第123話 ソレインが守る人
「荷車を止めろ」
アドリアンは道へ出た。
家臣が兵へ合図し、荷車が止まった。
「領主様の命令で連れていく者たちです」
「縄を解いて、何があったか説明してくれ」
「城へ戻ってからお確かめください」
父のもとへ運ばれたあとでは、同じように話を聞けるとは思えなかった。
アドリアンは荷車へ近づいた。ソレインも後ろからついてくる。
大きな蹄の音に、縛られた女が身を縮めた。怪我人も荷車の奥へ下がろうとしている。
アドリアンは足を止めた。
〈ソレイン、そこで待っていてくれ〉
ソレインが止まると、アドリアンは一人で荷車の脇へ立った。
「私は話を聞きたいのです。どうして捕らえられたのですか?」
女は答えなかった。
村の係が、先に口を開いた。
「足の怪我は本当でした。私はそう報告しました。この女も、働けない者を罰しないでほしいと申し立てただけです」
家臣が遮った。
「判断するのは領主様だ」
「この人は武器を持って争ったのか?」
アドリアンが尋ねると家臣は首を振った。
「命令への反抗です」
怪我人が小さく言った。
「治れば働くと言いました。休んだ罰は受けろと言われて……」
その声に、そばの兵が顔をしかめた。
アドリアンは家臣を見た。
「三人とも、縄を解くように」
「あなたに取り消す権限はありません」
「父の命令を取り消せるとは言ってない。このまま連れていくことを、止めるだけだ」
*
家臣は兵へ告げた。
「先へ進め」
兵が女の肩をつかみ、荷車の奥へ押した。アドリアンはその腕を押さえた。
「手を離せ」
兵は振りほどこうとした。別の兵が剣へ手をかける。
ソレインが近づいた。
アドリアンの背後へ首を伸ばし、道を塞ぐように立つ。兵たちは剣を抜きかけたまま止まった。
家臣が声を強めた。
「領主様に逆らうのですか」
「この人たちを、反抗した者だと認めさせるために連れていくことを、私は見過ごせない」
「天馬で父君の兵を脅すおつもりか」
アドリアンはソレインを振り返った。
怖がらせるつもりはなくても、その巨体が兵を止めている。力を使わずに済ませたことにはならない。
それでも後ろへ下がれば、三人は連れ去られる。
「手を出さなければ、こちらも傷つけない」
家臣は兵を見た。
息子を押さえるようにも、ソレインを傷つけるようにも命じられていない。ここで争えば、三人を運ぶだけの仕事では済まなくなる。
「領主様へ報告します」
「私が止めたと伝えればいい」
家臣は兵を下がらせた。村から少し離れたところに待機させ、城へ戻る使いを出すつもりらしかった。
アドリアンは荷車へ向き直った。
*
縄を解いても、三人は動かなかった。
村の世話役の女性がアドリアンに尋ねた。
「ここに戻っても、また捕まるんじゃありませんか?」
アドリアンは答えられなかった。
父が、自分に止められたからと処罰を取りやめるはずはない。
「別の場所で保護を求めます。ロデリク様なら、事情を聞いてくださるかもしれません」
「必ず助けてもらえるのですか」
「まだ分かりません。ですが城へ連れ戻されるより先に、頼みに行きたい」
世話役の女性は、自分の家がある方へ目を向けた。
「家族がいます」
「皆を連れてはいけません」
言ったあとで、アドリアンは唇を結んだ。手を出したのに、村全体を守る力はなかった。
世話役の女性は、怪我をした男性に声をかけた。
「私はロデリク様のところへ行きます。一緒に事情を聞いてもらいませんか」
男性は村の方を見たあと、うなずいた。
「行こう。ここに残っても、また捕まる」
それから荷車のそばにいた村人へ頼んだ。
「家族に伝えてくれ。罰を取り消してもらえるよう、ロデリク様に話しに行くと」
世話役の女性も、その村人に言った。
「私の家族にもお願いします」
村人は二人を見てうなずいた。
「分かった。両方の家に伝える」
村の係も顔を上げた。
「私も行きます。報告したことを、私の口から説明します」
*
ソレインが体を低くした。
それでも三人は近づくのをためらった。アドリアンは、村にあった荷車を脇へ寄せてもらい、そこから背へ上がるよう頼んだ。
世話役の女性と村の係が、怪我をした男性を支えた。アドリアンも手を貸し、乗った三人へ帯を回して体を固定した。
〈いつもより人が多い。急に飛ばないでくれ〉
〈分かった〉
アドリアンが乗るとソレインは立ち上がった。
村人が道を空け、女が最後に村を振り返った。
翼が動いた。兵たちが走り出したが、間に合わなかった。
村が小さくなってから、アドリアンはようやく息を吐いた。
父の命令に従う兵を止め、その手から人を連れ出した。もう家へ戻って、口論しただけで済ませることはできない。
後ろで女が帯を握り、怪我人の肩を支えていた。
アドリアンは前を向いた。まずは、この三人を安全に降ろさなければならなかった。




