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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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124/225

第124話 返さないという決断

ロデリクの城へ、ソレインが来たと知らせが入った。

前の訪問で指定した城外の広場に降りたという。事前の連絡はなく、今度は村人を乗せていた。


ロデリクは家臣に広場の警戒を命じ、事情を報告させた。


アドリアンは一人で来た。連れてきた三人のうち、二人は竜の民だった。怪我をした者もいて、ユリウスの兵から連れ出したと話している。

ロデリクは椅子から立った。

「私も行く。怪我人は先に休ませろ」


*


広場の外れで待つアドリアンは、ロデリクの姿を見て頭を下げた。

「突然参って申し訳ありません」


「何があった」


アドリアンは、父が報告をどうまとめていたか、三人にどんな命令を出したかを話した。


「父君の兵を止め、連れてきたのだな」


「はい。私が止めました。三人が私をそそのかしたのではありません」


ロデリクは村の係へ目を向けた。

「おまえは何を報告した」


「足の怪我で働けないと報告しました。この二人が争いや暴力を起こしたとは書いていません」


世話役の女も言った。

「罰しないでほしいと頼みました。働かなくてよいことにしてほしいと言ったのではありません」


ロデリクは怪我人の方を見た。家臣がそばにつき、椅子へ座らせている。

この三人をすぐ返せば、事情を確かめるより先に罰が下るかもしれない。


アドリアンが言った。

「父は連れ戻すよう求めると思います。それでも、今はここに置いていただけませんか」


*


ロデリクは家臣を呼んだ。

「城外の宿舎を使わせる。手首の傷と足を診てもらえ。話は休んでから聞く」


アドリアンが顔を上げた。

「ありがとうございます」


「おまえの話だけで、父君が何をしたか決めるつもりはない。元の報告と、三人それぞれの話を確かめる」


「はい」


「だが、確かめる前に引き渡すことはしない」


女が膝から力を抜き、係が彼女の腕を支えた。


家臣がためらいながら言った。

「他領で拘束された者を匿えば、ユリウス様は領内への干渉だと抗議されます」


「私に答えさせろ。引き渡す判断をおまえたちへ任せるつもりはない」


ロデリクはアドリアンへ向き直った。

「ここへ来た理由は、自分でも文に残せ。父君から何と伝えられるか分からん」


「私の名で書きます」


ロデリクはうなずいた。

自領の罰を取り消すこととは違う。今度は他家の命令から逃れた人を、自分が保護すると決めた。


*


数日後、ユリウスから文が届いた。


アドリアンは領主の仕事を妨げ、処罰すべき者を連れ去った。息子と三人を速やかに返せ。応じなければ王へ訴えるとある。


アウレリス家で天馬と繋がっているのは、アドリアンだけだった。彼が家へ戻らなければ、ユリウスは他家へ示してきた力も失う。王に頼ってでも連れ戻そうとするだろう。

ロデリクは家臣へ告げた。

「返さない。事情を確かめている間は保護を続けると返事を出せ」


「王へも、こちらからお知らせしますか」


「ああ。ユリウスの報告だけで判断されぬよう、来訪の経緯を伝える」

ロデリクは文を置いた。

「ヴェルディア、オランデル、インディルにも知らせろ。力を貸してほしい。捕らえられた理由と実際の報告が違うのなら、三人を返すわけにはいかん」

自分の領地だけで済む話ではなくなった。ほかの家を警戒して距離を取っているだけでは、この人々を守れなかった。


*


ポルフィラが知らせを聞いたのは、リゼリアとの館での面会のときだった。クラウスからも、本人へ伝えるよう頼まれていた。


「ソレインと繋がるアドリアンが、父親の命令を止めて竜の民を連れ出したの。今はロデリクの保護を受けているわ」


「家へ戻れなくなったんですか」


「戻れば、その人たちも返せと求められるでしょうね」


ポルフィラは少し黙った。

自分と同じ竜の民を守るために、家を離れた天馬の民がいる。関わると決めたことで、その人の暮らしまで変わってしまった。

「逃げてきた人の家族は、どうしているんでしょう?」


「残っているそうよ。三家も、その人たちへ危害が及ばないよう王に求めることを考えている」


「王がロデリク様に返せと命じたら?」


リゼリアはすぐには答えなかった。

「まだ、そう命じられたわけではないわ。でも、どう守るかは考えなければならない」


*


ポルフィラはその夜、オブシディオンに伝えた。

〈父親の兵を止めて、竜の民を逃がした人がいる。ロデリク様が保護しているけれど、連れ戻せと言われているの〉


〈保護をやめるのか〉


〈やめないって。ほかの領主にも助けてほしいと頼んでいる〉


ポルフィラは窓の外を見た。

〈私は、その人たちに会いに行きたい。何が起きているのか、自分でも知りたい〉


〈会ってどうする〉


〈もし、あなたに力を貸してほしいと頼むことになるなら、自分の目で確かめて決めたい〉

言い終えると、少し手が冷たくなった。

〈戦う決めたわけじゃない。でも、そんな事も言っていられない状況になってしまった…〉


オブシディオンはしばらく黙っていた。


〈行くなら、何をするかは私も考える〉


〈うん〉

ポルフィラはリゼリアに同行できるか、明日、自分から申し出ようと思った。

今までのように、知らせを待つだけではいたくなかった。

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