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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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118/231

第118話 自分の言葉で

王へ送る返答を相談するため、三家は森の館に集まった。


ポルフィラが呼ばれたのは、その相談が終わったあとのことだった。領内で始めた取り組みに王が説明を求めたことを、本人にも知らせるためだった。


「教えを元へ戻せという命令ではないのですね」

ポルフィラが尋ねるとレオノーラはうなずいた。


「ええ。今の方針が必要だと、私たちから説明する。他領へ広げる働きかけは控えるけれど、自領で始めたことは続けるわ」


「親や教師の中には、考えを変えた人もいるんですか」


「まだ迷っている人もいる。けれど、教科書に書いてあるというだけで、決めてよいのかと考え始めた教師はいるわ」


ポルフィラは少し息をついた。

知らずに嫌う人ばかりではなくなっている。その変化を王が問題にしていることは怖かった。

「その人たちも、叱られるのでしょうか」


「今は何も命じられていない。もし私の方針で責められるなら、私が責任をもつわ」


テオバルトも言った。

「誰が何を決めたかを、王へはっきり伝える。現場の者は私の指示に従っただけだ」


ポルフィラは三人を見た。

領主に従っただけの人も、考えを改め始めた人もいる。その人たちを危険にさらしてはいけない。


*


「私も、自分から話せる相手を増やしたいです」

ポルフィラが言うとクラウスは尋ねた。


「誰と話したい」


「村へ来た若い家臣の方と、もう一度。ほかにも、私たちのことを知りたいと思っている人と話してみたいです」


「村へ訪ねる者を増やしたくないと言っていたな」


「村の皆に相手をしてほしいのではありません。私が話したいんです。ここで会うことはできませんか?」


クラウスは少し考えた。

「若い家臣なら取り次げる。だが、ほかの者へおまえを紹介するのは、相手を確かめてからにする」


「はい」


「おまえは自分の知っていることを、自分の言葉で話せばよい」


ポルフィラはうなずいた。

村の暮らしを知ってほしいと頼むだけではなく、相手の暮らしも知りたかった。なぜ恐れるのか。何を聞けば考え始めるのか。

誰とでも会えるわけではない。それでも、これまで領主たちを通して伝えていた言葉を、自分から伝える相手ができるかもしれない。


*


後日、森の館で若い家臣と会った。

村を訪ねたときとは違い、年配の役人はいなかった。


家臣は名乗った。

「エーベルトと申します。城で記録の整理をしています」


「ポルフィラです」

名を伝えてから、初めて相手の名前を知ったのだと気づいた。

「村での話を、城の人たちに伝えたと聞きました」


「はい。私が勝手に修理の日を指示しかけた事も話しました」


「皆、どう言いましたか」


「村人の都合まで聞いていたら仕事が進まないと言う者もいました。ですが、村では修理を待たされている家もあると話すと、考える者もいました」


ポルフィラは父の鍛冶場を思った。

その場にいなかった人へも、父の話が届いていた。


エーベルトは続けた。

「城で受け取る報告には、直した数や遅れた数が書かれています。遅れには理由があるのだと、村へ行って初めて考えました」


「私たちが説明しても、言い逃れだと思われることがあります」


「私も、同じように思っていたかもしれません」


ポルフィラは家臣を見た。

前なら、それを正直に言われれば傷ついたまま黙ったかもしれない。でも今日は言っておきたかった。

「これからも、私たちが何か言ったら、まず話を聞いてください。信じるかどうかを決める前に」


エーベルトはうなずいた。

「そうします」


*


「あなたは、城の人間が怖いですか」

エーベルトが尋ねた。


「怖いです。何か間違えて罰されても、私たちは止められません」


家臣は口を閉じた。


「でも、怖いと思っても、話してみたいです。あなたが村で父の話を聞いてくれたから、今日も話したいと思いました」


「私は、領主様に節度を持って対面するよう命じられ、そうしていただけです」


「父の説明を聞いて、明日までに直せとは言わなかったでしょう。それが嬉しかったんです」


エーベルトは少し目を伏せた。

礼を言われるような立派なことはしていない。自分で決めかけた期日を取り下げただけだった。

それだけのことを嬉しいと言う暮らしを、今まで考えたことがなかった。


ポルフィラは続けた。

「私も城で暮らす人を知りません。よければ、あなたの仕事のことも聞かせてください」


エーベルトは顔を上げた。

「毎日、届いた報告を整理します。書き忘れがあれば、担当者へ返して確かめてもらうこともあります」


「それなら、理由が書かれていないときは、確かめてもらえるんですか?」


「今までは、数が合っていれば済ませてました。これからは、それでよいか確かめます」


ポルフィラはうなずいた。

大きな約束ではない。彼が何を変えるかは、これからの仕事で分かる。

今日は、天馬の民といつもと違う会話ができた。


*


帰り道でオブシディオンを呼んだ。

〈城の家臣と、自分から会って話してきた〉


〈何を話した〉


〈私たちが怖がっている理由と、話を聞いてほしいこと。相手の仕事のことも聞いた〉


〈おまえの言葉を聞いたのだな〉


〈うん。でも、まだ知らないことは多い〉

ポルフィラは館から続く道を歩いた。


王は説明を求め、反対する者も動き始めた。話し合えたからといって安全だとは限らない。

それでも今日、自分の言葉を聞いてくれた人がいた。その人が城で何をするかを、これからも知っていきたかった。


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