝えろ。兵も送る。アドリアンにも、帰るよう説け」
「それでも渡さなければ?」
「私へ報告しろ。城を攻める命令ではない。領民を傷つけることも許さん」
王は兵を率いる家臣にも目を向けた。
「おまえたちも同じだ。引き渡しを受け、護送するために行く。勝手に戦いを始めるな」
セヴェランは口元を引き結んだまま、頭を下げた。
「ノクスも同行する」
その言葉に、セヴェランが顔を上げた。
「兄上も行かれるのですか」
「私はここに残る。ノクスには私から伝える」
王は弟から、兵を率いる家臣へ視線を移した。
「王の命令を伝えるために向かうのだ。力を試しに行くのではない。それを忘れるな」
*
王都では兵が城門を出て、東へ向かった。
人々は道を空け、荷を運ぶ馬や列をなす兵を見送った。どこで何が起きたのか尋ね合う声が、沿道に広がった。
その列より先に、二頭の天馬が空を進んでいた。
白いアルディスにはセヴェランが乗っている。隣を飛ぶ黒いノクスの背に、人影はなかった。
城を出る前、王はノクスのもとへ足を運び、弟とともにアズレインへ向かうよう伝えていた。
*
宿舎の外で、警備の兵が空を指した。
ポルフィラがリゼリアと外へ出ると、白い天馬が城へ向かって降りていた。その背に乗る男を認め、リゼリアの表情が変わった。
「セヴェラン様……」
その向こうから、もう一頭が現れた。
黒い翼が広がった。白い天馬の隣へ並ぶと、広場で着地を迎えていた兵たちが、さらに後ろへ下がった。
「ノクスまで…」
リゼリアの声が低くなった。
少し遅れて来たアドリアンも、城の方を見たまま立ち止まった。
「王の天馬ですか?」
ポルフィラが尋ねると、リゼリアはうなずいた。
「黒い天馬は、ほかの天馬より強いわ。王ご自身は見えないけれど……」
広場の砂が舞った。城へ荷を運んでいた荷車が止まり、道を歩く人々も足を止めて二頭を見ていた。
ポルフィラは宿舎を振り返った。
戸口には世話役の女性が立っていた。何も尋ねず、ポルフィラたちの顔を見ている。
リゼリアが女性へ声をかけた。
「王弟のセヴェラン様です。私がロデリク様の所へ行き、何のために来られたのか確かめます」
女性はうなずき、部屋へ戻っていった。
ポルフィラはリゼリアを見送ってから、オブシディオンを呼んだ。
〈王の弟が来た。白い天馬と、王の黒い天馬もいる。三人を渡せと言いに来たのかもしれない〉
〈おまえたちは、まだ宿舎にいるのか?〉
〈うん。ロデリク様も三家も、渡さないように動いてくれている〉
返事まで少し間があった。
〈私も近くへ向かう。姿を現すかは、そのときに考える〉
ポルフィラは城の方を見た。
〈分かった。来ることは、ロデリク様にも伝える〉
二頭の天馬は城の広場へ降りていた。宿舎の前からでも、建物の向こうに黒い翼が見えた。




