第113話 リュシエンヌの疑問
リュシエンヌはクラウスの城を訪ねた。
部屋で待っていたのはクラウス一人だった。ほかの二家を呼んでいないことに、彼女は少し安心した。三人を相手にするのは避けたかった。
「今日は何を聞きたい」
クラウスが尋ねるとリュシエンヌは答えた。
「ロデリクから聞いた話よ。領主の祖先は領民の争いを収めるために選ばれたというのは、何を根拠にしているの」
「それを明かすには、ほかの者とも相談が要る。返事にも書いたとおりだ」
「では、私は何も確かめられないのね」
声が硬くなった。
クラウスは彼女を見た。
「こちらから確かめられない話を持ち出しておいて、信じろと言うつもりはない。だが今は出所を話せない」
リュシエンヌは椅子へ座り直した。
「王家を変えるために、味方を集めているの?」
「今、王に求めているのは竜の民の解放だ。君にこちらの考えを押し付けるつもりはない」
「でも身分を変えれば、領地の暮らしも変わるでしょう」
「ああ」
クラウスがすぐにうなずいたので、彼女はかえって言葉に詰まった。
少し考えてから続けた。
「畑を耕す者も羊を飼う者も、今までどおり働くとは限らなくなる。領主の命令に従わなくなれば、困るのは私たちよ」
「今の仕事を続けたい者もいるだろう。違う仕事をしたい者もいる。どうするか選ぶのは彼らの自由だと、私は考えている」
「すべて彼らに任せればいいとは思えないわ」
「私も、話し合うことは必要だと思う。だから彼らの言葉が聞きたい」
リュシエンヌは目を伏せた。
自領の役人から届いた報告には、命令に逆らったとしか書いていないものが多い。あれを読んでも、村人が何をしたのかは分からなかった。
*
「あなたたちは、もう何か始めているの?」
リュシエンヌが尋ねるとクラウスはうなずいた。
「家臣と役人に、竜の民も同じ人間だと話した。村にも行ってもらった」
「うまくいったの?」
「一人は、村人も自分の家族と同じように暮らしていると気づいた。もう一人は、野蛮な者たちが多いという見方を変えなかった」
「穏やかな者がいるのは、私も知っているわ」
「それ以外は皆、野蛮な者なのか」
リュシエンヌは顔を上げた。
「そこまでは言っていない」
「では、何人の村人の話を聞いた?」
答えようとして、思い当たる顔が浮かばなかった。
報告には目を通してきた。領内を移動したとき、働く人々を見たこともある。だが本人がどんなことを考えているか尋ねたことなどなかった。
「自分の領地なのに、知らないことばかりだわ」
クラウスは黙って聞いた。
「でも、城から行けば相手は怖がるでしょう。聞きたいことが聞けるとは限らない」
「そのとおりだ。今回も村人は気を張っていた。訪ねさせただけで終わらせてはいけない」
「では、どうするの」
「村の者が嫌だったことは次にやめる。訪問する相手を従わせる形にはしたくない」
リュシエンヌは考え込んだ。
自分なら、何を答えるだろう。
王の使いが来て、思っていることを話せと言われる。黙れば疑われ、正直に言えば怒りを買うかもしれない。そう思えば、当たり障りのないことしか言えなくなる。
村人にとって自分も、そのような相手なのだろう。
*
「今日の話だけで、あなたたちに賛成はできないわ」
リュシエンヌははっきり言った。
「分かった」
「国の昔の話も、まだ信じたわけではない」
「ああ」
彼女は少し間を置いた。
「ただ、自分が村人を知らないことは分かった。まずは彼らの話を聞けるようにしたい」
クラウスがうなずいた。
「領主が来るから集まれと命じず、先に村の意向を聞くのね。私の家臣が間に立つとしても、相手の気持ちを尊重させなければ…」
「こちらで困ったことなら教えられる。だが同じやり方でうまくいくとは限らない」
「ええ。私の領地のことは、私が考える」
リュシエンヌは立ち上がった。
「出所の話は、いずれ聞けるのかしら」
「話せるかどうかも含めて相談する。約束できるのはそこまでだ」
「分かったわ」
満足できる返事ではなかった。疑いも残っている。
それでも今度は、自分の領地で確かめたいことができていた。
*
帰りの支度をする家臣へ、リュシエンヌは言った。
「戻ったら、村の者と話す方法を考えたい。こちらが呼びつけるだけではなく、話したいことを話せるように」
家臣がためらった。
「三家と同じことをなさるのですか」
「自分の領地を知りたいの。どう暮らしているかも知らずに、皆同じだと思っていたくないから」
家臣は頭を下げた。
リュシエンヌはその顔を見た。自分の言葉に従っただけかもしれない。
村人だけでなく、この家臣が何を感じているかも、自分は知らないのだと気づいた。




