第119話 王の命令
三家からの報告が王のもとへ揃った。
家臣や役人に村人の事情を聞かせていること。天馬の民の子供たちへ、竜の民も同じ人間だと教えること。いずれも領主自身が決め、担当する家臣に進めさせていると記されていた。
ヴァルテルはオランデル領の学校へ出された方針を読んだ。
「同じ人間として扱え、か」
王の顔が険しくなった。
そばに控える家臣が尋ねた。
「この教え方はお認めになりませんか」
「むやみに傷つけるなということと、天馬の民と同じ人間だと教えることは別だ」
王は文を置いた。
「これまで教えてきた竜の民の姿と違うではないか」
「レオノーラ様は、今暮らしている者たちを、むやみに蔑むべきではないと述べておられます」
「では、今まで国が教えてきたことを、領主の判断で誤りとするのか」
家臣は答えずに待った。
王は続けた。
「子供が竜の民を人と思い始めれば、なぜ村にとどめて命令に従わせるのかと疑う。すでに親から、そのような抗議も出ているのだろう」
「はい」
「学校へ出した新しい方針は撤回させろ。他の二家にも、同じ教えを始めないよう伝える」
家臣が書き留めた。
「不当な暴力をやめさせることや、村人の事情を確かめる仕事は続けてよい。だが竜の民を同じ人間だと教えることまで、許したのではない」
*
王の命令が届くと、レオノーラは家宰と教育を担当する家臣を集めた。
「学校へ出した方針を撤回せよ、という命令ね」
家宰がうなずいた。
「竜の民も同じ人間だという教えを、王はお認めになりませんでした」
レオノーラはしばらく文を見つめた。
竜の民にも家族があり、考えがあり、天馬の民と同じように生きていると知ってほしかっただけだ。
王が止めたのは、その教えだった。
教育担当の家臣が尋ねた。
「学校へは、どのように伝えましょう」
「新しい方針は、王の命令で停止すると伝えて。教師が間違っていたから取り消すのではない。私が責任を負う話だと明記して」
「承知しました」
「子供がすでに教わったことを口にしただけで、教師や親が叱ることはしないこと」
家臣は書き留めた。
このまま命令に背いて授業を続けさせれば、従う教師を危険にさらす。
家宰が尋ねた。
「王へは、命令に従うとだけお返ししますか」
「いいえ。竜の民の暮らしを知り、彼らがどんな人達なのか分かれば、不当な扱いをする者が減るかもしれない。なのに、なぜ教えてはいけないのかと尋ねるわ」
レオノーラは顔を上げた。
「学校への方針は止める。でも、竜の民も同じ人間だという考えを改めるつもりはない」
家宰はうなずいた。
レオノーラは王への返答を自分の名で出すよう命じ、クラウスとテオバルトにも経緯を知らせた。
*
学校を受け持つ者たちへ、停止の通知が届けられた。
教師はそれを読み、教室の方へ目を向けた。
竜の民の子にも母親がいるのかと、子供たちは尋ねた。自分は、いると答えた。
王の命令が来ても、その答えが変わるわけではない。
教師は通知を畳んだ。
授業の方針は止まった。だが子供たちが知ったことも、自分の中に生まれた疑問も、以前には戻らなかった。
*
ヴェルディアの城でも、クラウスが家臣たちへ王の命令を伝えていた。
「学校で新しい教え方を始めることは止める。だが村人の話を聞き、不当な扱いを改める仕事は続ける」
家臣の一人が尋ねた。
「竜の民と会うことも、控えるべきではありませんか」
「王はそれを命じていない。おまえたちが、命令にないことまで禁じるな」
部屋の後ろでエーベルトも聞いていた。
領主の方針を知り、村人の暮らしを考え始めた者がいる。王に教えるなと言われても、知ったことを忘れるわけではない。
ポルフィラと話したことも同じだった。
家臣たちが退出すると、エーベルトは自分の仕事へ戻った。村人の事情を確かめる仕事は続ける。それが、今日の命令を聞いたあとも変わらずにできることだった




