第114話 教えてきたこと
森の館でクラウスに会うと、ポルフィラは村への訪問について伝えた。
「若い家臣の方は、父の説明を聞いてくれました。でも役人の方は、私たちを従わせる相手だと思ったままでした。あの方が口を出すたびに、父もガルも黙ってしまいました」
「二人の報告でも、その違いは出ていた」
クラウスは答えた。
「丁寧に話せとは命じたが、村人を見下す考えまでは変わらなかった。あの役人は、村人の事情を調べる仕事から外す」
ポルフィラは顔を上げた。
「では、次も別の人が村へ来るんですか」
「すぐには送らない。まず若い家臣に、見てきたことを城の者たちへ話させる。命令する側にも間違いがあると、自分の経験から伝えてもらう」
「天馬の民の間で話してくれるんですね」
「ああ」
竜の民の普段の様子を知ってもらうために、まず城の者へ働きかけるのだと分かった。
ポルフィラはうなずいた。
「村の人にも教えて下さい。話しても何も変わらなかったと思われたくありません」
「管理者を通して知らせる。取り組みがその後どうなったかも、おまえに伝える」
クラウスは続けた。
「レオノーラは教育を担当する家臣に、教え方を改める方針を伝えるそうだ。幼い頃から竜の民を蔑むよう教われば、同じことが繰り返されるからな」
「村に来る人だけではなく、育つときの教えから変えるんですね」
「そうだ。私たちも、その方針を自領でどう進めるか相談する」
ポルフィラは父やガルを思った。
あの日の緊張が消えるわけではない。それでも訪問の結果が、次の判断につながったことは伝えたかった。
*
王都の南に広がるオランデル領では、丘陵に果樹園が続き、平地には穀物や繊維作物の畑が広がっていた。町の人々は村から届く品を使って暮らしていたが、作る者の顔を知らないことが多かった。
レオノーラの城には、領内の教育を担当する家臣が呼ばれていた。
「教師たちの教え方は確かめられた?」
「はい。調べた学校では、教科書の説明に加え、竜の民を人だと思って不用意に近づけば危険だと教えています」
レオノーラはうなずいた。
「その教え方を改める。竜の民も同じ人間であり、出自だけで蔑んだり傷つけたりしてはならないと伝えて」
家臣は少しためらった。
「国の歴史を教える内容も変えるのでしょうか」
「今、教科書をすべて書き換えよと命じているのではないわ。過去の争いを理由に、今生きている者を皆、危険だと教えるのをやめたいの」
「教師も、その教えで育っています。言葉を変えるだけで納得するとは思えません」
「だから教師への説明から始めて。何を疑い、何を怖がっているかも聞いて報告してほしい。村の暮らしを知る機会も考えたいけれど、それは次の段階にする」
家臣は手元へ書き留めた。
「まず領都の学校を受け持つ者たちへ伝えます。その後、各地の担当者へ方針を届けます」
「親への説明も用意して。教師一人に対応を押しつけないように」
「身分の違いを疑わせると、反対が出るでしょう」
レオノーラは家臣を見た。
「出るでしょうね。これまでの教えと違うのだから」
「王家の方針に背くという批判にもなりかねません」
「他家や王から問われれば、私が答える。担当者の独断にするつもりはないわ」
家臣は頭を下げた。
レオノーラが決めるのは、領地として何を目指すかだった。学校ごとの説明や教師への指導は、この家臣と、その下で各地を受け持つ者たちが進める。
村人に乱暴をするなと命じる一方で、子供には相手を蔑むよう教える。その食い違いを、領内で改めていく。
*
領都の学校を受け持つ者たちへ、新しい方針が伝えられた。
教師に何を説明するか、親から異議が出たとき誰が対応するかも決められた。各地への連絡も出され、城の方針が学校の現場へ届き始めた。
村人の暮らしを知った家臣がいた。今度は、村人を知らずに教えてきた者たちが、その教えを問い直すことになる。
誰もが受け入れるとは限らない。レオノーラは、担当する家臣から届く報告を待った。




