第121話 つながりを守るために
王の命令を聞いたポルフィラは、森の館でクラウスへ尋ねた。
「私がエーベルトさんと会うことも、やめなければならないんですか」
「王が止めたのは、学校で竜の民も同じ人間だと教えることだ。おまえたちが会うことは禁止されていない」
「でも、城には会うことに反対する人もいるんですね」
「ああ。竜の民と関わりたくない者もいる。だが、王の命令を口実に面会まで止めることはさせない」
ポルフィラは少し息をついた。
「話を聞いた人が、周りから責められることはありませんか」
「悪く言われることはあるかもしれない。だから相手にも、今の状況を説明して会いたいか確かめる」
「それでも会いたいと思ってくれる人がいるなら、私も話したいです」
「分かった。本人の希望を確かめてから取り次ごう」
*
その後、エーベルトから一人の女性を紹介したいと申し出があった。
城の衣服を繕う仕事をしている者だった。村へ行った話を聞いて、自分も村人と話してみたいと言ったという。
クラウスも相手を確かめたうえで、二人へ今の命令を説明した。女性はそれを聞いても、話してみたいと答えた。
ポルフィラも会うことにし、後日、館で面会する日が設けられた。
*
女性はパウラと名乗った。
「村の人ときちんと話すのは初めてです」
「ポルフィラです。私も、城で服を直す人と話すのは初めてです」
パウラは少し笑った。
「エーベルトから、鍛冶屋のお父さんの話を聞きました。私も修繕の仕事なので、後から頼まれたものを待たせることはあります」
「急いでと言われるんですか」
「ええ。他にも同じ仕事の人がいるけど、その人も手がふさがっていることがありますから」
ポルフィラは父を思い、うなずいた。
パウラは続けた。
「私なら、先に頼んだ仕事があるから待ってほしいと説明します。村でも、そう言えるのではありませんか」
「天馬の民には言えません。命令に逆らったと罰を受けますから…」
「遅れる理由を話しただけで、逆らったことになるのですか」
「はい。私たちは、殴られたり、家族まで罰されたりするかもしれません」
パウラは黙った。
「私も仕事が遅れて叱られることはあります。でも、家族まで罰されるとは考えません。それでは、説明するのも怖いですね」
ポルフィラはうなずいた。
待ってほしいと頼むだけでも、村人は天馬の民からの罰を気にする。その怖さを、パウラは聞いてくれた。
*
エーベルトが口を開いた。
「城では、村へ行って考えを変えたのかと聞かれます。竜の民に同情して、仕事を甘く見ているとも言われました」
ポルフィラは彼を見た。
「困っているのですね…」
「返事に迷うことはあります。ですが、まだ話を聞こうと言ってくれる者もいます」
「私が話したせいで、皆さんが責められるのは嫌です」
パウラが顔を上げた。
「今日来たのは私が聞きたかったからです」
「それでも、学校で同じ人間だと教えることは止められたんですよね。私たちと話したせいで、困りませんか?」
「だから、何をどこで話すかは私も考えます。あなたの名前や村のことを、勝手に人へ話すこともしません」
エーベルトもうなずいた。
「私たちの名前も、誰に話すかは先に相談してもらえますか」
「はい。私もそうします」
ポルフィラは二人を見た。
会ったことを誰にでも言っていい関係ではなかった。相手にも暮らしがあり、失いたくない仕事がある。
「村の人たちにも、こんなふうに話せる相手ができてほしいです。私だけが会って、皆の気持ちまで代わりに伝えるのではなくて」
「私も、あなた一人の話で全部分かったとは思わないようにします」
パウラが答えた。
「今日は、知らなかったことを聞けました」
それから少し考えてから続けた。
「仕事で困ったことがあると、村人はいい加減だと言う者がいます。私も理由を確かめず、話を合わせていました。まず、それをやめます」
*
面会のあと、ポルフィラは二人へ、また話したいと伝えた。
二人とも、それなら話そうと答えてくれた。
今すぐ何かを変えられる力があるわけではない。それでも学校への方針が止められたからと、個人で知り合うことまでやめようとはしない人がいた。
館を出てから、ポルフィラはオブシディオンを呼んだ。
〈話を聞いてくれる人が、また一人できた〉
〈王の命令は知っているのか〉
〈知っている。それでも会いたいと言ってくれた〉
オブシディオンは少し黙った。
〈その者にも、守りたいものがある〉
〈わかっているわ〉
ポルフィラは歩き続けた。
これからも、こうした関わりを広げていきたい。だからこそ、相手の望みも恐れも聞かなければならないと思った。




