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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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123/231

第123話 ソレインが守る人

「荷車を止めろ」

アドリアンは道へ出た。


家臣が兵へ合図し、荷車が止まった。

「領主様の命令で連れていく者たちです」


「縄を解いて、何があったか説明してくれ」


「城へ戻ってからお確かめください」


父のもとへ運ばれたあとでは、同じように話を聞けるとは思えなかった。

アドリアンは荷車へ近づいた。ソレインも後ろからついてくる。

大きな蹄の音に、縛られた女が身を縮めた。怪我人も荷車の奥へ下がろうとしている。

アドリアンは足を止めた。

〈ソレイン、そこで待っていてくれ〉


ソレインが止まると、アドリアンは一人で荷車の脇へ立った。

「私は話を聞きたいのです。どうして捕らえられたのですか?」


女は答えなかった。


村の係が、先に口を開いた。

「足の怪我は本当でした。私はそう報告しました。この女も、働けない者を罰しないでほしいと申し立てただけです」


家臣が遮った。

「判断するのは領主様だ」


「この人は武器を持って争ったのか?」


アドリアンが尋ねると家臣は首を振った。

「命令への反抗です」


怪我人が小さく言った。

「治れば働くと言いました。休んだ罰は受けろと言われて……」


その声に、そばの兵が顔をしかめた。


アドリアンは家臣を見た。

「三人とも、縄を解くように」


「あなたに取り消す権限はありません」


「父の命令を取り消せるとは言ってない。このまま連れていくことを、止めるだけだ」


*


家臣は兵へ告げた。

「先へ進め」

兵が女の肩をつかみ、荷車の奥へ押した。アドリアンはその腕を押さえた。

「手を離せ」


兵は振りほどこうとした。別の兵が剣へ手をかける。


ソレインが近づいた。

アドリアンの背後へ首を伸ばし、道を塞ぐように立つ。兵たちは剣を抜きかけたまま止まった。


家臣が声を強めた。

「領主様に逆らうのですか」


「この人たちを、反抗した者だと認めさせるために連れていくことを、私は見過ごせない」


「天馬で父君の兵を脅すおつもりか」


アドリアンはソレインを振り返った。

怖がらせるつもりはなくても、その巨体が兵を止めている。力を使わずに済ませたことにはならない。

それでも後ろへ下がれば、三人は連れ去られる。

「手を出さなければ、こちらも傷つけない」


家臣は兵を見た。

息子を押さえるようにも、ソレインを傷つけるようにも命じられていない。ここで争えば、三人を運ぶだけの仕事では済まなくなる。

「領主様へ報告します」


「私が止めたと伝えればいい」


家臣は兵を下がらせた。村から少し離れたところに待機させ、城へ戻る使いを出すつもりらしかった。


アドリアンは荷車へ向き直った。


*


縄を解いても、三人は動かなかった。


村の世話役の女性がアドリアンに尋ねた。

「ここに戻っても、また捕まるんじゃありませんか?」


アドリアンは答えられなかった。

父が、自分に止められたからと処罰を取りやめるはずはない。

「別の場所で保護を求めます。ロデリク様なら、事情を聞いてくださるかもしれません」


「必ず助けてもらえるのですか」


「まだ分かりません。ですが城へ連れ戻されるより先に、頼みに行きたい」


世話役の女性は、自分の家がある方へ目を向けた。

「家族がいます」


「皆を連れてはいけません」

言ったあとで、アドリアンは唇を結んだ。手を出したのに、村全体を守る力はなかった。


世話役の女性は、怪我をした男性に声をかけた。

「私はロデリク様のところへ行きます。一緒に事情を聞いてもらいませんか」


男性は村の方を見たあと、うなずいた。

「行こう。ここに残っても、また捕まる」

それから荷車のそばにいた村人へ頼んだ。

「家族に伝えてくれ。罰を取り消してもらえるよう、ロデリク様に話しに行くと」


世話役の女性も、その村人に言った。

「私の家族にもお願いします」


村人は二人を見てうなずいた。

「分かった。両方の家に伝える」


村の係も顔を上げた。

「私も行きます。報告したことを、私の口から説明します」


*


ソレインが体を低くした。

それでも三人は近づくのをためらった。アドリアンは、村にあった荷車を脇へ寄せてもらい、そこから背へ上がるよう頼んだ。

世話役の女性と村の係が、怪我をした男性を支えた。アドリアンも手を貸し、乗った三人へ帯を回して体を固定した。


〈いつもより人が多い。急に飛ばないでくれ〉


〈分かった〉


アドリアンが乗るとソレインは立ち上がった。


村人が道を空け、女が最後に村を振り返った。

翼が動いた。兵たちが走り出したが、間に合わなかった。

村が小さくなってから、アドリアンはようやく息を吐いた。

父の命令に従う兵を止め、その手から人を連れ出した。もう家へ戻って、口論しただけで済ませることはできない。


後ろで女が帯を握り、怪我人の肩を支えていた。


アドリアンは前を向いた。まずは、この三人を安全に降ろさなければならなかった。

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