↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
PR
112/224

第112話 村で交わす言葉

家臣たちが村へ来た朝、ポルフィラは鍛冶場で道具を片づけていた。

管理者に案内されて来たのは二人だった。若い家臣は周囲の家を見回し、年配の役人は鍛冶場の入口で足を止めた。


ドランが火のそばから顔を上げた。

「俺がドランです。仕事をしながらで構いませんか」


若い家臣がうなずく前に役人が答えた。

「そのために来たのだからな」


ポルフィラは父の脇へ寄った。仕事を続けてよいと言われても、客を前に黙っていてよいのか迷った。


若い家臣も何を言えばよいか分からなかった。

村人にも節度を持って話せと、クラウスに命じられていた。普段は城で使う丁寧な言葉を、ここでも選ばなければならない。


金槌の音がしばらく続いた。


*


父が打ち終えた金具を置くと、家臣が尋ねた。

「並んでいる道具も、ここで直すのですか」


「ええ。畑で使うものも家で使うものもあります」


家臣は自分が身につけている短剣の欠けた刃を見た。

「これは、いつ直せますか?」


「今の仕事が終わってからです」


「なら明日までに直してください」

家臣が言いかけると、ドランの手が止まった。


「先に頼まれたものがあります。それに、これは柄も替えなければ使えません」


年配の役人が口を開いた。

「城から来た方に、できないと言うのか」


ポルフィラは父を見た。

話をしに来たはずなのに、いつもの命令になっている。


若い家臣は役人を制した。

「私が勝手に日を決めてしまった。優先しろと命じているわけではない」

それからドランへ向き直った。

「先に頼んだ方も待っているのですね」


「ええ。ほかで借りて仕事をしている者もいます」


家臣は並んだ道具を見直した。

城で見ていた報告には、修理した数が書かれていた。その一本ずつを待っている家のことは考えたことがなかった。


*


鍛冶場の外からガルの声がした。

「そこへ置くな。通れなくなるだろう」

弟と一緒に運んできた荷が、入口の前にあった。弟が言い返し、ガルも声を強める。


年配の役人は顔をしかめた。

「客が来ているのに騒がしい」


二人の声が止まった。


ガルが弟を自分の後ろへ下がらせた。ポルフィラにも見覚えのある仕草だった。


ドランが言った。

「ガル。荷は横へ寄せておいてくれ」


「はい」

ガルは弟と荷を動かした。二人とも役人の方を見なかった。


若い家臣は、その様子を黙って見ていた。

村人が大声を出したとき、自分も身構えた。だが兄弟が荷の置き場で言い合っただけだ。

自分の家でも似たような言い合いはある。そのときは、恐ろしいとは思わない。

二人が離れてから家臣は尋ねた。

「先ほどの二人は兄弟ですか」


「ええ。よく一緒に仕事をしています」

ドランが答えた。


家臣は外へ目を向けた。少し離れたところで弟がガルに何か言い、ガルが首を振っていた。こちらから離れて、ようやく話せるようになったらしい。


*


昼前になるとミレアがドランを呼びに来た。

「食事の支度ができたわ」


ドランは客へ顔を向けた。

「少し仕事を離れます」


「まだ話は終わっていない」

役人が言うと若い家臣が首を振った。

「仕事を止めさせないようにと命じられています。待ちましょう」


ポルフィラは母のそばへ行った。ミレアは客を一度見たが、家へ招かなかった。


食事を終えて戻ると、若い家臣は外にいた。

「次に道具を直すところも見せてもらえますか」


ドランはうなずいた。

「熱いものを動かすので、そこから離れていてください」


家臣は言われた場所から下がった。


ポルフィラは片づけを再開した。

皆が客を嫌っているわけではない。けれど一言間違えれば叱られると思っている。それは若い家臣にも伝わったのだろうか。


*


帰り際、若い家臣はドランに礼を言った。

「仕事中にありがとうございました」


ドランも短く頭を下げた。


二人が見えなくなると、ポルフィラは父へ尋ねた。

「疲れた?」


「少しな。仕事より、何を言っていいか考える方が疲れた」


ガルが鍛冶場の外から言った。

「弟まで叱られるかと思った」


「ごめんね」

ポルフィラが言うとガルは首を振った。


「おまえが怒鳴ったわけじゃないだろ」


ポルフィラはうなずいた。

来てもらってよかったのか、まだ分からなかった。父やガルが緊張したことも、クラウスには伝えなければならない。


*


城へ戻ると、二人はクラウスに呼ばれた。

「村ではどうだった」


若い家臣が答えた。

「兄弟が言い合っただけで、身構えてしまいました。あとから、自分の家でも同じことがあったと思い出しました」


「村人はおまえたちに何か話したか」


「ドランとは仕事の話をしました。ですが、皆が気を張っていたと思います。私も修理を頼んだわけではないのに、勝手に期日を決めかけました」


クラウスは年配の役人へ顔を向けた。

「おまえは何を話した」


「客の前で騒いでいた兄弟を注意しました」


「怒鳴られたのか」


「いいえ。二人で言い合っていただけです」


「それなら、客が来たからと黙らせる必要はない。暮らしを知るために行ったのだろう」


役人は目を伏せた。

「ドランは話の通じる男でした。ですが、ほかの者まで同じとは限りません」


「ほかの者は、話してみてどうだった」


役人は答えなかった。


クラウスは言った。

「話さずに決めつけるな。私たちにもいろいろな者がいる。村人も同じだ」


若い家臣はうなずいた。役人は黙って頭を下げた。

節度ある言葉を使えという命令は、二人とも聞いていた。それでも村人をどう見るかまでは、変わっていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。