第117話 父の使いではなく
アドリアンがロデリクへ面会を求めたのは、父が王都から戻ったあとだった。
ユリウスは三家が王へ説明することになったと話した。国の決まりを疑わせる教えは広めるべきではないとも言った。
アドリアンには、別のことが気にかかった。
事情を確かめずに働かせるのはおかしい。その程度の問いにも、父は逆らうなと答えた。
ロデリクは、なぜ扱いを変えようと思ったのだろう。
面会を求める文を出し、返事を待った。会うと答えが来ると、自分で話を聞きに行くと父へ告げた。
「私の代わりに何か決めることは許さん」
ユリウスに言われ、アドリアンは答えた。
「父上の使いとして行くのではありません」
父は顔をしかめた。
「相手がそう受け取るとは限らない。おまえはアウレリスの名で暮らしているのだ」
その言葉は、出発してからも残っていた。
*
ソレインが城外の広場へ降りると、待っていた家臣が近づいてきた。
降りる場所は、ロデリクからの返事で指定されていた。城へ突然天馬を近づけないためだった。
アドリアンは淡い灰色の首に触れた。
〈少し待っていてくれ〉
〈ああ〉
案内された部屋にはロデリクがいた。
「父親から伝言を預かっているのか」
「いいえ。私が聞きたくて参りました」
ロデリクはうなずき、座るよう勧めた。
「村人への扱いを変えたと聞きました。何がきっかけだったのですか?」
「自分が読んでいた報告を疑った。怪我で働けない者も、命令を拒んだと書かれていたからだ」
「父のもとでも、怪我をしたという話が言い逃れにされていました」
「父上はそれを確かめたのか?」
「まだです。確かめる前に、ソレインを飛ばして村人を脅せと言われました」
ロデリクは表情を変えた。
「それで行ったのか」
「断りました。ですが、それだけです。役人への命令はなくなっていません」
ロデリクは少し黙った。
「村人の話を聞けば分かると思ったのですが、私が行けば怖がるでしょう。父の命令を伝えに来たと思われるかもしれません」
「ああ。私も、おまえが父の使いではないかと疑った」
アドリアンは顔を上げた。
「領主でも警戒する。天馬に乗った領主の息子が来たら、村人はもっと怖いだろう」
アドリアンは広場で待つソレインを思った。
自分を信じてくれる優しい相棒だ。だが、その姿を見た人々が何を恐れるかは、父に利用されるまで深く考えていなかった。
*
「私は、罰を決めた役人に判断の理由を聞き直した」
ロデリクは言った。
「おまえが話した怪我人も、役人がどう調べたのか分かっていないのだろう。まず、そこを聞いてはどうだ」
「はい。誰が怪我の状態を確かめたのか、それでも働けと命じたのかを聞きます。そのあとの処罰についても…」
「父親に止められるかもしれんな」
「それでも聞きたいです。私は脅す役を断りましたが、それだけです……」
ロデリクはうなずいた。
「こちらで何を調べたか、担当する家臣からも説明させよう。おまえのところで確かめる手がかりにはなるだろう」
「ありがとうございます」
アドリアンは顔を上げた。
「今後もソレインで村人を脅せという命令は拒否します」
「父親とは対立することになるぞ」
「はい。ですが、話を聞く前から脅すのは間違っていると思います」
父のやり方を嫌うだけでは、村人がどう扱われているかは分からない。帰ったら役人へ尋ねる。アドリアンは、まずそれをすると決めた。
*
城を出るとソレインが首を下げた。
〈聞きたいことは聞けたか〉
〈ああ。帰ったら、確かめることがある〉
〈私も行くのか〉
〈村へは行かない。先に、命令した側へ聞く〉
アドリアンが乗ると、淡い灰色の翼が広がった。
父の役人が素直に答えるとは限らない。父自身に止められるかもしれない。それでも今日は、次に自分がするべき事を見つけた。




